11.週末に向けて準備する
週末までにまたじじいと言い争いをしたり、それでばあちゃんの雷が落ちたり、ミーがいたずらをしたのを叱ったり、タロウがミーをかばったりといろいろあった。
タロウにとってミーは守るべきものと認識されたようだ。ミーもよくタロウの上に乗っかって休んだりしている。ばあちゃんがにこにこしながら、「かわいいわねぇ」と言うまでがセットだ。
「あらやだ、笑いじわが増えちゃうわ」
なんてことも言う。
「笑いじわだったら幸せだからいいじゃないか」
「やだよこの子は」
ばあちゃんは満更でもなさそうに笑って、きんぴらごぼうを多めによそってくれたりした。ばあちゃんが作る煮物は絶品だ。
大根の煮物が食べたいと言ったら、そろそろ大根がおいしく食べられる季節も終りらしい。そういうものなのかと一つ勉強になった。
そんなこんなで4月である。事務所の方は役所関係の異動などが少しあったようだ。俺に関わる人は特に異動しなかったからいつも通りである。役所の異動は基本年二回。4月が一番多いらしいが、ごみ処理場に勤める職員の異動は少ないという。施設課だとやっぱり専門の職員だから動かせないというのはある。その他に庁外施設なんて呼ばれるところには、あまり町民に見せたくない職員を配置されることが多いらしい。
っていうのは内田さんの弁である。
「……それ言ったら内田さんもそういう職員ってことになりませんか?」
ズバリ聞いたら笑っていた。
「うん、ここに異動が決まった時親父に「何をしたんだ?」って聞かれたよ。僕はずっと平社員でいるつもりだからここぐらいがちょうどいいかなぁ」
言われるんだ、と思った。人の事情はさまざまだろう。希望して来た人もいるだろうし。
扱ってるのはごみだから、どうしたって施設の一部は臭かったりするんだが俺はここが嫌いじゃない。ミーにも出会えたしな。
金曜日だ。明日は粗大の仲間が五人来てくれることになっている。その他に本山さん、受付に詰めてるおじさん、お隣の黒瀬さんご夫婦が手伝ってくれることになっている。黒瀬さんご夫婦はお金はいらないと言ってくれたが、迷惑をかけているのはうちなので二人分日当を払いますと伝えたら感動された。
「今時なんて奇特な青年なのっ! 今回はいただくけど、次以降はいただかないからね?」
奥さんにそう言われてたじたじになった。こちらとしては受け取ってもらえた方が気が楽なのだが、そういうわけにはいかないらしい。田舎というのはやっぱわからないなと首を傾げた。(でも受け取ってもらう気ではいる)
今回はうちの南側の山がメインである。西隣の黒瀬さんの土地に隣接している、うちの山の麓付近を中心に刈りこむことになった。その更に西隣とうちの土地が隣接しているのは山の上の方なので今回は手入れは行わない。でもいずれ手入れはすべきだろう。その更に南側にある山も祖父母の土地だと聞いて頭が痛くなった。二山以上うちの土地とか鬼か。
ある程度手入れしておかないと山の実りも減るようだ。そうなると深山に住んでいるクマなんかも下りてきかねない。手入れは急務ともいえた。
「明日は人がいっぱい来るのよね~」
帰宅したらばあちゃんがウキウキしていた。
「ああ、でも昼飯は各自で用意してくれっつっといたよ」
「そんなわけにいかないでしょうがっ! おにぎりとおみそ汁ぐらいなら用意するわよ」
「アイツら肉体労働だからけっこう食うぞ」
「うちのお釜を見て不安はあるかしら?」
「……なんで二人暮らしだったはずなのにそんなに炊飯器がでかいんだよ……」
昔ながらのでかい電気釜を見て、そりゃあ米食え米食えと言われるはずだと納得した。
「使えるんだからいいじゃない」
普段はまとめて炊いて冷凍しておくのだそうだ。そういえば冷凍庫も一台じゃきかなかったな。田舎って、田舎ってと思ってしまう。
「ミーヤァー?」
籠から出てトテトテ居間を歩いていたミーがコキャッと首を傾げた。くっそかわいいな、おい。
「ほら、ミーちゃんも使えるならいいと思うわよね?」
「ミーヤァー」
ミーはお調子者だ。ばあちゃんにすっかり迎合している。
「オウムのヒナに同意を求めないでくれよ……」
脱力した。一応LINEを交換した面々には、みそ汁とおにぎりは祖母が用意するそうですと送っておいた。
天気予報は明日明後日晴れだ。でもここらへんは山間だから外れることはよくある。山の天気は変わりやすいってやつなんだろう。
「んな金なんか払わんでもなぁ……」
まだじじいがぶつぶつ文句を言っている。
「おい、じじい。今の世の中ボランティアなんてはやんねーんだよ。俺がしてほしいんだから金は払うべきなんだ。わかってくれよ」
「……ふん、俺の体さえ動けりゃなぁ……」
「……じじいはじじいらしくふんぞり返ってろよ。タロウとミーの相手しててくれりゃいいさ」
「ペットのお守りか」
「まぁペットっちゃあペットなんだろうけど……家族だろ? オウムってめちゃくちゃ長生きするらしいぜ」
そう言って笑ってやった。やっと少しだけじじいの眉間の皺が取れたようだった。
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