チョコさんと仲間たち

葉月林檎

ねこ花火大会

 あるところに、チョコさんと呼ばれる犬がいました。チョコさんには優しいれみちゃんという飼い主がおり、犬のお友達も多く、幸せな日々を過ごしています。


 ある夏の日のことです。

 ミーンとセミが元気に鳴く声で目を覚ましたチョコさんは、いつものように郵便受けを見に行きます。

 そこにはいくつかの手紙とチラシが入っていて、ほとんどはチョコさんの住むお家のものでしたが、ひとつ淡い青色の封筒が入っていることに気が付きました。


「あ、ねこさんからだ!」


 ねこさんとは、近所の公園に住んでいるお友達のことです。チョコさんはチラシとお手紙を咥えて、お家に戻りました。そしてお気に入りの日が一番当たる窓際の床に座ります。

 ねこさんとはよく一緒に遊ぶので、今度はいつ遊ぶのだろう、とチョコさんは封筒を開けました。ハート型のシールが付いていたので、それはシール帳に貼り付けました。


『チョコさんへ

 ねこ花火大会のお知らせ

 今日、日が沈んだころに、公園で花火大会をするよ! たくさんの子がくるから、チョコさんもぜひ来てね! ねこより』


「わぁ、楽しそう!」


 チョコさんはうきうきです。ねこさんはよく様々なな大会やお祭りの主催をしますが、それはどれも大成功。とても面白く、楽しいのでした。


 早速チョコさんはねこさんからのお手紙のお返事を書きます。


『ねこさんへ

 花火大会のご招待ありがとう!

 行くのがすごく楽しみ! チョコより』


 ピンク色の封筒を、中に小さいビーズが入った星型のシールで閉じて、お手紙は完成です。家の前をちょうど通りかかった郵便屋さんに届けてくれるよう頼みました。


「今日の夕方までにはお願いします!」

「いぇっさ〜」


 柴犬の郵便屋さんは、のんびりと答えました。なんだか心配だなぁとチョコさんは思いましたが、すぐに花火大会のことが頭に浮かびます。それと同時ににこにこしてしまうのでした。


 ***


「日が沈んじゃった、急がなきゃ!」


 チョコさんは走ります。

 今日もれみちゃんと、トイプードルのお友達キャンディと一緒に遊んでいたら、いつの間にか日は暮れてしまいました。首元の鈴はちりんちりんと鳴っています。


「おぅい、チョコさん! こっちだよー!」


 公園の入口でねこさんが手を振っています。よく見るとねこさんの手にはたくさんの手持ち花火セットが。


「わぁ、どうしたのそれ。集めてきてくれたの?」

「そう! 余っている花火ないですかーって友達の家回ったら、たくさん貰えたの」


 確かにこの夏も終わろうとする時期、余っているお家は多いだろうな、とチョコさんは考えました。


「それよりもっ! これチョコさんの分ね。あっちで火は付けられるから、今日は楽しもう!」


 そうにっこりお日様笑顔なねこさんを見て、チョコさんもつられて笑いました。


 まずチョコさんが手にとったのは、虹色の火が勢いよく飛び出すものでした。

 れみちゃんが花火をするのを見たことはあっても自分でするのは初めてなチョコさんでしたが、すぐにできるようになります。


「きれい……!」


 お家に帰ったらこのことはきっと日記に書こう、とチョコさんは目に焼きつけました。


 様々な花火を楽しんだチョコさんでしたが、しばらく時間が経って手元の花火が無くなったことに気が付きました。


「ねこさんねこさん。花火無くなっちゃったみたい」

「おっけー、ちょうどこれを用意してたんだよ!」


 そう言ってガラガラと出してきたのは、チョコさんの背を軽く超える大きさの打ち上げ花火です。流星群の描かれた発射台の中に火薬を入れ始めるねこさんを見て、チョコさんは驚きました。


「これも用意したの?」

「うーん、ないしょ!」


 そう言いながらまたにっこり笑顔のねこさんです。チョコさんはそれが少し引っかかりましたが、まあいいかと流してしまいました。


「おっ、そろそろか」

「楽しみだねぇ〜」

「何色だろう」


 手持ち花火を楽しみ終わった色んな毛並みの猫たちがゾロゾロと集まってきます。中には朝に出会った郵便屋さんまでいました。


 その間にねこさんの方は準備が終わったようで、みんなの方を向かって言いました。


「いくよー! 10、9、8……」


 良い場所で見ようと、カウントダウンが始まると一斉に高台へ走り出します。


「―――3、2、1! 発射!」


『ドーン!!! パラパラパラパラ……』


 ***


 チョコさんに「夏一番の思い出は?」と聞いたなら、きっとねこ花火大会だと答えるでしょう。


 初めてあんなに近くで見た花火は、チョコさんの目を虹色に輝かせていたのですから。

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