39.二軒隣の山を登る
土曜日は本山さんと一緒に湯本さん宅へお邪魔した。
本山さんと正式に付き合うことになったということは、月曜日に電話で知らせていた。湯本夫妻は大喜びですぐ来いやれ来い祝ってやる! と言ってくれたが平日は仕事なので断った。
「あー、そっか。普通は勤めてるもんだよな」
電話口の向こうで、おじさんが微妙なことを言った。自分は定年でずっと在宅だからだろう。どうしても村は年寄りが多いから、毎日が日曜日状態なのだと思う。あとは曜日関係なく畑仕事とかだな。農家が多いから九時五時で勤めている人が少ないのかもしれない。
さて、山の手入れということで俺も本山さんも作業着である。その状態で来たらおばさんが嘆いた。
「何も挨拶に来た日にそんな恰好じゃなくても~」
「すみません……」
「ごめんなさい……」
作業のつもりで来たからだった。
「何言ってんだ。二人とも山の手入れに来てくれたんだろ。恰好ぐらいでガタガタ言うな!」
「そんなこと言ったって、結子ちゃんがますますキレイになって来てくれるって思ってたのよぉ~」
俺は本山さんと顔を見合わせた。本山さんの髪は邪魔にならないようにお団子になっているが、十分かわいいと思った。
「おばさん、結子さんは今日もかわいいですよ」
素直に言ったら本山さんがその場に座り込んだ。
「あらあらあらあらまあまあまあまあ」
おばさんの目が輝いている。この辺りのおばさんはその言い方が流行っているのだろうか。
「もー! ぜんっぜんなかった恋愛成分がここにっ!」
おばさんが何故かすごく興奮している。
「アイツらに恋愛を求める方が間違いだと思うんだがなぁ……」
おじさんが頭を掻いた。おじさんがいう「アイツら」が誰を指しているのかはわからなかったが、おばさんには満足していただけたようである。
「ミアーアー!」
ミーが紹介しろとばかりに鳴いた。そういえばミーとタロウのことをすっかり忘れていた。失礼なことである。タロウにはアンタ忘れてたでしょというような目で見られた。すまん。
「あ、すみません。こっちがミヤマオウムのミーで、こっちが犬のタロウです」
「タロウは前にも会ったな。今日はよろしくな」
おじさんがにかっと笑った。
「ミー、湯本のおじさんとおばさんだぞ。ばあちゃんが湯本のおばさんの料理は上手だって話してただろう?」
「あらまあ! そんなこと言われたら腕によりをかけて作らないとね! ミーちゃん? よろしくね! この子の餌は野菜でいいのかしら?」
「それが……野菜も食べるのですが肉食なんですよ」
「へえー! オウムなのに肉食だなんて珍しいわねぇ」
おばさんは感心したように目を見開いた。
そんなことを話してから、湯本のおじさん、俺たち二人、ミーとタロウとで山に上ることになった。こちらの山の様子を確認する為である。
「昼頃には戻るからなー」
「はーい! いっぱい作って待ってるからね~!」
おばさんは料理をするのが好きらしい。食材を見ているとわくわくしてくるのだそうだ。それはすごいなと思った。
湯本さんの畑から少し急な坂道を登っていく。以前はここを軽トラで上ることもあったそうだが、今は危ないので上っていないらしい。舗装されているわけでもないから雨でも降ったらかなり危ない。おじさんから聞きながら相槌を打った。
それにしてもタロウは本当に寡黙だと思う。強い犬ほど吠えないと言うが、そうなるとうちのミーは……。ちら、と肩掛け鞄の中に収まっているミーを見たら、何か感じ取ったのかつつかれた。
「こらっ! ミー、つつくな。いてえって!」
「動物は敏感だからなぁ」
おじさんが笑う。
「山越さんとミーちゃん、本当に仲良しですよね~」
嬉しそうに本山さんが言った。そういうことではないのだが、彼女が楽しいならいいのではないかと思った。だがそろそろつつくのをやめろ。
途中の、柿の木が植わっている辺りまではキレイに整備されていた。その先もしばらくは湯本さんの土地らしいが、さすがにそこまでは手が回らないと言っていた。
一応うちの土地との境辺りまで登った。
「やっぱひどいですね……」
上がれば上がるほど木の密集度が高い。北側の山は自然林が多いが、こっちはほぼ人工林だ。人工林は手入れをしっかりしなければすぐにひどいことになってしまう。一応人が住んでる側の山が人工林で、うちの更に南側にある山はほぼ自然林だ。そこまで人の手が入らなかった証拠である。だがうちの手前の山はだめなのだ。
「手入れはしないといけませんけど……どれぐらいかかるかな」
「ゆっくりやっていきゃあいい。こうやって山に登るだけでも見どころがあるっつーもんだ」
おじさんはそう言ってガハハと笑った。それに合わせてかミーが「キーアアー」と声を上げる。
「そーかそーか、ミーだっけ? お前も楽しいか」
「キアーアー!」
楽しそうだなと思った時、何かが少し離れたところで動いた気がした。
「ミアー!!」
ミーがいきなり鞄から飛び出し、そちらへ飛んでいった。バタバタッバタバタッと羽と何かが動く音がし、急いでそちらへ向かうと蛇だった。
「おおっ? こんなところにマムシか?」
ミーはその胴体をしっかりと掴み、頭を咥えた。それでも蛇は暴れている。
「ミー、抑えておけよ!」
おじさんがそう言ったかと思うと、いきなり鉈を取り出し蛇の頭の下の部分を切った。ミーにぎりぎり当たったか当たらないかという位置で、何をするのかと思った。
「……これで大丈夫だ。ミーは蛇も食うのか?」
「おじさん、なんてことするんですか! ミーちゃんに当たるかと……」
「当たりそうだったら刃物なんざ出さねえよ」
本山さんは取り乱したがそういうことなんだろう。でもさすがに俺も肝が冷えた。
「……ありがとうございます。でも、ちょっと心臓に悪かったです」
「すまねえな。マムシは噛まれたらただじゃすまないからな」
「そうですね」
ちょっと釈然としなかったが、ミーが嬉しそうに飲み込んでいたからいいことにしよう。
少し見回って異常がないことを確認してから戻った。
ーーーーー
ちゃんと怒られます(何
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます