66.オウムも見た目は逞しく
9月になった。
ミーはすっかり育ち、オウムというよりしっかり猛禽類に見えるようになった。深緑の羽は鮮やかで、その羽を広げると内側にオレンジ色の羽が見える。それはとても美しいと思った。
猛禽類に見えるは見えるが目は優しいから、よく見れば違うのがわかるんだが頼もしくなった印象である。もう少し涼しくなったら南の山にも行ってみる予定だ。
さて、写真館の予約は衣裳の手配の関係で一月後になった。それまで本山さんはダイエットをすると張り切って、普段は粗食に耐えることにしたらしい。別にもう少しふくよかでもかわいいのになと思ったが、それを言ったらだめよ! とばあちゃんに釘を刺されたので言わないでいる。
女心は複雑なようだった。
そんなわけで、籍を入れるのはその写真を撮った後にすることにした。俺たちは二人とも9月末で一旦役所を辞める。その後も勤めてほしいと言われているので11月から復帰する予定だ。もちろん俺は並行して別の仕事も探している。
「転勤しない仕事って意外とないもんだな」
昼休憩の時間に転職関係の雑誌を見ながら俺は唸った。
「転勤しないってなると職種も狭められますしね~。そういうのだと給料も安くありません?」
「そうなんだよな。だったらここで勤めてる方が何倍もいいんだが……」
だがさすがに結婚するのに役所のバイトってのはどうかと思うのだ。
「んー、俺はそういうのあんまり気にしなくてもいいと思いますけどねー。困ったら生活保護って手もあるじゃないですか」
「足りない分を補ってもらうってやつか」
「そうそう」
箪笥の解体をしながら仲間と話す。
「そう簡単にはいかないらしいぞー。まず生活保護の書類の受理をしてくれないらしいしなー」
「なんだよそれ」
みなで苦笑した。
「国民一人当たり月10万とか配ればみんな幸せじゃね?」
「残念ながら日本はケチなんだよ」
「ちげえねえ!」
言いたいことを言ってみんなでアハハと笑った。
ぶっちゃけ日本って通貨発行権があるんだから(一応日本銀行が独占)、国民に借金とか言われてもなぁとは思う。緊縮財政なんてやったって国民が苦しむだけだ。国民は生かさぬよう殺さぬようなんだろうか。少子化は止まらないし困ったものである。
日中の陽射しはまだ厳しいが、朝晩はかなり涼しくなってきた。徐々に日も短くなってきたように思う。
ごみピットからの匂いも薄まって感じられるのは気のせいかもしれないが。
金曜日の夜は必ずといっていいほど本山さんとデートをする。生理の時もそうでない時もだ。すっかり彼女の生理周期も覚えてしまった。10月中に新婚旅行へ行くことに決めた。
「ミーちゃんが寂しがりますから、あまり遠くへは行かない方がいいですよね」
ハワイなんてどうだろうと思っていたら本山さんがそう言って首を傾げた。
「ミー、なぁ……」
四泊六日ぐらいどうにかならないだろうか。
「ちょっとばあちゃんと相談してみるよ」
まぁ海外がだめなら熱海辺りでもいい気はする。二泊ぐらいしてのんびり過ごすのもオツなものだろう。
ばあちゃんに新婚旅行の話をしたら、きょとんとした顔をされた。
「そんなもの何泊でも行ってくればいいじゃない」
「いや、その間ミーをばあちゃんたちに預けておくことになるだろ? さすがに何泊も頼むのはまずいだろうし」
「せっかくの新婚旅行にそんな野暮なこと考えるんじゃないよ! どうせ海人が金を出すんだろうからハワイでも南極でも行きたいところへ行っておいで!」
いや、別に南極へは行きたくない。そもそも南極へはそう簡単に上陸できないと思う。
「結子がさ……」
ばあちゃんは嘆息した。
「新婚旅行じゃなきゃ行けないところだってあるでしょう? そんなの気兼ねすることなんてないのよ。あたしだってハワイには行ってみたかったわ」
「え? 新婚旅行は無理だけど、じじいと行ってくるなら金出すぞ」
「おじいさんと二人きりでハワイに行って何が楽しいっていうのよ!」
「……康代」
じじいの背中に哀愁が漂った。まぁ、奥さんは夫と旅行に行くより友達とかと旅行に行く方が楽しいっていうみたいだしな……。
「どうせだったら結子ちゃんと二人で行きたいわ!」
「却下」
「老い先短い年寄りに、たまには嫁を貸してやろうという優しさはないのかい?」
「その渡航費用は俺が出すんだろーがっ! 賛成するわけないだろ!」
そんなことをばあちゃんと言い合いながら、本山さんと結婚する準備は着実に進んでいた。
本山さんがうちで夕飯を食べて行く頻度も増えたし、週に一回はうちに泊まっていくようになった。ミーは本山さんが泊まった日は大興奮で、なかなか寝てくれなかった。
「ミー、いいかげん寝ろって……」
「キアーアー」
だが翌日本山さんを送って行ったら、ミーは目に見えて沈んでいた。なんともわかりやすいオウムである。
「本山さんとはそのうち一緒に住むことになるから、もう少し待ってろ」
「カイトー」
「ん?」
「カイトー、ヘタレー」
「この駄オウムが! まだ言うか!」
ミーはミーアミーアと鳴きながら家の中を飛び回り、俺がばあちゃんに怒られた。なんでだ。
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