スペースインベーター
ビービービービーッ。
けたたましく鳴る警告音に、意識を取り戻す。
パイロットスーツ内、耳元で鳴り響くので酷くうるさい。
訓練施設の起床タイマーを思い出す、何個投げ捨てて壊したことか。
備品の破壊は始末書が面倒だったなと、苦い思い出が頭に過る。
「──作業員、応答お願いします」
女性の──聞き慣れたAIの声が聞こえ、注文通り応答する。
「バイタルデータより貴方の意識が途切れていたことを確認。こんな状況で寝てたのですか?」
誰が設定したのか皮肉めいた口調でAIが問う。
サポート役なのだからもっとフレンドリーに気遣いできる設定にすればいいものの、どんな趣味なんだか。
仲間内でも随分と不評なのに、頑なに設定は変わらなかった。
一度設定したものはそうそう簡単に変えられないのか、そもそも誰かモデルがいて変えたくないのか。
とにかく皮肉に対して苛立っていても仕方がないので、答えを返す。
寝てたのではない、気絶していたのだ。
大体パイロットスーツに搭載されているカメラで、何が起きたのかは録画できているだろうに、AIがその確認を怠るとは思えない。
月面基地内に何処からか侵入した未知の生命体に遭遇、四足歩行の奇妙な動きに対応出来ず体当たりされ呆気なく気を失った。
自覚するだけで情けなくなる出来事を、何故口頭で説明しなければならないのか。
「気をつけてくださいと忠告しました。既にケーブル作業員、カクーラー作業員、メサ作業員の三名が死亡しています。なのに、貴方は一人で対峙した」
訓練施設の教官より嫌な物言いするAIにうんざりする。
一人で対峙したことを咎められても仕方ない。
ファラオもミラも既に襲撃されて怪我を負って医務室だ。
医療カプセルに寝そべって保管中とあらば、それを守ってやらなきゃならないだろう。
たった一体の侵入で基地内は半壊状態になっていた。
通路には所々天井に張り巡らされた電気ケーブルが千切られて垂れている。
外壁が壊されている部分もあるが、緊急防衛策で穴埋めの特殊スポンジで閉ざされている。
一先ず、呼吸をするのにまだ問題は無い。
「近くのステーションからの救助は、まだ五時間ほどかかる見通しです」
聞いてもいないのに嫌な情報を垂れ流すAI。
その五時間を隠れられる場所があればいいのだが、爆弾にも耐えれる造りをしてるはずの壁がこうも簡単に破壊されたので、そんな場所はこの基地には存在しないだろう。
相手の破壊力は驚異的で、体当たりされて右腕が一本折れた程度で済んだことは奇跡だったと思える。
高性能のパイロットスーツのおかげもあるのだろうが、そんな高額の投資で作られたパイロットスーツが無惨に引き裂かれた姿をもう三つも見てきた。
さて、どうしたものか?
「搭載カメラに移った生命体の分析完了。月で生息、進化を遂げてきた種であると思われます」
だろうな、という感想が漏れる。
そうであってほしいとも思っていた。
自分達のように別の惑星から何かしらの手段で月にやってきた生命体だったとしたら、地球だってヤツの標的になりかねない。
月の先住民だということは、縄張りにやってきた侵入者を懲らしめにやってきたということか。
どちらも侵入者退治に躍起なんだな。
ファラオとミラ、生存者を連れて月を脱出したいところだが、向こうさんもなかなか頭が回るようで脱出手段は真っ先に破壊された。
知ってたのか、知ったのかは気になるところだがこっちの技術について理解してる節があるのが何とも不利である。
こちらは何も知らないのに、向こうはこちらを知っている。
いや、知らされていないのか。
分析できるだけの情報があるのだから、
秘密基地に連れてった宇宙人、ってオチじゃないだろうな。
ビービービービーッ!
再びけたたましく鳴る警告音。
何だ、と問いかけるもそれで音が止むわけではない。
「生命体、急速接近。右の壁、来ます!」
壁?
AIの言葉に戸惑っていると、そこへ壁を突き破ってヤツが現れる。
光沢のある黒い鱗が並ぶ胴体に多関節の長い四足。
くねらせた首についた細長い顔は、猿のような突き出した口元とのっぺりとした頭部で構成されていて、鼻も眼も無かった。
ぶち開けた穴が月面に連なり、音も瓦礫も吸い込んでいく。
緊急防衛策で埋められていく壁、通路に音が戻っていく。
鳴り響く警告音、ぬちゃぁと滑る生命体の足音。
「警告、一人で対峙できる相手ではありません」
他人事なAIの声。
わかってるよ!、と怒鳴り散らし一目散で逃げ出す。
さて、どうしたものか?
大丈夫だ、落ち着け。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。
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