第10話 浮浪者のリーダーと対面ですわ

私に見せたいものってなあに?


「こっちだよ。おいでよ。」


男の子は私の腕を持って、ぐいぐい引っ張り出した。

どうやら私をどこかへ連れて行こうというのだ。


「一体何ですの?私はそんなにお安くなくてよ。(ねぇ、私をどこへ案内してくれるの?)」


「こっちだよ、早く行かなきゃなくなっちゃうよ。」


なくなっちゃう?何やら限定の商品か何かかしら?

私は前世より「限定物」という言葉に弱い。

なくなっちゃうと言われると、フツフツ闘志が沸いてくるのだ。


男の子は私の腕を引っ張りながら、どんどん路地へと向かっていく。

いつの間にか中央通りを大きく外れ、狭く薄暗い裏道を通っているのだ。


えっ、この子一体私をどこに連れて行こうっていうの?

確かにこんな所まで買いに来る人なんていないわ。

さすがレア商品ね。


裏道には座り込んでお酒を飲んでいる男の人たちもいる。

そういう男の人は私が通ると、決まってピューイと口笛を鳴らすのだ。


何かの合図なの?

それともこの地域特有の挨拶かな?


私は口笛を鳴らされると、その都度ウインクをしながらピューイと口笛を返していた。

彼らの表情はパーッと明るくなり、笑顔で私たちに付いてくるのだ。

私たちが男の人とすれ違うたびに、1人また1人と増えていく。

いつの間にか私と男の子を先頭に、大名行列並に50人ほどの男の人たちの列が出来ていた。


男の子は街の外れにある、今にも倒れそうな小屋の中へと私を引っ張っていった。

もちろん、50人の男たちも強引に小屋へ入ろうとする。

ぐらぐらと小屋が揺れ、入口付近は大渋滞。

無理やり入ろうとしたため、入り口の壁はガラガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまった。


「な、なんだこれは!?」

ガタガタ…。ゴチン。


小屋の中では1人の男がコケていた。

私たち御一行様に驚いたようで、後ろに椅子ごと倒れてしまったのだ。


「お、お父さん、大丈夫?」

男の子は慌てて男の方に駆け寄った。

どうやら男の子の父親らしい。

彼がレア商品を持っているのかしら?


立ち上がった彼は身なりはボロボロだが、筋骨隆々の逞しい体つきをしている。

鋭い眼光と綺麗に手入れされた顎髭と口髭が、彼の貫禄を際立たせているようだ。


彼は私の方に近寄り、目の前で一礼した。

「お嬢様、こんなむさくるしい所に起こしくださいまして恐悦至極でございます。」


「この私に一体何のご用ですの?私も暇じゃありませんのよ?(はじめまして、アンポワネット侯爵家のメリーと申します。私に何かご用でしょうか?」)


「はい、お嬢様にぜひともご協力して頂きたいことがございまして。」


協力?

何のこと?


「実は、あっおい、お前ら無理やり入るんじゃねぇ!

玄関壊れてるじゃねぇか、まだローン残ってるんだよ!」


「だってよ兄貴。おれもお嬢様見てぇよ。」

でかい体を縮め、ぎゅうぎゅう詰めになりながらも入ろうとする男たち。

まるでラッシュアワーの風景だ。


「おい、後ろのヤツ、無理やり押し込もうとするな!

なんで両手で押し入れようとしてんだよ!膝を使うな、膝を!」

満員車両に詰め込む駅員さんだ。


どうやらこの小屋の主は、ついてきた男たちの首領らしい。

で、レア商品はどこなの?


「私に協力して欲しいことって何ですの?そろそろ戻らないとお母様たちが心配しますわ。

さっさとレア商品を早く見せてくださらない?(そろそろお暇しなければいけませんわ。レア商品を確認しましたら、母たちの元に戻りますわ)」


「はっ?レア商品って何のことでしょう?

おい、オットー、お前お嬢様に何て説明したんだ?」


オットーと呼ばれる男の子は、ため息をつきながら両手の平を天井に向けている。


私何か勘違いしていたみたい。

レア商品なんてものはそもそも無かったのね。

それじゃ、ここにはもう用が無いわ。

そろそろお母さまたちも買い物を終えた頃ね。


「それでは皆さん、ごきげんよう。」

入り口に向かって歩こうとした私に、血相を変えた首領の男が立ちふさがった。


「待ってくださいよ。お嬢様。あなたのお父様にお願いしたいことがあるんです。

どうか聞き入れてくださいませ。」


「それでは、後日お屋敷に起こしくださいませ。あなたごときお父様がお会いになられるか分かりかねますが。(後日お屋敷に来てください。お父様にご連絡いたしますわね。)」


「後からじゃ困るのです。私たちは今対応して頂きたいのです。おい。」


入り口にいた小太りの男の1人が私の両脇を後ろから抱え込む。


「手荒なことはしたくないんですが、ちょっと眠っていてくだせぇ。」

リーダーの男は、私のお腹に渾身の拳を打ち付けてきたのだ。


ドンッ!ポキッ…

「キャァァァッ」


私のお腹を殴った男の方が手を押さえ、可愛らしい悲鳴を上げる。

師範に鍛えられまくった私のシックスパック!

今なら銃弾だって通さない。


「いつまで淑女の体を掴んでいるのでしょうか。」

私を掴んでいる小太りの男を片手で持ち上げ、壁に向けて投げつけた。


ドーンッ!ガラガラガラ。

男の体が壁に激突し、大きな音と共に小屋の壁が崩壊する。


「ああっ、今月がボーナス月なのに…!」

男の悲痛な叫びが、手下たちの胸に響く。

手下は泣きながら、私に襲いかかってきたのだ。


襲いかかってくる手下の顔に両手を当て、私は大きく頭を振りかぶった。


「フンッ!」


ゴチン。


私の頭突きをまともに受けた手下の男は、床に倒れこんだ。

大きなたんこぶを作り、プスプスと煙が立ち上る。

襲いかかろうとしていた男たちは、その光景を見た途端、呆然とその場で立ち尽くした。


ダメ押しね。

私は服の中に忍ばせておいたリンゴを取り出し、片手でリンゴを砕いて見せたのだ。


衝撃を受ける手下たち。

膝から床へと崩れ落ちる。


「お嬢さん、それだけはいけねぇ!食べ物を粗末にしたらお百姓さんに合わす顔がねえ!」

手下の男たちは私の前に跪き、おいおいと泣き出したのだ。


リーダーの方を振り返ると、リーダーも同じく床に伏してブツブツと何かを唱えていた。


「35年ローンが…災害保険は適用されるのか?ブツブツ…来年度の固定資産税は…ブツブツ。」


私はリーダーを片手で引っこ抜き、無理やり椅子に座らせた。

何で私をさらおうとしたのか、聞く権利はあるわよね♡

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