第9話 お買い物は楽しいですわ
串焼き騒動を終え、私たちは改めて買い物を再開した。
中央都市モリーヤで売られている物はどれも珍しく、私たちは夢中で商品を見比べていた。
洋服店「トレンディーファイブ」
今日母が私を連れてきたかったお店だ。
中央通りの丁度真ん中に位置する店で、全面真っ白な壁にアクセントのように映えるダークブラウンのドアや窓枠。
お店の前に飾られた新緑の観葉植物が見事に調和し、キャンバスに描かれた絵画のようだ。
まるでスペインアンダルシア地方のカフェテリアを彷彿させるお洒落な外観。知らんけど。
あまりの可愛さに私の胸は高鳴り続けていた。
「さっ、参りましょう。」
母を先頭に、私たちはお店に入った。
ドアを開けるとそこは別世界。
店内も白を基調とした内装に、ダークブラウンの棚が並んでいる。
店内の至る所に観葉植物がディスプレイされており、お洒落で居心地の良いお店だ。
お客さんは20代前後の女性が多く、平民階級の者や貴族階級の者が混在している。
男性店員はイケメンぞろいで、執事風のスリーピースのダブルボタンスーツを着こなしている。
女性店員はビクトリア調の落ち着いたデザインのメイド服。ウエストから広がるロングスカートと真っ白なカチューシャが特徴だ。
ここが異世界で無ければ、確実にコスプレカフェと間違えてしまうだろう。
前世の「萌え」は、ここでは普通なのだ。
お店には様々な衣装が陳列されている。
カジュアルな服から、フォーマルな場面でも重宝しそうなドレスまで様々だ。
私が手に取った服は、黒と白のコントラストが綺麗なゴスロリ風ドレス。
どうやら異世界でも需要があるようだ。
別の棚の服を手に取ると、胸元がぱっくりと開いたセクシーなシスター風衣装。
そうそう、私こんな服が欲しかったのよ!これで布教活動も完璧ね。
って何でやねん。
こんなシスターがいたら毎日でも教会に通うわ!
本当はコスプレ店の間違いじゃないの?と思ってしまうくらいの豊富な品揃え。
一人ノリ突っ込みをしながら、様々な服を物色した。
結局お忍びでも使えそうなカジュアルなオリーブ色のドレスに、黒のオーバースカートを購入。
早速そのドレスに着替え、街を散策することにしたのだ。
次に向かったのは「淑女館」。
母が最も行きたがっていたお店だ。
完全男子禁制のお店で、淑女に関する様々なものが置かれている。
特に母が興味を示したのがコルセット売り場だ。
古今東西様々なコルセットが陳列されており、一つ一つに店員の説明書きが書かれている。
「これを装着すれば妖精に変身!
限界ギリギリまで締め付けられる驚異の圧迫感!
どんな脂肪も魔法のように収納されてしまいます。
従来品に比べて圧迫率は2倍、スリム化効果は3倍(当店比)
しかもお腹に隠された新素材で、コルセット装着中もお食事が可能という優れもの!
今なら購入後、もう一つ同商品がセットで付いてきます!」
ジャ〇ネッ〇か!
母は一心不乱にコルセットの説明書きを読んでいる。
こら、買わされるわ。
ご利益のありそうな壺までは買ってこないでね。
マーサとマルブリットはコーナーの一角にある下着コーナーで、真ん中に大きな穴が空いたパンツを掴みながらキャッキャッ言っている。
よくよく見れば、淑女という名の怪しげなお店のようだ。
ロウソクや鞭まで売られているのだ。
自分の子供をいかがわしいお店に連れてくる親の胸中が知りたい!
さすがにいたたまれなくなった私は、外の空気を吸いにお店を出た。
んーなんていい天気。
日差しは穏やかで風も心地よく、散歩するには絶好の気候だ。
中央通りはお祭りのように大勢の人が行き交い、パフォーマーたちの奏でる音楽がまるでバックミュージックのようだ。
子供たちは笑いながら駆けまわり、大人たちが息を切らしながら追いかける。
ちょっとくらいなら大丈夫だよね?
母たちが淑女館で買い物を楽しんでいる間、私は1人で街の散策をすることにしたのだ。
ほとんどの時間私は屋敷の中で過ごしてきた私。
淑女になるためのレッスンが多く、屋敷の外に出れる機会なんてほとんどなかった。
同年代のお友達もいない。
まだ社交界デビューもしていないのだ。
開放感!
家族やメイドたちに何一つ不満はない。
みんなこんな私にも、とても良くしてくれるのだ。
ただ、私もお年頃の女の子なの。
もっと皆が経験するようなこともしてみたいの!
街を散策する私の後ろを小さな子供が付いてきた。
7~8歳くらいだろう。
黒髪の似合う、可愛らしい男の子だ。
保護者はどこにいるのだろう?
ひょっとして迷子?
「お姉ちゃん。この街の人じゃないよね?
ねっ、付いてきて。
ちょっと見せたいものがあるんだ。」
えっ、なあに?
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