12.作業開始!

 じじいもああでもないこうでもないと言っているが、いろいろ複雑なんだろう。

 ばあちゃんが言うには、年を取ると我慢がきかなくなってくるそうだ。


「もちろん、だからって海人かいとに迷惑をかけていいわけじゃないけどね……」


 ばあちゃんが困ったように笑んでいたのが心に残っている。

 翌朝は九時にはみんな家の前に集まってくれた。ありがたいことである。


「今日はありがとうございます。三時ぐらいまでお願いします」

「おー」

「はーい」


 粗大の面々、本山さん、ごみ処理場の入口辺りにいるというおじさんは職場でも使っている作業着姿だ。(俺も役所で着ているのをまんま着ている)お隣の黒瀬さんご夫婦は野良仕事仕様の恰好をしてきていた。

 黒瀬さんの土地と隣接している部分を重点的に刈ってもらうことにし、余力があればうちの土地から上がっている場所の草刈りなどを頼んだ。電動草刈り機、鎌、ポータブルのチェーンソーなどあるものは出し、作業を開始した。


「うちの方を重点的になんて……いいのにねぇ」


 そう言いながらも黒瀬さん夫婦は嬉しそうだ。かなり迷惑をかけていたに違いないので早く作業するに越したことはなかった。


「あんまりこういう藪みたいなものが多いとよくないんですよね?」

「虫も湧きやすくなるからね。それに、イノシシとかの害獣被害も増えるんだよ。隠れる場所があると」

「ああ、そうなんですね」


 なおのこと手入れは必要だと思った。もちろん害獣はイノシシだけではない。タヌキやハクビシンもこの辺りは出没するそうだ。先日おそるおそる「クマは?」と尋ねたら、もっと山の奥の方にはいるかもしれないと言われた。

 こわい、クマこわい。いくらなんでもこの辺にヒグマはいないだろうが、ツキノワグマだってこわい。できれば遭遇しませんようにと願った。

 作業である。

 まずはみなで黒瀬さんの土地と隣接している土地の手入れを始めた。まだそれほど暖かくないから雑草も生えかけだ。昨年の枯れ草を抜いたり刈ったりすればいいのでまだ楽ではあった。問題は枝みたいになっているのである。引っこ抜こうにも強すぎて抜けない。思ったよりもけっこう時間がかかってしまった。


「雑草……恐るべし……」


 とにかくこの草ぼうぼうをどうにかしようとみなで刈って刈って刈りまくった。刈れ草はまとめておいて後で焼くことになっている。枯れ枝などはあればあるだけいいからそれは回収した。


「なーんか使う筋肉が違うよな」

「腰いてー!」

「……手入れってたいへんですね」


 粗大のバイトに紛れて本山さんが呟いた。


「そうですね」


 ねじり鉢巻きの意味がよくわかる作業だと思う。頭から汗が垂れてきて目に入ると痛いから、頭にもタオルを巻くわけで。うん、タオルって万能だな。


「うちの実家も、小さいですけど山があるんです」

「そうなんですか」


 やっぱ山間の村の山保有率すげーなと思った。こりゃあ誰も継ごうと思わないわけだ。山の手入れは大変すぎる。

 まだ4月になったばかりで、しかもこの山間の村は日中も寒いぐらいなのにすでに汗だくだ。草を刈りまくってようやく昼になった。


「お昼ですよー。おにぎりとおみそ汁、漬物はあるわよー!」


 ばあちゃんの声がして、庭に敷いたビニールシートにみな殺到した。握り飯の中には梅干しが入っていた。ばあちゃんはよくわかっていると思った。


「カーッ、うめえ!」

「やっぱおにぎりだよなー」

「みそ汁うっま!」


 粗大の面々が叫ぶ。汗をかいたからしょっぱいものがとにかくうまい。


「これもよかったらどうぞ~」


 黒瀬さんの奥さんがわざわざタケノコの煮物を持ってきてくれた。


「うおおお! タケノコだああ!」

「まだ早いけど少し獲れたからお裾分けどーぞ」


 黒瀬さんが持っている山から掘ってきてくれたらしい。少し離れたところに山を持っているお宅も何軒かあるらしかった。


「うめー!」

「タケノコサイコー!」

「オマエラ、うるせえ」


 粗大バイト組がうるさい。それを見ながら受付のおじさんと本山さんは笑っていた。

 家でじじいとばあちゃんを見てもらうよう頼んでいたタロウがゆっくりやってきた。その背にオウムを乗せて。


「タロウ、ありがとな。ミー、よく落ちねえな?」


 絶妙なバランスを取ってタロウの上に乗っているようだ。


「あれ? 山越さん、このオウムって……」

「あの時のオウムですよ。ほら、ミー。こちらの本山さんはお前の命の恩人だぞ」


 あの時仮死状態かもしれないと言ってもらえなかったら、そのまま死んだものとして扱ってたかもしれないしな。


「いえいえ……私は何もしていませんからっ」


 本山さんが慌てて手を振った。オウムはきょろきょろと周りを見て、俺をじーっと見つめた。


「どうしたミー、なんか面白いものあったか?」

「ミーって、そのオウムの名前ですか?」

「ああ……安易なんですけど、ペットならミーかなと」

「猫みたいですね。でも、かわいいかも」


 本山さんはそう言って笑った。

 そろそろ午後の作業を始めよう。もう少し切り開けば、目途がつきそうだ。

 人海戦術は偉大だなと思った。

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