18.うちのオウムは頭がいい

 帰ったらやっぱりミーにつつかれた。


「遅くなるっつっただろ!」

「ミヤーアー!」

「束縛の強い彼女かお前は!」


 ばあちゃんが笑っていた。

 特に今日のやりとりに関しては話さなかった。話してばあちゃんまでその気になったら困るからだ。


「本山の娘をもらうのか?」


 なのにじじいが余計なことを言う。


「もらわねーよ。どうしてもくっつけようとするんじゃねえ」


 あっちにだって選ぶ権利ってもんがあるだろーが。


「そうか。海人、お前今年いくつだ」

「あ? 三十四だよ」

「とっとと嫁をもらわんか!」

「こんなとこに住んでて嫁が来るわけねーだろーが!」

「なんだと!」

「やめなさーい!!」

「キアーアー!」


 ばあちゃんとミーに怒られた。理不尽だと思った。

 鉄拳はなかったけど頭に拳をコツンとはされた。うるさかったのは確かだ。

 翌日、本山さんに土下座する勢いで謝られた。


「本当にごめんなさい! あんなことを言い出すとは思ってなくて……その……」

「気にすることないですよ。ご両親にとっては大事な娘さんなんですから当たり前です」


 そう言ったら不思議そうな顔をされ、その後本山さんの顔がカーッ! と真っ赤になった。あれ? 俺なんかまずいこと言ったか?


「本山さん?」

「大丈夫です! 大丈夫ですから!」


 本山さんは明らかに狼狽していた。そうしていつも通り送り、家に戻ったら。


「海人おかえり。今日は本山の京子ちゃんが来たのよ」


 ばあちゃんがそう切り出した。本山の京子さんといったら、本山さんのお母さんだろう。正直もうあまり会いたいとは思えない。あのおばさん、目が笑ってなかったしな。


「うん。ちょっと片付けとかしてから話聞くよ」


 作業着の上を脱ぎ、籠からミーを出してやった。


「ミーヤァー!」


 ミーはとても嬉しそうに鳴いた。トンッ、トンッと跳んで居間に下りる。やはり狭い籠の中にいるよりも居間の方が好きなのだろう。居間の隅にトイレ用の箱を置いた。この箱にはペットシートが敷かれている。居間でのトイレはここだと教えたら、ミーはすぐに覚えた。本当に頭がいいオウムである。

 ばあちゃんがお茶を淹れてくれた。


「で、本山さんがなんだって?」

「できれば朝晩送迎してくれないかですって」

「ああ、まぁいいけど……」


 俺もどうせ毎日出勤するからかまわない。でも寺林のおじさんはどうなのだろうか。


「寺林さんも悪い人じゃないんだけど、ちょっと下ネタがきついのよね~」

「ああ、そういう……」


 危機感までは覚えないかもしれないが、いい気分ではないだろう。ましてや軽トラだと隣の席だ。すぐ側で下ネタを言われるのは厳しいかもしれない。


「それぐらいいいじゃねえか」


 じじいが口を挟んだ。


「そーゆー考えだからおっさんとかじじいは嫌がられるんだろ。それぐらいかまわないって判断するのは言ってる方じゃないからな?」

「ふん、わかったようなことを言いおって」


 いいかげん情報をアップデートした方がいいと思うが、そういう人ほどずっとそのままなんだよな。

 変な噂が立たなければいいが、帰り送ってる時点で今更だった。まぁ俺はいつも通りやっていくだけだ。

 ミーがトテトテとじじいのところへ向かい、「ミーヤー」と鳴いた。


「おお、どうした?」


 そしてトテトテと俺の方へ歩いてきて、また「ミーヤー」と鳴いた。仲直りしろってことなんだろうか。


「……ミーちゃんに心配かけるなんて……困ったものねぇ」


 ばあちゃんに笑われた。ミーを捕まえて腕に納めた。


「ミー、お前が気にすることはないんだぞ」


 ミーはコキャッと首を傾げた。ミーは本当に癒しだなと思う。そのうち飽きたのか、腕をつつかれたので放した。ミーは伏せているタロウのところへ向かい、その上に乗った。


「本当にかわいいわねぇ」


 ばあちゃんの目尻に笑いじわがまた増えたようだった。

 なんだかんだ言って平和だ。



 寺林さんにはすでに断ったそうで、俺は翌朝から本山さんちへ軽トラを走らせた。俺が断ったらどうするつもりだったんだろう。

 本山さんも自分で運転できるんだからいいのか。そういえば四月の半ばからは自分で運転するみたいなことを言っていたけどそれはどうなったんだろう。とはいえ、俺も村からの道連れはいた方がいいので特にそれについては聞かないことにした。

 村からS町のごみ処理場までは意外と遠いのだ。


「おはようございます。山越さん、本当に……」


 すまなさそうな顔で本山さんが待っていた。


「そこはごめんなさいじゃなくてありがとうって言ってもらえた方がいいかな。ガソリン代もいただいてるから気にすることないんで」

「……ありがとうございます」


 実は本山さんのお母さんからガソリン代として五千円いただいてしまったのだ。俺の行き帰りのついでなのでそんなにいただく義理もないのだが、もらわなければもらわないで気兼ねするようなのでありがたくいただくことにした。


「来月からは私が払いますね」

「うん、いただかなくても全然かまわないけど……」


 ふと山の手入れのことを思い出した。今言うのもアレだから、帰りに覚えていたら提案してみようと思った。

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