46.夫婦ってのは

 金曜日の退勤後は、モールのレストランで夕飯を食べ、ホテルに寄ってから帰った。

 雑貨屋へ寄ったりしたので、ミー用のおもちゃも買った。プラスチックの小さいボールである。つついて穴を空けたりするようなら没収だが、そこらへんは様子を見ることにしたい。動物も子どももそうだが、何をしでかすかわからないところがあるからな。

 俺が帰った頃には、ミーは籠の中に入って寝ていた。カバーをかけられているのでそっと確認した。


「おかえり、海人」

「ばあちゃん、寝ててよかったのに」

「ちょっと寝付けなくてねぇ……」

「そっか」


 ばあちゃんは不眠症の気もあるらしい。じじいはいつも高いびきだが、ばあちゃんは夜中に何度も起きたりするというから心配だ。


「たまに昼寝だってしてるから大丈夫よ。おじいさんもよく日向ぼっこしながら寝てたりするしねえ」

「じじいはそういうことうるさく言わないか?」


 ばあちゃんはうふふっと笑った。


「あたしには甘いのよ」

「……ならいいや」


 ノロケられてしまった。あんなじじいだが、ばあちゃんに優しいならそれでいい。夫婦ってのはホント、傍から見てもわからないもんだよな。

 土曜日はまた湯本さん宅へお邪魔することになっている。明日は桂木さんではなく他の人が来るらしい。

 顔合わせも兼ねてみたいなことを言われた。確かに俺はこの村に全然知り合いがいないから、顔つなぎはしておいた方がいいだろう。

 そんなことを言ったら会合みたいなのには出た方がいいんだろうか。じじいも全然参加してないみたいだしな。

 そう土曜日の朝に聞いたら、


「あんなもん参加するもんじゃねえ!」


 と怒られた。ミーがびっくりしてピョンと跳ねたのが楽しくて笑ったら、悪いのは俺じゃないのにつつかれた。ミーの俺への扱いはひどいと思う。


「なんで会合に参加しちゃいけないんだよ?」


 ばあちゃんが苦笑した。


「ああいうのは夫婦で出るものだからねぇ」


 それを聞いてやっと合点がいった。じじいはばあちゃんに負担をかけたくなかったようだ。自分が行けばばあちゃんも必然的に料理などを作る為に参加しなければいけない。なんだ、じじいはやっぱばあちゃんには優しいんだな。微笑ましく思って、軽く頷いた。

 タロウには荷台に、ミーには小さめの籠に入ってもらい本山さんを回収して湯本さん宅へ向かった。今日もメインは山での作業だから作業着だ。でもいつも通り外で待っていてくれた本山さんは輝いて見えた。しょーがねーだろかわいいんだから。


「山越さん、おはようございます。えっ、ミーちゃん助手席にいたの?」


 一応助手席に籠を紐でくくって固定はしておいたのだ。


「籠とかを固定できるようなものがあるといいですね」


 そう言って本山さんがミーの入った籠を抱えてくれた。


「ユーコ、チャン」

「ミーちゃん、おはよう」

「ユーコ、チャン。オハヨー」

「うわー、かわいいー」


 ミーと本山さんが楽しそうで何よりだった。すぐに湯本さんちに着いた。見慣れない軽トラがすでに停まっていた。きっとこれに乗ってきた人がそうなんだろうな。ちら、と見たら助手席がない。頭に?が浮かんだ。何かでかいものを大量に運んだんだろうか。


「本山です、おはようございます~」


 本山さんが呼び鈴を押し、ガラス戸をカラカラと開けて挨拶した。


「あら、結子ちゃんおはよう。まあまあミーちゃんとタロウちゃんもいらっしゃい」

「本日もお世話になります」

「おお、来たか。山越君は?」

「おはようございます」


 本山さんの後ろから挨拶した。


「山越君も来たか。じゃあ出かけるか」

「ちょっと、お茶の一杯ぐらいいいじゃないの。それに紹介もしていないでしょう?」


 居間から出て立ち上がろうとしたおじさんをおばさんが制した。


「ああ、そうだったな。お茶頼むわ」

「おかまいなく」


 一応自前でペットボトルも持ってきている。


「飲んでけ飲んでけ」


 おじさんに言われて上がった。ミーは家の中をうろうろされても困るから籠の中だ。タロウは玄関の土間に寝そべった。


「お邪魔します」


 玄関の横の居間に足を踏み入れたら、どこかで見た奴がお茶を飲んでいた。


「「えっ?」」


 思わず、お互い声を上げた。お互いってことはあっちも意外だったらしい。俺と同じく名前も聞いていなかったのだろう。


「山越さん?」


 本山さんが首を傾げた。


「……山越?」

「相川か?」


 なんてタイムリーなのか。大学時代、つるんでいた友人がこの村にいるとかどういうことなんだ? ちなみに株を教えてくれたのはこの友人である。全然連絡を取ってはいなかったが足を向けて寝れないとは今でも思っている。


「なんだなんだ。相川君と山越君は知り合いだったのか」

「え、ええ……そうですね……」


 相川が呆然とした顔で答えた。


「はい、学生時代の友人です。この村にいるとは知りませんでしたが……」

「この村の所属ではあるけど、僕が住んでいるのは山なんだ。山越はどうしてここに?」

「祖父母の家が二軒隣にあるんだよ」

「……灯台下暗しだな」


 そう言ってお互いに笑った。俺としては学生時代の友人に会えたことは嬉しかったが、相川は困ったような顔をしていた。会わないでいたこの十年で、何かあったのかもしれなかった。


ーーーーー

みんな大好き相川君!(何

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