8.裏山を見に行った
オウムは面白かった。
好奇心が強いと言われていた通り、居間のあちこちを見て回っていた。ところどころでフンをするからそれを拭いて回るのが面倒だったぐらいだ。(拭いたところはしっかり消毒した)
じじいにちょっと近づいて、コキャッと首を傾げる。後ろに回ったり、横にいったりと観察しているのがわかる。なんとも動きがかわいくて和んでしまった。
タロウにも近づいていった。さすがにつつかれそうになって、タロウは逃げた。あの嘴、なんかおっかないよな。
ばあちゃんの側にも、俺の側にも来た。俺のことはつついた。痛い。
「ミヤーアー!」
時々こうやって鳴いた。
「かわいいわねぇ~」
ばあちゃんはもうメロメロ(死語)である。
頭がいい鳥だというから、フンをする場所を覚えてくれたらいいとは思う。でもそんなにうまくいかないかな。
翌日、オウムはタロウの上に乗っていた。
すごい仲良しっぷりである。
「これなら……さすがに勝手に飛んで行ったりはしないかな」
でもやっぱり不安なのでしばらくは家からは出さないつもりだ。
畑の手入れはばあちゃんが主にしているらしい。じじいはえばってはいるが、昔職場で大怪我をしたことが元であまり片足が動かないのだ。寒い時期は古傷が痛むようである。だから暖かくなってきてから秋の初め頃まではじじいも手入れはするが、裏山の方はさっぱりだと言っていた。
そう、聞けば祖父母の土地は無駄に広かった。
この家から畑、そしてその南側にある山一座、そこから西側に連なる山の一部、その更に南側にある一座も祖父母の土地だというではないか。西側の隣の家は田畑は広いが山は別の場所に一部持っているだけらしい。隣の隣の家の山の上の方からうちの管轄だと聞いて眩暈がしてきた。
……なんか迷惑かけてるんじゃないか?
「ちょっと見てくるか……」
「行くならタロウを連れていきなさい」
ばあちゃんの言葉に、伏せていたタロウが立ち上がった。途端にコロンとオウムが転がった。つい噴き出してしまった。
オウムは立ち上がると、身体を揺らしながら土間を歩いてこちらに来た。
「ん? なんだ? ミーも一緒に行くか?」
足環も確か買ってあったはずだ。まだ俺の肩掛け鞄とかに入るだろう。
「ミヤー」
「そっか。じゃあ行くか」
「気が早いわよ。水筒用意してあげるから持って行きなさい」
水筒とおにぎりを持たされた。俺はどこまで登ってこなきゃいけないんだ? 上着を着て、肩掛け鞄に水筒とおにぎり、オウムを入れた。おにぎりは一応端っこである。オウムには防寒としてタオルを巻いた。
「じゃ、行ってくるよ。すぐ戻ってくるから」
「気を付けていっておいで」
タロウに先導を頼んで、畑の脇を通って山に登った。
「こりゃあひでえ」
はっきり言おう。通れる場所がない。
これはまず藪を延々切り開いていかないといけないようだ。
「なぁタロウ、イノシシってどこで狩ったんだ?」
「ウォフッ!」
タロウの歩みが早くなった。あ、やっぱこの山の上だったのか。こりゃ困ったなと思った。
鉈かなんか借りてくればよかった。作業着だったのは幸いだった。オウムを守りながら登ったせいか、一時間では山頂までは辿り着けなかった。
「タロウ、無理だ。今日はもう戻るわ。また来週で」
まずは山の手入れが必要だ。しかもこの山だけではない。隣の家の土地にかかっている分もそうだし、そのまた隣の山の途中から上だったか。本当にいろいろ面倒をかけていそうである。
結局二時間以上かけて家に戻った。外で一旦オウムを下ろし、タロウや自分をはたく。オウムが近づいてきて盛んに俺をつついた。
「え? なんだ?」
どうやら細かい虫がついていたらしい。何やらぱくぱくと食べていた。そういえばこのオウムは雑食だったなと思い出した。
「食べてくれたのか。ありがとな」
外の水道で汚れを落とし、凍えながら家に入った。ストーブがついていた。
「おかえり、寒かったでしょう。ありがとう」
「ただいま……」
「お風呂が沸いてるから入っておいで」
「ばあちゃん、ありがと……」
本当にありがたいなと思った。オウムに声をかけてみた。
「ミー、お前も風呂に入るか?」
オウムはコキャッと首を傾げた。タロウのことは洗いはしなかったが、表にいる時にタオルでガシガシ拭いてやった。それだけでも大分違ったと思う。
オウムはもう家の中を普通に歩いている。好奇心が強くて人懐っこい。ミヤマオウムは頭がいいというから、こっちが喜ぶポイントがわかっているのかもしれない。
だけど、俺ももうこのオウムがかわいくてしかたない。
風呂場へ一緒に向かい、洗い場にオウムをいさせたのだが、湯舟に浸かろうとしたりしてちょっとバタバタした。
「ミヤーア!」
「さすがに熱いんじゃないか?」
洗い桶に湯を入れ、水を足して温度調節をしたものを用意したら気持ちよさそうにバシャバシャしていた。まだヒナらしいが、このオウム見ていて飽きない。でもあんまりお湯を飛ばすのはやめるんだ。こーらー。
「キーアー、キー!」
ヒナにしてはでかいけど、こういう大きさなんだよな。でかいオウムって長生きするって確か医者が言ってたな。
すっごく疲れたけど、こんな生活も悪くないと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます