3.祖父母の家に顔を出す

 祖父母の家に電話をしたら祖母が出た。

 今日泊まりに行くと言ったら、「もっと早く連絡しなさい」と嬉しそうな声で窘められた。


「ごめん。ちょっと話したいことがあってさ。仕事終わったら行くからよろしく」

「まだ山道に雪が残ってるかもしれないから、気を付けていらっしゃいよ」

「わかった」


 そうなのだ。祖父母の家は山間のK村の中にある。あれ? 確か本山さんちもそうじゃなかったっけ? 毎日どうやって来てるんだろうな?

 ちょっと気になって帰りに事務棟へ寄ったら、もう本山さんは帰った後だった。


「あれ? 本山さんは?」

「本山さんなら同じ村の人が連れて帰ったよ」

「あ、そうなんですか」


 誰かの車に乗せてもらっているようだ。それならそれでいい。

 ってことで一人寂しく軽トラを走らせた。まだ冬タイヤを変えてなくてよかった。つっても雪じゃあなぁ……危ないは危ない。全く、よくこんなところに住んでるもんだと悪態をついた。

 祖父母の家に着いた時は、辺りはもう真っ暗だった。まだ六時なんだがな。山間の村だから暗くなるのが早いのかもしれない。

 祖父母の家の駐車場に軽トラを停めたら、家から祖母が出てきた。にこにこしている。


海人かいと、よく来てくれたわねぇ」

「ばあちゃん、まだ寒いだろ」


 三月も終わりの頃だがまだまだ寒い。特に日が落ちてからはかなり冷える。


「タロウを紹介しないといけないからね」

「タロウ?」


 家の中から明らかにでかい犬? が顔を出した。


「ほら、タロウ。孫の海人だよ。匂いを覚えておくれ」

「……ばあちゃん、どうしたんだこれ……」


 俺は呆然としたが、どうにか尋ねた。


「去年家の側でちっこい犬っころが倒れてたんだよ。まさかこんなに大きくなるとは思わなかったけどねぇ」


 犬と言えばでっかい犬なのだろう。だがその眼光の鋭さが、これはただの犬とは違うと俺に警告していた。

 もしかしてこれ、オオカミじゃないだろうな?

 犬? は俺にのっそりのっそりと近づいてきて、クンクンと俺の匂いを嗅いだ。そうして家の中に戻っていった。一応認められた、のか?


「ばあちゃんが拾ったのか?」

「そうだよ。あたしによくなついててねぇ」

「じいちゃんは?」

「あの人は近寄りもしないよ。情けないだろう?」

「そっか」


 あのじじい、生き物とか苦手だったか?


「おお寒い」

「ばあちゃん、家の中へ入ろう」


 慌てて家に入った。つっても一軒家だからけっこう寒いんだけどな。って、こんな寒いところでオウムって暮らせるもんか? 凍死したら困るぞ。


「こんなものしかないけど」

「いやいや、十分だって」


 あり合わせなんだろうが、お浸しとか煮物とかどんどん出てきた。じじいは「おお来たか」と言っただけでTVを見ている。


「沢山食べていきなさい」

「ばあちゃん、ありがとう」


 ごはんは当然てんこ盛りだ。手作りのみそ汁なんて飲むのは久しぶりだ。

 いただきます、と手を合わせて食べ始める。じじいはビールを飲んでいる。俺も一缶だけもらった。明日も仕事だしな。


「俺の頃は翌日が仕事でも浴びる程飲んだもんだがなあ」

「今の世の中は違うんだよ」


 特に役所関係に勤めてるとけっこううるさいのだ。昔はいろんなことがなあなあだったかもしれないがそうも言ってられない。


「ふん、つまらねえもんだ」

「ところで、海人はどうして来たの? 話があるようなこと言ってたけど……」


 ばあちゃんに言われて助かったと思った。どうも話すタイミングがつかめなくていけない。


「ああ……実は、職場で珍しいオウムを拾ったんだ」


 今思い出しても腹が立ってくるから詳細は省いたが、簡単に言うとあのオウムをここで飼いたいという話をした。


「そんな珍しいオウムなんて、育てられるかねぇ?」

「あんまり寒くない部屋があるといいんだけど」


 一軒家だから無理か?


「そんなもん奥に部屋があるだろ。お前の母親が住んどった部屋だ。アイツは軟弱だったからな」


 じじいがふんっと鼻を鳴らした。


「そういえばそうでしたね。西側の部屋なら幸子ゆきこの為に改築したから冬でも暖かいはずよ」

「そうなんだ?」

「でも今は物置になっちゃってるからねぇ。片付けしないと」

「じゃあまた泊まりにくるよ。俺が片付けするし」

「そう? じゃあ、海人はここに住んでくれるのかい?」

「……そういうことになるかな」

「金は入れろ」


 じじいが苦虫を噛みつぶしたような顔で言った。


「おじいさん、そんなこと今言わなくたって」

「家賃ぐらい払え」

「もちろん払うよ、当たり前だろ」


 いい年した大人が祖父母の家を間借りするのにロハとかありえない。


「今住んでるところの家賃はいくらなんだ」

「そこまで詮索するんじゃねーよ!」


 それはさすがにルール違反だと噛みついた。


「まあまあおじいさんも。そのオウムには悪いけど、海人が一緒に住んでくれるなら嬉しいわ。もう幸子もなかなかこっちには来てくれないからねぇ……」


 ばあちゃんがにこにこしながらそう言った。

 祖父母の家に頼ろうと思ったことは一度もない。むしろ面倒を看ないとと思ってS町に移り住んできたのだ。ま、それまでにちょっとあったからこっちへ逃げてきたも同然なんだけどな。

 それにしても意外とすんなりオウムを連れてこれそうでよかった。じじいが少しは渋るかと思ったんだが、タロウのおかげで動物もいいもんだと思ったんだろう。今度来る時はタロウに骨付き肉を持ってこようと思った。


ーーーーー

何時に上げたらいいのかわからないのでしばらく更新時間は定まらないと思います。よろしくー

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