2.なんだよそれ

 職場であるごみ処理場へ戻る道すがら、俺は自分がいら立っているのを感じていた。

 本山さんは助手席でスマホをいじっていた。


「……山越さん、あの鳥……ニュージーランド原産の絶滅危惧種みたいです」

「……そうですか」


 調べていたらしい。律儀な人だなと思った。


「助かってよかったですけど……どうしたらいいんでしょうね?」

「……そうですね」


 生きててよかったとは思ったけど、事はそれだけで終わりそうもない。動物病院の帰り際に本山さんは連絡をしていた。俺たちが職場へ戻る前に、戸棚を捨てた主に連絡がつけばいいが、ついたところでろくなことにならない気がする。

 あんなところへ鳥が勝手に入ったにせよ、誰かが閉めなければあんな仮死状態になんてならなかったはずだ。仮死状態になったからこそ生きていたのだろうが、この先あの鳥はどうなるのだろう。考えただけで胃が痛くなりそうだった。

 事務棟の駐車場に軽トラを停めた。


「……俺も行った方がいいですかね?」


 正直事務棟は慣れなくてあんまり足を踏み入れたくはないんだが。


「その方がいいと思います」

「わかりました」


 本山さんの縋るような目を見て内心ため息をついた。


「ただいま戻りました」


 本山さんが中に声をかけると、何やら話をしていた面々がバッと一斉にこちらを向いた。なんだよ?


「あの鳥、生きてたんだよね?」


 内田さんが情けない顔をしていた。

 歓迎されてないなってことは一目でわかった。


「内田さん、あの戸棚を捨てた方には……」

「連絡は取れたよ。いや、ひどいね、あれは……」

「何か言われたんですか?」


 本山さんが尋ねた。内田さんは頭を掻いた。


「うちには関係ないの一点張りだったよ。こっちで殺処分でもなんでもしてくれってさ。ひどい話だろう?」


 なんだよそれ、って思った。


「殺処分はこっちではできないって言ったんだけど、もう遠くに引っ越してしまったからこちらには絶対こないとさ。あんな人間にはペットを飼う資格なんかないね」


 みなそうだそうだと言ってはいたが、それで解決する話でもなさそうだった。


「じゃあ、あの子はどうなるんですか?」

「海外の絶滅危惧種って話だから勝手に放すわけにもいかないしね。動物園に連絡をとってみるかってところだけど、受け入れてもらえるまでどこで保管してもらうかってのも問題だしなぁ……」


 勝手に飼って、勝手に捨ててなんてどこまでひどいんだろうなと思う。


「小さいうちはいいけど、けっこうでかくなるらしいから広い敷地が必要だって獣医の先生がおっしゃられてました。動物園は、狭くないんでしょうか……」


 本山さんが声を上げた。


「多分狭いんじゃないかな」

「そうですよね」

「誰か飼ってくれる人がいれば一番いいみたいなことを木本先生が言ってたよ」


 内田さんがのんびりと言う。そんなこといつ聞いたんだろうか。


「内田さん、それって……いつ先生に聞いたんですか?」

「君たちから電話をもらった後だよ。今さっき電話を切ったところだ」


 本山さんがそれを聞いて困ったような顔をした。


「うちは確かに、家の裏に山がありますけど……私自身が居候ですし……」

「本山さん、引き取ってくれるの?」


 職員たちが明るい声を上げた。


「いえ! 私実家に居候しているので勝手にそういうことは決められません。多分、反対されると思います……」


 個々に事情はあるからしかたないと俺も思う。でもなんだか胸がもやもやした。

 あのオウムを見つけたのは俺なのだ。


「山越君は……アパート暮らしだから無理だよね」

「そうですね」


 即答してから待てよ、と思った。

 俺はS町にアパートを借りているが、北側の山を一つ越えた先にあるK村には祖父母がいる。


「あの鳥って、どれぐらいまで獣医で預かってもらえるもんですかね?」

「んー? 二、三日ってところだろうけど、飼うつもりがあるなら応相談ってところじゃないかな?」


 内田さんにそう言われて、俺はもう少しあの鳥について考えることにした。


「二、三日考えてもいいですか?」

「いいよ。あ、でも一応木本先生に連絡してくれるかい? 先生のところも困るだろうからさ」

「わかりました」


 こちらに報告をするのは当たり前として、獣医のところにも連絡はした方がいいだろう。でも、絶滅危惧種を一般人が飼うことなんてできるんだろうか。

 今連絡してもいいと言われたので木本医師と話をした。


「絶滅危惧種は絶滅危惧種だけど、元の国に返すわけにもいかないからね。最後まで飼ってくれる人がいるならそれがいいよ。多分飼っていたにしても届け出とかは出してないだろうから、ちゃんと飼ってくれるならこちらとしては言うことはないね。定期的に様子は見せてもらう必要はあるけど~」


 木本医師の中ではもう俺が飼うことになっているようだ。


「いえ、まだ飼えるとは決まってないんですけど……」

「ああ、そうか。二、三日は待つからよろしくね~」


 なんというか軽い先生だ。多分絶滅危惧種を飼うっていうのは届け出とかが必要なんだろうけど、元が密輸された動物だからその動物が幸せになることが優先ってことなんだろうな。

 さて、じじいに連絡をしてみるか。



ーーーーー

本来は検疫などいろいろな手続きが必要になります。動物の国外移動はたいへんです。


本日はここまでです。

明日から一日二話ずつ更新していきます。何時にしよう(悩

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