15.肉体労働で終わる土日

 作業をしながら、受付のおじさんと話をした。受付のおじさんは寺林といった。

 朝は本山さんと時間が一緒だけど、帰りは1時間違うとは聞いていた。寺林さんが一時間早く終る。


「まだこの時期は朝晩道の状態が悪いだろ? それもあって送迎してるんだが、帰りはできれば君が送ってやってくんねえかな?」

「まぁ、帰り道は一緒ですから俺はかまいませんけど、それは本山さんと話しませんか」

「ああ、決まったことを伝えておくよ」


 話し合いとかはしないらしい。別にかまわないので異論はないが、本山さんは俺の軽トラでいいんだろうか。と思いはしたが、ごみ処理場に通ってきているのなんか役所の職員以外は軽トラが主だ。しかも自分で軽トラを運転して行くようなことを言っていたから車についてはかまわないだろう。

 問題は……送るのが俺なんかでいいのかなってことだ。俺は本山さんに対してそういう感情を抱いたことはないが、変に意識されても困る。俺までそういう気分になったらいけないと思うからだ。

 朝、鏡に顔を映した時のことを思い出した。

 ないな。

 俺、目つき怖いってよく言われるし。前に付き合ってた彼女だって、あんまり顔とか気にしなかった子ってだけだったしな。むしろきつい顔つきの俺が隣を歩いてる方が安心すると言っていた。……だからあんな図々しいことも言えたんだろうが。

 軽く首を振った。

 忘れた方がいい。お互い縁がなかったと思えばいいんだ。

 午後はミーが俺の鞄の中に納まっていた。作業しづらいと言ったんだが、肩掛け鞄をわざわざがんばって咥えてきた。


「健気ですね。よっぽど山越さんと一緒にいたいんでしょうね」


 本山さんにそう言われて観念した。本当に人懐っこくてかわいいよな。


「キーヤァー」


 ミーは時折機嫌良さそうに鳴いた。自分の存在をそうしてアピールしているみたいだった。


「山越サン、オウムに夢中っすねー」

「バカ言え、オウムが俺に夢中なんだ」

「うわっ、モテモテ~」


 粗大仲間に散々茶化された。それでもみな手は普通に動いていたからかまわない。しゃべりながらでも手を止めないことが重要だ。

 みなかなりがんばってくれたおかげで、思ったより草も木もさっぱりした。今後は更に山の上の方へ登りながら手入れをしていくようだろう。間伐もしないとな。

 じじいが薪が増えたと言っていた。嬉しいのだろう。


「じゃあまた明日からよろしくなー」


 三時過ぎてみなに日当を渡して解散した。


「やったー! パチンコ行けるー」

「飲みに行こうぜー」

「家賃払えるー」


 それぞれ金の使い道はさまざまだ。そんなに頻繁に頼むことではないからいい臨時収入になったのではないかと思う。痛いのは俺の懐ぐらいだ。あいたたた……。


「山越さん、次はいつっすかー?」

「また声かけろよー」

「臨時収入~」

「あてにすんな。しっかり働け!」

「給料変わんねーよ」

「あはははは~」


 俺も働けって自分で言ってから思った。まーでも真面目にやった分ボーナスけっこうでかいしな。


「休まず働けばいいだけじゃねーか」

「足いてー」

「腕いてー」

「今頃筋肉痛か?」


 寺林さんに呆れたように言われた。そういえばそんなものもあった。俺も今足がなんか痛む。


「えー、ショックだー。運動不足かよー」

「山越サン、ブートキャンプ希望~」

「何言ってやがる」


 いつまでたってもわちゃわちゃしているので追い出した。本山さん送っていけねえだろうが。みんな笑いながら帰っていった。黒瀬さん夫婦もにこにこである。(今日の分も無理矢理渡した)

 シルバー人材センターとかに頼んでもこんなもんだろうから、知り合いに頼めたのはよかったのではないかと思う。


「本山さん、ごめんな。うるさくて」

「いえ、とても楽しかったです。……って、楽しかったって変ですね」

「海人、上がってもらいなさい」


 ばあちゃんがにこにこしながら俺たちを手招いた。


「いえ、あの……」


 本山さんは戸惑っていた。ま、いいかと本山さんを家に促した。ミーも下ろさないといけないしな。(ミーは当たり前のように鞄の中に収まっている)


「ミーを下ろしたいから、一緒に来てもらっていいかな」

「あ、ハイ。わかりました」


 肩掛け鞄を下ろしたらミーに突っつかれた。


「ミー、なんだよ? いてえって!」

「キーアァー!」

「山越さんに運んでもらうの、楽しんでたんじゃないですか?」

「困ったやつだな」


 わがままで困ってしまう。でもずんぐりむっくりした姿は愛嬌がある。ミーはトトトッと動いて土間に降り、タロウの側に行った。


「お茶が入ったわよ~」


 ばあちゃんに声をかけられて、居間に上がった。お茶請けは漬物と煎餅である。


「ごめんなさいね。気の利いたものが何もなくて」

「いえ、図々しく上がってしまってすみません!」

「本山さんって、京子ちゃんの娘さんかしら?」

「あ、ハイ。京子は私の母です」

「そうだったのね。いろいろたいへんだって聞いたけど、大丈夫?」

「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」


 やっぱり近所だからいろいろ知っているらしい。本山さんははっとしたように俺を見た。


「結子(ゆうこ)ちゃんの家のことは海人は全く知らないわよ」

「そうでしたか。すみません」

「困ったことがあれば海人が力になるから言ってね」

「そんな……」


 よくわからないが、送迎ぐらいはできる。それ以外は応相談だ。

 本山さんちもなんか事情がありそうだなとは思った。

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