45.少しずつお互いを知っていく
平日は普通に出勤する。
朝普通に本山さんを迎えに行って、なんとなくポツリポツリと話しながら職場に着いて、お互い別々の場所で仕事をして、帰りは一緒に帰る。なんとなくだけど、金曜日の帰りはデートをすると決めた。一週間がんばって働いたご褒美ってやつだ。つってもこの辺りはショッピングモールとホテルぐらいしかないんだが。
「本山さんは映画とか興味ある?」
「映画、ですか……最近全然観ていませんね」
「映画館がモールに併設されてるみたいなんだけど、今度行かないか?」
「山越さんが行きたいのでしたら……」
ちょっと引っかかった。
「不満があるなら言ってほしい。俺に合わせなくていいから」
「いえ……その……実は私映画館の音が苦手なので、できれば家とかで一緒に観れたらいいかなって……。それに、映画館に行ったら静かに一緒に見てるだけじゃないですか。その時間があったら、もっといろんなこと話したいなって……」
そのままラブホに連れ込まなかった俺を褒めてほしい。いちいち彼女は俺のツボにはまった。
「じゃあ、もし俺が映画館で映画を観に行きたくなったら一人で行くから」
「はい、すみませんがそうしてください」
前の彼女はなんでも一緒にしないとすぐに機嫌悪くなったなとか、どうでもいいことを思い出した。それと同時に、そういうことは状況に合わせてアップデートしていかなければいけないとも思った。そういう意味ではよく体調を崩していた母の言が役に立っている。
「あー、そうだ。前にも言ったと思うけど、俺ははっきり言ってもらえないとわからないから。だから察してとかは勘弁な」
世の中の旦那さんに不満を持つ奥さんもちゃんと不満は伝えた方がいいと思うのだ。もちろん相手にもよるんだろうけど、喧嘩もできない夫婦なんてどうかと思う。(結婚もしてないのでこれはあくまで俺の想像による意見だ)夫婦の形はその夫婦の数だけあるのだろう。
この時期ごみの量は多すぎもせず、少なすぎもせずというかんじだ。六月は祝日もないからそれほど片付けもしないのだろう。なかなか引っ越しとかも聞かないしな。
しかし小学生の見学は来るそうだった。メインは可燃のピットと燃焼室の様子を見ることだろうか。大体粗大ごみ置き場なんてスルーされるのが普通である。なので別に気にすることもなかった。
だがその日は違った。なんだか熱心そうな子が来て、
「そういう頭でもここでは働けるんですか?」
とキラキラした目で聞きにきた。粗大の仲間と苦笑した。
「俺たちはバイトだし、こういう仕事に見た目はあんまり関係ないんだよ」
と言ったら「そうなんですか?」とわかったようなわからないような顔をして帰って行った。ああいう子はこういうところで働くことはなさそうだから、きっと一生理解できないだろう。それはそれでいいのだ。いろんな仕事をする人がいるから社会は成り立っているのだから。
ってそんなたいそうなことはしてないけどな。
小学校の見学の他にも個別になんかの団体とかが見学に来ることもある。粗大ごみの量なんかはたまに聞かれることもあるが、今の時期はそんなに多くないぐらいしか俺らには言えない。正確な数は事務所の方で把握しているだろう。持込ごみの分析まではしてないだろうが。(重量制なだけである)俺たちはただ与えられた仕事をこなすだけだ。
七月ぐらいにバザーをするから売れそうなものはないかと職員に聞かれた。粗大で出すとしたら箪笥ぐらいじゃないか? 電化製品は動作とか、故障した時の保証ができないから売らないことになっている。
いつもの帰り、本山さんは少し疲れた様子だった。
「お疲れ」
「いつもありがとうございます……ちょっと、疲れました」
「どうかしたのか?」
「ごみをどこに出したらいいかっていう電話でちょっと……」
「ああ……たいへんだな」
ちょっとした言動でクレームになったりするから面倒そうだ。
「ちょっと愚痴ってもいいですか?」
「いいよ」
聞くだけならできる。
「プリンターを捨てたいとおっしゃるので、粗大ごみにお申込みをお願いしますと案内したんです。そうしたら修理したらまだ使えるんだからリサイクルとかしないのかって、もったいないじゃないって文句を言われてしまって……」
「そうか、たいへんだったな」
「捨てる本人がもったいないって言うの、おかしくありません?」
「そうだよな」
もったいないというなら修理して自分が使えばいいだろう。自分が捨てるのにもったいないなんて言ってはいけないと俺も思う。
「私では粗大ごみ以外への案内はできないので職員さんに電話を代わってもらったんですけど、なんか釈然としなくて」
「俺もそれは釈然としないな。まぁでも、粗大で出すと金がかかるからとかそういう理由じゃないか?」
「えええ? プリンターだったら大きさによりますけど200円ぐらいですよ? 信じられない!」
「世の中いろんな人がいるからなぁ。本当にお疲れ様」
「そうですね。聞いてくださってありがとうございます」
そんなことを言いながら苦笑して帰った。本当に、いろんな人がいるのだ。
本山さんをいつも通り送り届けて、家に戻るとミーが居間の端っこで俺を出迎えてくれた。
「ミー、ただいま」
「キーアアー!」
バサバサと羽を動かして喜ぶミーが素直にかわいいと思った。
「手ぇ洗ったりしてくるから待ってろよ」
ズボンの裾辺りをミーがつつくからそのままにさせた。気が付くと虫がついているものだ。
そして、
「カイトー、タダイマー」
とミーが言った。
「それを言ったらおかえりだろ?」
本当に頭のいいオウムだと、ますますかわいく思えた。その後「カイトー、ヘタレー」とか言い出したから殺意も芽生えたのはしょうがないことだろう。
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