(43/47)お前のいつかはお前が作らないと

「カイさん、どういうことですか?」

「どうもこうも何もないよ。次はシャーロットがキメるんだ」

 デトックスがまたファーでアカトンボを操った。

「ほらほらほら!もう逃げるしかないだろう?」

 俺たちはできるだけ姿勢を低くして走っていた。

 アカトンボの脚が頭上を過ぎる。

 たまらず転びながら、ぎりぎりでそれを避ける。

 燃え盛る本体に当たってしまうより全然ましだが、逃げながらも身体中に火の粉が降りかかる。

「熱っ!」

「大丈夫ですか?」

 シャーロットがリタに言葉をかけた。

「ちょっと休憩しないと熱くて走れないんだよ」

 リタが赤い顔で息を切らして大の字になっていた。

 シャーロットもチィも俺も地面に横たわっている。

「やっぱり、シャーロットの力が必要だ」

「え?」

「シャーロット!あの晩、いや、いつもお前は何を望んでいたんだ?」

「わたしが望んだこと……。それは皆さんと一緒に冒険者になりたいって……」

「だろ?その仲間が苦しんでいるんだ。その願いはここで終わっていいのか?」

「終わるも何も無理でしょうし……」

「無理じゃないよ、シャーロット。今だからこそシャーロットにできること、いやシャーロットだけにしかできないことがあるだろ?」

「わたしにしかできないことって……」

「シャーロット、お前のミトンのギフトはなんなんだ?」

「……熱いものを掴むこと」

「アカトンボ相手にばっちりじゃないか!」

「え?無理無理無理無理ですよ……」

 転がっている俺たちから離れている一団の頭上をアカトンボがぎりぎりで通過する。

「大丈夫だ、シャーロット。もっと想像を暴走させるんだ。みんなと冒険しながらいろいろなところに行ってみたいんだろ?生きている限り、叶うまで望み続けることが希望になるんだ!」

「でも、でも。あんなに熱いものなんて。わたしに冒険者なんて」

「過去に引きずられるな。今は今なんだよ、シャーロット。今は過去の続きじゃなく未来への一歩なんだ。常識なんて捨てるんだ。常識ってのはみんなに知れ渡ったことにしか過ぎない。これからの常識を作るんだ」

「で、でも、できません」

「どいつも、こいつも……。できないとか簡単に諦めるな!」

 俺は思わず大声になる。

「カイさん……」

「いつかはって願うことさえ止めたら何もないぞ。お前のいつかはお前が作らないと。そしてそのいつかは今なんだ!」

「……本当にわたしにできますか?……このGGでアカトンボをつかめますか?」

 シャーロットの言葉がとめどもなく溢れる。

「わたしは……わたしは……わたしはっ!……冒険者になれますか?」

 シャーロットが真剣な顔で俺を見つめた。

 瞳の中にある迷い。

 そしてその更に奥にある希望。

 俺は黙って深く強く頷く。

 と。

「次はぽんこつ君に最後のご挨拶だよ!」

 デトックスが俺たちを標的にしアカトンボを送ってきた。

 転がっている俺たちには立って走るには時間がなさすぎる。

「さあ、シャーロット!自分の人生をやり過ごすな!ちゃんと自分の物語の主人公として真ん中を行け!横によけず陰に隠れず確かな思いで歩んむんだ!」

 シャーロットが立ち上がり胸の前でミトンの両手を結んで目を閉じてた。

 熱風にさらされながら汗をうかべている。

 アカトンボは猛スピードで迫ってくる。

「シャーロットォォォッ!」

 その時。

 ポピン♪

 シャーロットの頭上に音が視えた。

 今だ!俺は心の中で素早くギフトを唱える。

 『イマスグズルミー!』

 視えた!

 <<<どんな熱いものでも耐えられるギフトがギフトされました>>>

 きたっ!

「シャーロット!次は言葉だ!ギフト思い実行する伝える言葉を紡ぐんだ!」

「はいっ!カイさん!」

 シャーロットが両手を挙げ叫んだ。

「『ノンチッチDXデラックス』!」

 その声と同時に迫ってきたアカトンボの脚をがっちり掴んだ。

「なに?アカトンボに触れただと?」

 デトックスの顔に驚愕の色が浮かぶ。

 しかしすぐさま、

「ふっ。まあ掴んだだけではどうということはないな。やはり人間は愚かよのう。はっはっはっ」

 と高笑いに変わった。

 続けて得意そうに話す。

「そのまま連れ去られてしまうだけ……え?なに?なんだとっ?」

 デトックスの言葉が中断される。

 そう。

 シャーロットが掴んでいるのだ。

 ご両親からの贈り物を使った、シャーロットにしかできないこと。

 それは彼女のGGとそのギフト。

 ――熱いものを掴むこと。

 そしてもう一つは彼女の授かった才能。

 ――デズリーで一番の力持ちパワープレイヤー

 シャーロットが汗を流しながらアカトンボの脚を掴み手繰り寄せている。

「何をしている!負けるでないっ!」

 デトックスがファーを上下に揺らしアカトンボに命じる。

 アカトンボはそれを受け羽をばたつかせる。

 しかし。

 シャーロットに掴まれ高くは飛びあがることができない。

「わ!た!し!はっ!諦めませんっ!」

 あの温厚なシャーロットが歯を食いしばりアカトンボの動きを阻止している。

「こしゃくな!これでもか!」

 デトックスがさらにファーの動きを速めた。

 アカトンボの羽がさらに上下に動く。

 拮抗している両者。

 だが。

 シャーロットが自分を軸にゆっくり回りだす。

 アカトンボの脚を持ってハンマー投げのような態勢になりは徐々にその回転をあげていく。

 炎が上空へあがり、熱波がまき散らされた。

 拡がった炎はアカトンボ自身の羽をも包む。

 嫌な音がしてその羽はあらぬ方向に曲がった。

 アカトンボは完全に推進力を失った。

「シャーロット!そのまま池に投げ込むんだ!」

「わかりました!」

 シャーロットはますます回転数をあげる。

 そして。

 池の方向へ身体を向けた瞬間、手を離した。

 投げ出されるアカトンボ。

 炎にまみれた巨体は放物線を描いて池に吸い込まれる。

 落ちる振動、そして遅れて池が干上がるような蒸発する音がきこえてきた。

「……やりました。やりました!カイさん!」

 シャーロットの歓喜の声。

 更に冒険者たちの大きな歓声がその声を包み込んだ。

 よしっ!

 よし!よし!よしっ!

「さあ次はお前だ!お前と勝負だ!デトックス!」

 俺はデトックスを指さした。

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