第11話 商売を甘く見ないでほしいですわ
「平民どころか貧民のあなた風情が、この高貴な私をさらってどうするおつもりでしたの?(どうして私をさらおうとしたのですか?)」
「へっ、お嬢様には何も応えることはねぇな。」
リーダーの男は私の質問に答えようとせず、私の視線を逸らした。
ドンッ。メキメキメキ。
私の足が小屋の床を踏み抜く。
私は片手でリーダーの頭を掴み、強引に私の方へ向けさせた。
「この私が質問をしているのですわ。しっかりと私と目を合わしお答えくださいませ♡
さもないと、今までお支払いになられたローンが無駄になりますわよ。」
ガクガクブルブル。
ピーンと空気が張りつめる。
私たちの様子を見ていた手下たちも一斉に正座をし始めたのだ。
「それで私に『何を』するおつもりでしたの?」
「は、はい。私はお嬢様を誘拐し、アンポワネット侯爵に身代金を請求するつもりでした!」
思わず、立ち上がってしまうリーダー。
声が何オクターブも上ずってしまう。
「この私を誘拐ねぇ、それでお父様においくらほど請求されるおつもりだったのかしら?」
「はい、白金貨100枚を要求するつもりでした。」
白金貨はこの世界では最上位の貨幣で1枚につき100万円相当である。
「あなた、私とアンポワネット家を馬鹿にしていらっしゃるの?10倍を請求しなさい!」
「は、はい!」
リーダーの背筋がピンと伸び、手下たちも負けじと伸びあがった。。
「それで、あなたはそのお金を何にお使いになるおつもりでしたの?
白金貨1000枚はあなたたち庶民にとっては大金です。
アンポワネット家から巻き上げるおつもりなら、それ相応のご使用方法をお考えになられていらっしゃいますよね?」
「身代金10倍はお嬢が言ったんじゃ…?」
突っ込みをいれようとした手下を私はキッと睨みつける。
その迫力に手下は後ろに卒倒してしまった。
ここは笑いをとるところじゃございませんのよ。
リーダーは恐る恐る重い口を開いた。
「はい、私はそのお金を使って、この街に自警団を作ろうと考えておりました。
私たちは元々は雇われの傭兵をしておりましたが、要領が悪く長く務めることは出来ませんでした。
また、街が平和となり私たちは職にあぶれてしまったのです。
しかし、完全に街が平和になったわけではありません。
街の外には恐い魔物も出現し、街の中でも犯罪は絶えません。」
「私を誘拐するような男たちもいらっしゃいますものね。」
「ぐっ」
リーダーは、思わず顔をしかめてしまう。
これではもはやどちらが大人か分からない。
「私たち自警団は、数々の問題や外敵から領民を守り、領民が安心して暮らせるように街の平和を維持したいのです!」
リーダーの鼻がぷくーっとふくらみ、これでもかというほどのドヤ顔を見せた。
「それは高尚な事業をお考えでございますのね。それでその収入はどこから得られまして?」
「えっ、実入りですか!?そ、それは寄付をつのって…」
はぁー、思わずため息が洩れる。
どちら様がそんな怪しいものにお金を出すのでしょう。
「自警団のお仕事はどこから頂けるのでしょうか?」
「えっ、あっ、ああ。それは自分たちで聞いて回ってだなぁ。」
はぁー。怪しい新興宗教団体に間違えられますわ。
「お金の使い道は?そのお金をどうやって分配するんでしょうか?」
「それは、子分たちに均等に分配して…、あ、装備も買わねばならねぇ。」
はぁー。本当に商売するつもりがあるんですの?
私こんなもののために誘拐されそうになってたのね…。
そう考えると、フツフツと怒りがこみ上げてきた。
「あなた達が私にしたことがお父様に知れれば、全員処刑はまぬがれませんわ。」
父の私への溺愛ぶりは凄く、私を傷つけたものにはどんな者でも容赦しないのだ。
以前私の血を吸った蚊に激怒し、風系最強魔法の一つ【サイクロン】を家の中で使用。
蚊を粉々に粉砕させたが屋敷も半壊させ、母から意識を失うまで往復ビンタを浴びせられていた。
虫に対してもそこまでする父が、より悪意に満ちた人間を簡単に許すわけはない。
いくらごまかしてもすぐにバレるでしょう。
彼らが助かるには、父に有用だと思わせなければダメなのだ。
私の一言で、現実に戻ったお馬鹿さんたち。
今ごろガタガタと震えだした。
「あなた達が助かるには、お父様に気に入られるしかないの。もっと真面目に考えてくださらないかしら。」
私の言葉が彼らを更に追い詰める。おいおい泣き出す者もいる始末だ。
「まず収入の確保が全くなっておりません。慈善事業じゃパンも食べられませんのよ。
あなた達は自警団ではなく仲介屋をおやりなさい。
依頼者からの仕事をあなた達が仲介し、依頼者に対して成功報酬を請求するの。
請け負った仕事をあなた達の組合に登録した組合員に紹介し、依頼が成功すれば成功報酬のうち仲介料を引いた額をその人たちに渡します。」
「えっ、姐さん、そんなのズルくないですか?人に仕事を任せて自分は報酬の一部を受け取るなんて。」
誰が姐さんじゃ。
「何をおっしゃっているんですの?あなた達だって自分でお仕事を探すのって大変でしょ?
仕事を頼みたい人を見つけて、仕事をしたい人を繋げる。その手間賃を頂くのよ。
もちろん、登録者にしかお仕事をお渡しいたしません。
その登録者からも登録料を頂くのよ。」
「うおー姐さん。ナイス外道!」
手下が全員立ち上がって、私に割れんばかりの拍手を贈る。
誰が外道じゃ。こんなこと商売の基本なのよ。
「でも姐さん。最初に依頼者を見つける事の方が難しくないですか?まだ得体の知れない我々に依頼をする者はいないでしょうし。」
「お父ちゃん、そんなの貴族様にお金を渡せばいいんだよ。
あいつらお金さえ渡せば何でもやってくれるだろ?
きっと依頼者も紹介してくれるよ。
だよねお嬢様?」
ずっと様子を見ていたオットーがここで口を開いた。
7歳くらいにも関わらず、この悪どい考え方。
将来が楽しみだ。
ていうか、私も一応貴族なんですけど?
「オットー、とても素敵なご意見ですわ。それじゃ、登録者はどう集めるの?
いい方法があって?」
「そんなの簡単だよ。受付におっぱいバインバインの女の子や、獣耳の女の子たちにしてもらったらいいんだよ。
あっという間に登録者が集まるよ。」
出来るわ、この子。
この歳にして「萌え」を知り尽くしているわ。
一体どんな生活をしてきたの?お姉さんちょっと心配。
この調子で私とオットーは意見を出し合い、なんとか商売の形になりそうになった。
・・・・・・・・・・・
私は母たちの元に戻る前に、「迷子になったところをオットーとその父に助けてもらった」作戦をでっち上げ、何度も口裏を合わせたのだ。
中央通りまで戻ってきた私たちは、辺りの異様な雰囲気に気付いた。
先ほどまでの賑やかな雰囲気は一切失われ、お店も全店閉まっている。
往来する人もなく、代わりに兵士たちが隊列を組んでいる。
その中央にいるのは母モリア。
今まで見たことのないような、厳しい顔つきをしているのだ。
「メリーお嬢様!
私を発見したメイドのマルブリットとマーサは、わき目も振らず私に向かってきた。
マーサは私をぐいっと担ぎあげると、ガニ股走りで母の元へと連れて行った。
母の目の前で降ろされる私。
母が血走った目で私を凝視してきた。
「ああ、メリー。見つかって良かったわ。私心配して軍を呼んじゃった。テヘ。」
迷子の子どもを探すために、軍を呼ぶ親がどこにいるのだ。
父も大概過保護だが、母も負けてはいない。
「ところでメリー、あちらの方はどなた?」
母はオットーとリーダーの方を向きながら私にたずねた。
「あのお2人は、迷子になった私をここまで連れてきてくださったの。」
「ふーん。」
そう答える母だったが、その目には一切の感情が感じられなかった。
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