13.それなりに刈れたと思う

 午後は三時ぐらいまでの予定で作業をした。


「山越サン、明日も来ますかー?」


 オレンジ頭に聞かれた。なんだ山越サンって気持ち悪いな。


「連日でも大丈夫なのか?」

「稼げる時に稼がないと!」

「それもそうだな」


 確かにまた来週ってやるよりは明日の方がいいだろう。


「ちょっと聞いてくるわ」


 外に出したベンチでばあちゃんとじじいが日向ぼっこをしていた。足元ではタロウが寝そべり、その上でミーが寝ている。なんとも平和な光景だ。


「ばあちゃん、うちの連中がさ、明日も作業できるって言ってるんだけど……」

「またおにぎりとみそ汁でも用意すればいいかしら?」

「金は出すからさ、頼むよ」

「やあねえ、お金なんかいいわよ。こうやって人が来るっていいわね。にぎやかな方が楽しいわ」

「負担になるようならすぐ言ってくれよ?」

「大丈夫よ! ねえ、おじいさん」

「……そうだな」


 じじいは苦虫を噛みつぶしたような顔で返事をした。自分の足がうまく動かないから複雑なのかもしれない。


「じゃあアイツらに言ってくるわ。ばあちゃん、ありがとなー」

「キァーアー!」

「わっ、なんだ?」


 いきなりミーがむくっと起きて俺を見た。


「ミー、脅かすなよ」


 ミーはタロウから下りると、体を揺らしながらポテポテと俺の方へ歩いてきた。


「ミー、どうした?」

「キーアァー!」


 なんか、ふんす、というような顔をしている。


「連れてけってことか? お前連れてくと作業になんねーんだけどなー」


 そう言いながらも俺はそっとミーを持ち上げた。ミーが俺の腕の中に素直に収まる。うおお、かわいいじゃねえか。

 ミーをだっこしたまま、まだ作業をしている面々のところへ戻った。


「あれ? その鳥って粗大の中から出てきたヤツ?」


 脱色が首を傾げて聞いた。髪を脱色したらそれが気に入ってしまってそのままにしている奴である。おかげであだ名が脱色だ。


「ああ。明日もできれば来てほしいんだが、来れる人は?」

「明日も日当出ますー? それからおにぎりも!」


 坊主頭が手を上げて聞いてきた。


「日当は出す。一人一万な。おにぎりはばあちゃんの体調次第だな」

「また煮物作ってくるわよ~」


 黒瀬さんがにこにこして言ってくれた。


「それはとても助かります」

「あの……私よければ何か作ってきますけど……」


 本山さんが控えめに手を上げた。


「本山さんも居候だろ? 気にすんなよ」


 作ってきてくれるのはありがたいが食費は出さないから無理はしないでほしかった。


「モトちゃん、この朴念仁にはわかんねーんだよ!」

「ばっ! おじさん、そんなんじゃないってば!」


 本山さんが入口のおじさんと何やら言っていたが、金って余分に下ろしてあったかなと俺は財布の中身を考えていた。一応二日になってもいいように下ろしてはきたんだっけか。


「あ、ちゃんと日当は払うけど、明日の分足りなかったら後日下ろしてくるからそれで頼んでもいいか?」

「いいっすよー」

「だいじょぶっすー」

「キァー!」

「ミー、なんでお前まで返事してんだ?」


 みんなでアハハと笑った。


「本当にかわいいですね。山越さんに飼ってもらってよかったね」


 本山さんがにこにこしながらミーに声をかけた。


「キーアァー!」


 ミーが得意そうに鳴く。そして俺に擦り寄った。うわ、なんだこのオウムかわいいぞ。


「山越サン、めろめろじゃないっすかー」


 オレンジ頭がヒューとかいらん音を出した。しょーがねーだろかわいいんだから。だから山越サンってなんだよ。


「ミー、いてえって!」


 しかしミーの嘴は非常に鋭い。退屈になったのか腕をつついてきやがった。


「わかったわかった。戻るから」


 しかたなく急いでばあちゃんたちがいるところへ戻った。

 作業を終えた時点で藪がそれなりにあることがわかった。黒瀬さんとの土地に隣接している部分はかなりすっきりしたと思う。黒瀬さん夫婦が「ありがとう、ありがとう」と何度も言ってくれた。つってもうちが放置しすぎたのがいけないんだけどな。


「また明日~」


 日当を渡すと、みなにこにこしながら帰っていった。


「本当に私たちまでもらっちゃっていいの?」

「うちの土地の草刈りをしてくれたじゃないですか」

「作業までしてもらって、お金まで、なんて……明日も参加するけど私たちの分はいらないからね!」


 釘を刺されてしまった。でもそういうわけにはいかないと思うんだよな。


「いえ、今回は今までのお詫びも兼ねてなんてもらってください。本当は……更にお隣にもお詫びをしないといけないところですし……」


 そう言うと、黒瀬さん夫婦はへんな顔をした。


「うちの隣はねぇ……」

「気にしなくてもいいと思うよ」


 そう言われるって、いったいどんな家なんだ? ちょっとだけ興味が湧いた。


「お疲れ様」


 本山さんは徒歩で帰るそうだ。すでに受付のおじさんは帰った後である。


「そんなに近いんでしたっけ?」

「今日は兄が車を使ってるのよ。普段運動不足だからちょうどいいわ」

「だったら送っていきます」


 本山さんを引き止めて送ることにした。


「そんな、日当まで出してもらって送ってもらうなんて」

「歩ける距離ならそんなに遠くないでしょう」


 道なりに、西へ三軒いったところが本山さんの実家だった。


「今日はありがとう」

「明日は迎えにきますから」

「そんな……」

「明日も参加されるんですよね?」

「ええ、参加させてもらうわ。本当にありがとう」

「礼を言うのはこちらの方ですよ」


 そう言って別れた。本山さんの笑顔には少し翳りがあった。なんでだろうなと少しだけ思った。

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