47.どんなに見回りをしても漏れはあったりする

 今日は湯本さんの山の手入れもそうだが、害獣がいないかどうか確認する為に相川も来たのだという。

 相川は狩猟免許を持っているそうだ。


「まだ狩猟時期ではないから、猟銃は持ってきてはいない」


 と言っていた。すぐにわかったことだが、相川は女性が苦手になっているみたいだった。女関係で何かあったのだろう。俺と違ってモテる奴だったしな。

 無理に聞きだす必要もないので、そのことについては触れなかった。本山さんも相川が女性が苦手だと気づいているのか、近づこうとはしない。

 先頭は湯本のおじさんで、本山さんが次、俺、相川の順で山に登った。もちろんタロウとミーも一緒である。今回は移動が主なのでミーはリュックの中から顔を出した状態である。時々「キーアアー」と鳴いている。ご機嫌でいいことだ。

 今までけっこうイノシシが獲れているという。


「そんなにイノシシがいるのかよ」

「おそらく深山で増えてしまって里へ下りてきているんだと思う。あまりこちら側の山は狩りをする人がいなかったらしいんだ」


 本格的に湯本さんの山に入るようになったのは一昨年かららしい。(正確には一昨年の前年の秋以降)本山さんの家の山も入ったことはあるそうだ。


「山の手入れなんてホント、俺もどうしたらいいかわかんねえよ」


 苦笑してそう答えた。


「人は頼んだんだろ?」

「最初はな。一気に手を入れないと嫌になっちまうと思ってさ」

「正解だ」


 相川と笑った。今までどうしていたのかとかは聞かなかった。そこに女性が苦手になる要因があったのだろうから。

 ローラー作戦ではないが、ある程度上がってから手分けして動物の巣の痕跡などを探すことになった。枝などもちょうどいい大きさのものは薪として使えるから回収しておく。俺は本山さんと二人でうちの土地の方面を見回った。

 一時間ぐらい見て回り、休憩をしようかと思った頃、なんかおかしなくぼみを見つけた。


「あれ? これ、穴じゃないか?」

「それっぽいですね……思ったより大きそう……」


 土中というか、草で入口が隠されているように見える。横に向かって歩いてきたから高さはそれほどない場所である。スマホを取り出した。一応電波は届くらしい。相川と連絡先のやりとりはしたのでLINEを入れた。


「動物らしき穴発見」


 と書いて。しばらくもしないうちに「どこだ?」と返ってきた。


「西側。別れた場所からほぼまっすぐ横方向」

「わかった」


 10分もしないうちに湯本のおじさんと相川がやってきた。よく見つかったなと思う。


「そこか」


 おじさんが機嫌よさそうに言う。


「どうすっかな」

「燻すのが早いですけど、火事になると困りますね」

「棒でも突っ込むか」

「えっ、危険じゃないんですか?」

「この大きさならイノシシじゃあねえだろう。周りに落ちてるっぽい毛も違うしな。おそらく、いてもハクビシンってとこだ。こんなところに巣を作ってるってこたあ下りてくるのも時間の問題だ。タロウ、ミー、頼むぞ」


 おじさんが声をかけると、タロウとミーはすぐに臨戦態勢を取った。おじさんが長い、比較的まっすぐな枝を探してきて穴をめがけて突き入れた。

 キィーーー!!

 何かいたらしい。

 二匹ぐらい飛び出してきたのを、タロウとミーが即座に捕まえた。ミーは捕まえたというより上に乗っかったような形である。相川が急いで抑えつけた。その動きはあっという間で、俺は何もできなかった。


「ええっ?」


 キィーー!! と鳴くのを相川が手早く始末した。タロウが抑えたのはもう事切れている。すげえなタロウと思った。


「やっぱハクビシンだったか。まだ子どもがいないかどうか探さないとな」


 巣自体を壊してみたりもしたが、それ以上はいなかったらしい。


「相川君、秋本に連絡を頼む」

「わかりました」


 あれ? ハクビシンって害獣指定されてたっけか? まぁ、タロウが勝手に獲ったならいいんだろうな。どうせ売ったりしないだろうし。


「……何もできませんでした……」


 本山さんが呟いた。それに頷く。


「俺もだよ」

「巣を見つけてくれただけで十分だ。おそらくだが、ここにこの二匹がいたってことはもっとどっかにいるな。山越君が見つけたハクビシンももしかしたらコイツらの家族だろう。繁殖力が強いから困るんだよなぁ」

「秋本さん、すぐいらっしゃるそうです」

「ソイツぁ助かるな」


 おじさんはそう言ってにかっと笑った。ハクビシン二匹は相川が担いだ。


「裏の方にいるならいいですが、こっち側に巣を作られると厄介ですね」


 相川が難しい顔をしながら呟いた。


「全く……イタチごっこだよな。幸いこっちじゃシカは見ねえが……山越君は早めに裏山を見にいったほうがいいな。何が増えてんだかわからねえからよ。シカが増えてっと、下手したらハゲ山にされちまう」

「木の芽とかを好んで食べるんでしたっけ」

「そうなんだよ。うちじゃあねえけどそのうちシカ肉も誰かが持ってくるだろうから、そしたら声かけるな~」


 この村はジビエ祭りなんだろうか。


「本山さん、シカって食べたことある?」

「はい、ごちそうしてもらったことならありますよ」

「そっか」


 山間の村では食べたことがないものが食べられるらしい。もちろん自分たちで捕獲をするようだろうが。

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