49.おばさんの料理はとてもうまい

「鳥って首掴んで平気なのか?」

「かえって胴体掴むと息が止まっちまうんだと」

「へえ」


 相川とそんなことを言いながら湯本さんの家へ。


「ミー、毛づくろいしろよー」


 家の中に入る前に声をかけたら、ミーは慌てて羽づくろいし始めた。


「頭いいなぁ。このへんの鳥ってみんなこんなかんじなのかもしれないな」


 相川が感心したように言った。


「うちのはこの辺りの鳥じゃねえぞ」

「? どこで買ったんだ?」

「買ったんじゃねえんだ」


 そう言って相川にも経緯をかいつまんで話した。思い出すだけで腹が立ってくるが、できるだけ冷静に話したつもりだった。それでもおじさんが難しい顔をした。そんな顔をさせたかったわけではない。ミーは羽づくろいを終えると入ってきて、


「キーアアー」


 と得意げに鳴いた。


「キレイになったのか。よかったな」


 そして今度は玄関先に寝そべったタロウをつつき始めた。タロウにも虫がついていたらしい。なんとも熱心なことだと苦笑した。


「……そんなことがあったのか。ひどいことをする奴もいるものだな」

「全くだよ。生き物を飼ったら最後まで責任取らないといけないよな」


 もちろん飼主に何かあって面倒が看られなくなる可能性もないではないが、飽きたからとか、言うことをきかないからとか、そんなことで捨てていいものではないはずだ。

 玄関横の居間に上がる。本山さんがお茶とお茶菓子、そして漬物を持ってきてくれた。


「お料理、すぐに運んできますけど……お茶菓子は一応です」

「結子ちゃん、ありがとうな」

「いえいえ」


 おじさんが当たり前のように礼を言った。礼を普通に言えるっていいよな。

 ミーはタロウをつつくのに飽きたのか、トンットンッと居間に上がってきた。器用なことである。


「ミーにあげられるものなんかねえぞ?」

「キーアー」


 ミーが抗議するように鳴いた。


「皿もらってきてやるから待ってろ。相川、ちょっとミーを頼む」

「ああ」


 土間に下りて動物の餌やりに使えるような皿がないか聞いた。


「ミーちゃんとタロウちゃんよね? すぐにごはん用意するから待っててちょうだい」


 おばさんが当たり前のように言う。


「ミーちゃんも土間で食べるんじゃだめかしら?」

「いえ、大丈夫です」


 人んちだしな。うちのようにはできない。

 おばさんが手早く用意してくれたのでタロウとミーを呼んだ。居間の中を見たら、ミーが相川の前でトントン足を動かしている。それはまるで踊っているみたいだった。


「ミー?」

「相川君は鳥にもモテるんだなぁ」

「ははは……」


 相川は乾いた笑いをした。あれ? ミーってメスだったのか? でも自然界で求愛行動をするのは普通オスだしな。オウムってどうやって性別判断するんだ?


「相川、ミーってどっちだと思う?」

「うーん、オウムは見た目だけじゃ性別がわからないし。多分オスじゃないかって俺は思ったんだけど。あくまで勘だから」


 先に断られてしまった。まぁどっちでもいい。どちらにせよ、今のところミーの相手はいないしな。それにまだヒナだし。


「ミー、湯本のおばさんが飯だってよ。土間に下りてくれ」

「ミーアー」


 ミーは素直に土間に下り、タロウと一緒に大人しく餌入れから野菜や細切れにされた肉などを食べた。


「おばさん、ありがとうございます」

「いいのよ~。うちの山の手入れを手伝ってくれるんだもの。それにタロウちゃんとミーちゃんは今日もお手柄でしょう? 結子ちゃんに聞いたわよ」


 おばさんはにこにこしていた。

 今日の昼飯も豪勢だった。アスパラのミモザサラダ、ツルムラサキのお浸し、空心菜のニンニク炒め、ナスのはさみ揚げ、シイタケの肉詰め、野菜の天ぷらが山盛りで出てきた。


「揚げ物ばっかりだけどいいかしら?」

「おいしいです!」


 ゴーヤチャンプルーも出てきた。農家は野菜が豊富でいいよな。俺は好き嫌いが特にないからもりもり食べさせてもらった。もちろん煮物も出てきた。シイタケをふんだんに使った煮物は最高だと思う。がんもどきと一緒に煮られていた。がんもどき、好きなんだよな。


「あ、そうだ。シイタケもらってくれないか? 本山さんも」


 相川が思い出したように言った。


「シイタケ?」


 と聞き返して、どっかで聞いた話だなと思った。どこでシイタケのことを聞いたんだっけか? 最近物忘れをするようになって困る。

 軽く首を傾げて、先日原木を植え過ぎた知り合いがいるという話を湯本のおじさんから聞いたことを思い出した。


「……原木を植え過ぎたって……」


 相川は顔をスッと逸らした。やっぱりやらかしたのは相川だったらしい。やることなすこと超人めいていた相川だったが、たまにそういうポカをやらかすのだ。そのギャップで余計に女子学生には人気があった。

 ちょっと嫌なことを思い出したが、過去のことだからと記憶に対して念入りにまた蓋をした。


「凝り性は変わんねえな。ありがたくもらってくよ」

「よろしく」


 このイケメンの欠点(?)を思い出しておかしくなった。今日も湯本のおばさんの料理はおいしかった。本山さんはおばさんに料理のポイントなどを聞いていて、それはそれで楽しそうだった。

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