58.梅雨から夏へ

 土曜日は曇だった。

 金曜日も曇だったので、それほど湿気ってはいないだろうと思う。タロウとミーも一緒に連れて行って山の入口辺りの手入れをすることにした。当然ながら本山さんも一緒である。

 デートが山の手入れとか、本気で色気がない。一応昨夜も一緒に過ごしはしたんだがな。

 土は水分を含んでいるかんじがする。山の上には行かなくて正解だ。ただ雨が続いているせいか雑草の伸びがすごい。様子を見てから家の周りの草を抜くことにした。


「これ、多分先に上の方を刈り取った方がいいかもしれません」

「そうだな。電動のでとりあえず刈るか」


 というわけで抜くのではなく刈ることにした。


「そういえば、本山さんのところの山は大丈夫なのか?」

「ええまぁ……家を継ぐのは兄ですから私はノータッチです」

「そっか」


 確かに、言っちゃなんだけどあの兄さんは人に任せたら任せっきりにしそうだしな。でも人の兄だからそんなことは言わない。

 タロウとミーは気がついたら泥だらけになっていた。そうだよな、そうなるよな。連れ出した俺が悪かったよ。

 幸い暖かいので外の水道で一頭と一羽を洗った。ぶるぶると震えられて俺は水浸しになった。うん、そうなることはわかってたよ。本山さんには避難してもらっていたから彼女は無事だった。


「山越さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫。濡れただけだ」


 昼には止めて家に入った。


「梅雨の合間なんかで作業するもんじゃあないよ。晴れてもいないのに」


 ばあちゃんにそう言って笑われた。


「タロウとミーを出したかっただけだ。運動不足だろ」

「そうねぇ。梅雨は困るわね。秋も秋雨があったりするし、雨が多いのも困りものね」


 でも雨が降らなければ水不足になるだろうし、作物だってそんなにはできない。あ、でも作物はまだ日照りの方がいいんだっけか? よく知らないが。

 どちらにせよ、雨は重要だ。

 ……過ぎたるは猶及ばざるが如しともいうが。

 かなり濡れたので服を着替えた。本山さんも作業着からワンピースに着替えている。(念の為着替えを持参してほしいとは言ってある)


「お昼ご飯の後はデートかしらね?」


 ばあちゃんが嬉しそうに聞いた。


「そうだな。今日はこれ以上作業できなさそうだし」

「そう、楽しんでいらっしゃい。海人も結子ちゃんも働きすぎだから」


 ばあちゃんはそう言って笑った。本山さんはほんのりと頬を染める。かわいいからやめてほしい。

 ミーの羽は内側がキレイなオレンジ色だった。身体は確実に大人になっているようである。洗われたことで疲れたのか、今はタロウの上に倒れている。そういうところはヒナのまんまだなと思う。

 本山さんとは夜まで一緒に過ごした。まるで恋したばかりの高校生のようにお互い離れがたかった。


「海人さん、大好き……」

「結子、俺も好きだ。でもあんまり言うなよ」


 我慢できなくなるから。

 大人だからすることもする。

 タロウには先日「お前オオカミなんだってな」と聞いた。

 タロウは、だからなんだっていうのよという態度だった。確かにタロウ本人が犬だろうがオオカミだろうが本人には何も関係ないことだ。


「これからもばあちゃんとじじいを頼む」


 タロウは何言ってんの? というような目をしてそっぽを向いた。タロウにとっては言われるまでもないことだったらしかった。すまん。

 梅雨が明けるまでは、湯本さんちに行って養鶏場のことを聞いたり、山の様子などを話したりして過ごした。湯本さんも、湯本さんの山の裏側に川が流れていることは把握していた。ただ遠いのでなかなか使わないようだ。確かに山の裏側まではまず行かないよな。

 養鶏場は事前に電話すれば訪ねても問題ないらしい。ただ養鶏場の鶏肉が欲しいという話であれば雑貨屋でも一部扱っているし、豆腐屋でも買えるとは聞いた。なんで豆腐屋でと首を傾げたら、おからを養鶏場で引き取っているからだという。おからはそのまま捨てると産業廃棄物だが、鶏の餌になるならごみにはならない。無駄にならなくていいことだと思った。

 七月の中旬頃、梅雨が明けた。


「あち~……」


 粗大の仕事は基本外だ。中でやっててもかなり暑い。水をがぶ飲みし、塩を舐めて作業をしていた。それでもここで作業しているだけだから俺らはまだましだと思う。

 収集業者はたいへんだ。炎天下でも走ってごみを収集しないといけないし、燃えるごみも燃えないごみも臭う。でもごみを捨てる方はそんなこと考えない。生ごみだろうがなんだろうがただ袋に突っ込んで出すだけだ。


「もう少しごみを扱う人のことを考えてもいーんじゃねーかな……」


 うちは粗大だからあんま関係ないと思ってると、平気でタンスとかにごみを入れたまま出す奴とかもいるし。おかげで収集してすぐに確認しないと使えるものも使えなくなっちまったりする。


「捨てたらみんな忘れちまいますよねー、俺もそーだし」

「ちげえねえ!」


 仲間が笑う。


「あ、でも串とかは折ってチラシに包んで捨てたりはしてます!」

「それはえらい」

「割れたビンとかは紙袋に入れて出してる!」

「それもえらい」

「刃物は紙に包んで危険物に!」

「めちゃくちゃえらい」


 ちまちましたことだが重要だ。そんなことを言いながら笑う。

 八月には両親と叔母さんが来るようなことを言っていたなとふと思い出した。さすがにそこで有休は使おう。

 楽しみなような、面倒なような、なんともいえないかんじだった。



ーーーーー

ごみの出し方は自治体によって違います。お住まいの捨て方を調べてくださいませー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る