14.人が来ると元気になるらしい
翌朝、ばあちゃんはかなり張り切っていた。
なんつーか、元気になったかんじである。明日以降反動がこなければいいがと少し心配になった。
ミーも朝から元気だ。お前関係ないだろ。なんで朝からそんなに元気なんだお前も。
「キーアー! キァーアー!」
ご機嫌で野菜と細切れの豚肉をついばんでいる。オウムは基本飲み込むから小さく切ってやる必要はあるのだ。タロウの食い方は豪快だ。近所から分けてもらったというシシ肉を食いちぎっている。朝からどいつもこいつもワイルドだよな。
昨夜親に電話をした。夏に何日か帰省して家の手入れはしていたようだが、山の方はやはりさっぱりだったようだ。
「海人がお父さんたちと一緒に住んでくれるなら助かるわ」
「家の手入れはしないから、それは帰省してやってくれよ」
「海人がついでにしてくれればいいんじゃない?」
「母さん長女なんだろ。それぐらいしろよ」
押し付けるなら金を払えと言って、言い争いになった。自分の親なんだから少しは手伝え。叔母にも電話をかけて、後日家族会議することになった。多分夏だけどな。
じじいには怒鳴られたが、本来実家の手入れなんてものは本人たちができなきゃ子どもが関わるもんだ。それが無理なら金出して外注するのが筋ってもんだろう。じじいの孫(この場合は俺)に押し付けるなんてとんでもない話だ。
え? 金もない? 聞いてくんねーかもしんねーけど、だったら役所へ相談だ。
そんなわけで機嫌はすこぶる悪かったんだが、ミーがご機嫌で身体を揺らしているのを見たら和んだ。アニマルテラピーって本当だな。ミーの為にここに間借りしているのだ。俺ができることはやらなければ。
「本山さん、迎えに行ってくる」
「気を付けていってらっしゃいよ~」
「キァーアー!」
「ミーはタロウと留守番してろ」
背中を何度もつつかれて痛かったが、運転しながらお前を見ることはできないんだよ。
「ミーちゃん、ばあばとじいじとタロウと一緒に待っていましょうね? 海人はすぐ戻ってくるよ」
「キーアー」
ばあちゃんに言われてミーは引き下がった。本当に頭がいいオウムだ。
「すぐ戻ってくるからな」
そう声をかけて本山さんを迎えに行った。
本山さんは外で待っていた。待たせたかと慌てたが、
「おはようございます。ありがとうございます!」
本山さんは昨日の帰りと違って実に晴れやかな顔で挨拶してくれた。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「おねーちゃん、今日も出かけるのー?」
家の中から顔を出したのは、小学生くらいの男の子だった。
「リッちゃん、出てこなくていいわよ~。夕方には帰るからね」
「わかった。いってらっしゃい」
男の子は俺を見ると睨みつけて家に戻った。シスコンか? と思った。
「山越さん、すみません」
「弟?」
「いえ、甥っ子なんです」
「そうなのか」
さすがに年が離れすぎてるとは思った。つっても本山さんの歳は知らないんだけどな。一番最初の印象は俺と同じか年上に見えたんだが、こうして見るともう少し若くも思える。失礼だから年齢を聞いたりはしないが。
「よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
本山さんにぺこりと頭を下げられ、こちらも頭を下げた。三軒隣といっても村の家の距離はそれなりにある。家と畑が隣り合っていたりするからだ。だから家で騒いでいても窓を開けていなければそれほど近所迷惑にはならない。
本山さんを連れて帰るとみんなすでに着いていた。
「おー、山越サン、本山さんもおはようございまーす」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
みなに挨拶して、今日の範囲を確認した。
「西側の山の上の方だっけ? そっちは見なくていいんですかー?」
「今日はそっちまで手が回らないだろ?」
「ですねー。見てきて終りかなー」
「本当は黒瀬さんのお隣と土地が隣り合ってるから、そっちも手入れしたいはしたい」
「来週とかまた来ます?」
「続けて来たら疲れるだろ?」
「じゃあ来週の土日は泊めてくださいよー」
「宿泊費取るぞ」
「ひでー」
みんなであははと笑った。へんな敬語もやめろっての。
今日もうちの土地と黒瀬さんの家の境を中心に草刈りと藪を払いに作業をした。電動草刈り機もチェーンソーもフル回転である。雑草を抜くのは今度だ今度。とにかく刈って刈って刈りまくるし、枝は払うしかない。
一応枝と草は分けておいてもらった。枝は乾かせば薪になる。薪にしやすい種類がどれかはわからないから、それは後でまとめてじじいに見てもらうことになっている。
昼はばあちゃんがまたみそ汁とおにぎり、漬物を出してくれた。おにぎりの具は三種類だった。梅干し、昆布、おかかである。みんなで奪い合うようにして食べた。黒瀬さんは時期じゃないけどねぇと言いながらかぼちゃの煮つけを持ってきてくれた。これもうおおおおと食べた。本山さんはもしよかったら、と自分で干したというたくあんを持ってきてくれた。どれも労働後の身体に沁みた。
さて、もうひと踏ん張りだ。
明日からの仕事がつらいなーと言い合いながらとにかく作業をしたのだった。
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