40.またごちそうをいただいた

「アンタッ! いったいなんてことすんのっ! ミーちゃんが怪我したらどうするつもりだったのよっ!」


 おばさん的にやっぱりあれはアウトだったらしい。おじさんが話し、おばさんにめちゃくちゃ怒られていた。


「でもよぉ……」

「でももカカシもないんだよっ! オウムの狩りを邪魔するようなことするんじゃないよっ!」

「ああ、まぁ、なぁ……ミー、すまなかったな……」

「ミーアー?」


 ミーはなんのこと? と言うように首をコキャッと傾げた。うん、この仕草はかわいい。しかしさっきマムシの頭を飲み込んでたぞ。大丈夫か。ちなみにマムシの胴体はおじさんがにこにこしながら持って帰ってきた。


「かば焼きにでもするか。ミーも食うか」

「キーアアー」


 餌をくれる人は総じていい人らしい。ミーのおじさんとおばさんへの甘えっぷりがすごい。飼主は俺じゃないのかよ。

 少し早く戻ってきたせいか、まだ料理は準備途中であったようだ。本山さんが当たり前のようにエプロンをつけて台所の手伝いに向かった。


「……なんか、ああいうのが釈然としないんですよね」

「ん? ああいうの?」

「女性は台所仕事をして当然みたいなの、ですよ」

「ああ……」


 おじさんは少し考えるような顔をした。


「まぁ、やりたい奴がやればいいんじゃねーかとは思うがな。うちのは台所仕事の方が好きだしな。本山の娘さんは苦手そうなのか?」

「そういうわけじゃないんですけど、山の手入れもしてるのにって考えてしまうんですよ」

「うちのは別に手伝わなくても気にしないだろうがな」

「でも村全体で見たらそういうわけにいきませんよね」

「まぁこういうのは役割分担だよ。俺たち男は力仕事をする。他にやってくれって言われたことはやるさ。夫婦(めおと)になったらそこらへんは話し合えばいい。お互いに不満抱えてよそで愚痴ってるなんてのはよくないからな」

「そうですね」

「どんなに仲良くたって喧嘩はするもんだ。喧嘩しないでどっちかがどっちかを押さえつけるようじゃいけねえ。それだけは覚えとけよ」

「はい」


 女性は弱いものだ。大切にするものだと教えられて育ってきた。歳の離れた妹は生意気だし口答えもひどかったが、小さくて弱いのだからと耐えた。でも決して嫌いではない。先日の本山さんの兄妹喧嘩を聞いて、あそこまで激しくはないがなんとなく懐かしく思ったのは確かだった。

 妹って口撃(造語)が容赦ないよな。実の妹があんなことを言っていたらうんざりだが、本山さんが実の兄に対してひどいことを言っていても気にならなかった。

 やっぱ俺、本山さんのこと好きだったんじゃないか。


「お待たせ~。どんどん食べてね~」


 おばさんと本山さんがにこにこしながら料理を運んできた。


「もらったシイタケが沢山あるからシイタケ料理よ~」

「もらったシイタケ」


 シイタケってもらえるものなのか。


「調子に乗ってシイタケの原木を植えまくった人がいてねえ。毎年大量に採れるからっていただいてるの。うちとしてはありがたい限りだけどね」


 おばさんはそう言って笑った。

 スナップエンドウとシイタケの中華炒め、シイタケの肉詰め天(他にも天ぷらが山ほど出てきた)、茄子の揚げ浸しにシイタケのスライスを乗せたもの、とシイタケづくしだった。かき玉汁にまでシイタケが入っていた。うまいからいいと思う。


「シイタケの原木を植えまくったって……どんだけですか」

「山に住んでる人だからねぇ。どれぐらいでできるかとか最初は調べもしないでやってたらしくてね。できるようになったらわんさか獲れたって悲鳴を上げてたわ」

「それっていつ頃なんですか?」

「去年? それとも一昨年だったかねぇ? 大体三年ぐらいは何もしなくても時期になれば沢山できちゃうからシイタケがそろそろ嫌いになりそうなんて言ってたわ~」

「へえ~。いろんな人がいるんですね」


 本山さんはそう言ってコロコロ笑った。

 本当は午後も作業をしようかと思っていたが、食べすぎてしまってそれどころではなかった。今日のところはだいたいイメージができたからいいとは思う。


「後は土嚢作りですかね」

「正直土砂崩れなんかあったら土嚢なんざあんま役には立たねえからなぁ……」


 おじさんが苦笑して言う。


「やっぱり普段から手入れが必要ってことですよね」

「そういうこった」


 鶏肉とシイタケ、人参、玉ねぎ、こんにゃくの煮物などもおいしかった。


「ごった煮で悪いけどねぇ。ジャガイモがあるかと思ったらなくてね」


 そんなこともあるらしい。


「いえ、おいしいですよ」


 こういう、名前がないような田舎煮も俺は好きだ。マムシの白焼きは最後におじさんが焼いていた。

 明日は自分のところの山の手入れをすることにして、また来週も来ることにはなった。何せ山の範囲が広すぎる。少しでも手入れをしておこうと思う。

 ミーは鶏のささみと野菜をもらい、おいしそうに食べていた。タロウは鶏肉をいただいた。ありがたいことである。

 つか、山の手入れの手伝いをしても湯本さんの方が損してるんじゃないかと心配になった。


ーーーーー

シイタケの原木とかどっかで聞いたような(謎

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