(42/47)諦めるのを諦めろ!
そんな俺たちをデトックスが余裕たっぷりに仁王立ちで見下ろしている。
「何が見せ場だ?馬鹿どもめ!集まったところでかえって攻撃しやすくなったというものだわ!『ゴートゥヘブン』!」
と、ファーを振り下ろした。するすると俺たちの方へ向かってくる。
「はひぃっ」
「いや〜ん」
「んふぅ」
一振りで三人の冒険者が倒れた。
後方ではアカトンボの体当たりで壁が崩れる音が聞こえてくる。
「ハーハッハーッ。どうやって『俺たちで町を守る』というのだ?」
デトックスが高らかに笑い声をあげる。
「まだまだ続くぞ!町の前にまずは自分たちの身を守れるのかい?」
ファーがまた俺たちへを伸びてくる。
足がもつれていた俺は鼻先でファーをなんとかかわした。
「『ぬくぬくシールド』!」
隣のチィはギフトを唱えて毛布に自身の身体を包み込んだ。
ファーの毛先がチィの
二人は吐息とともに崩れ落ちた。
自分だけ大丈夫だったチィが悔しそうな表情を浮かべている。
と、その時。
ポピン♪
チィの頭上に音が視えた。
これって?
俺は心の中でギフトを唱える。
『イマスグズルミー』!
チィの頭上に字幕があった。どうにか後半だけ視認する事ができた。
<<……守れるギフトをギフトされました>>>?って書いてある?
そういえば……『強い思いと想像力』……だったっけ?
チィが毛布の中から手を伸ばし俺の腕をつかんだ。
「コトンボ未満!どうすれば?」
そういうことなのか?
「チィお前だ。お前がみんなを守るんだ」
「え?」
言われたチィが目を丸くした。
「何言ってるのコトンボ未満。チィになにかできるはずが……」
「できるんだ」
「チィに?」
「ああ」
「だってチィは冒険者じゃないし」
「
「無理に決まってるわよ」
「無理じゃない。チィにしかできないことだ」
「だって」
「だってじゃない。冒険者になりたいんだろ?夢はお前が変わらない限り夢のままだぞ」
「え?」
「お前のギフトでみんなを守るんだ」
「チィのギフト?」
「願え、望め。そして自分を信じろ。できるはずだ。ギフトはもうお前の中にあるはずだ」
「何言ってるの?」
「そのGGで自分だけでなくみんなを守りたい思わなかったか?その時にポピン♪という音を聴かなかったか?」
「……それは今思っていたけど。自分ばかり守っててずるいからって。だからみんなも守りたいって」
「ポピン♪という音も聴いたんだよな?なら大丈夫。あとはどうしたら守れるか想像して、それができると自信をもって、そして言葉を探すんだ」
「想像と自信、そして言葉?」
「そうだ。どうすればみんなを守ることができる?」
「……この毛布が大きくなったら?とか?」
「じゃあ、それが正解だよ」
「何言ってるの?コトンボ未満?毛布が大きくなる?そんなの無理に決まっているじゃない!」
「無理じゃない。誰が無理だと言ったんだ?」
「だって、毛布が大きくなるなんて見たことないし」
「見たことないことはできないこととイコールじゃない。だって実際に見るまでは見たことない知識の方が多いだろ?せっかくのチィの
「……カイ」
「俺は頑張っているやつに『頑張れ』と命令形でものは言えないよ。だけどチィ。お前は今頑張れ!諦めるのを諦めろ!」
デトックスの声がした。
また近くで複数人冒険者が倒れた。
背後からは壁がくずれる低い振動が伝わってくる。
「早く!お前の出番は今なんだ!」
チィは目と口を固く閉じたままだ。
「『ゴートゥヘブン』!」
デトックスがファーを振り下ろした。
するするとその先がこちらへ近づいてくる。
チィの顔つきが変わった。そして毛布を自分の身体からはがし旗のように掲げ振った。
「『ぬくぬくキングサイズ』!」
毛布が拡がった。拡がり続けた。
冒険者たち一団の頭上に舞い上がった。
デトックスのファーが拡がったチィの毛布で遮断される。
「おお!チィ!それだよ!やっぱりできるじゃないか!」
俺はチィの肩を叩いた。
「すごいんだよ?」
「チィちゃん!感動しました!」
リタとシャーロットも感嘆の声をあげた。
「何を?何をやったのだぁ?」
デトックスが睨みをきかせた。
「『ゴートゥヘブン』!」
「『ぬくぬくキングサイズ』!」
またもやデトックスの攻撃をチィが完全に断ち切った。
「なるほど。そういうことか。この人間風情がやるじゃないか……。ではこれならどうだ!」
デトックスがファーを短く振り切った。
毛先はこちらに伸びてこない。
が。
が!
アカトンボが突進してきた。
やばい!これ、壁じゃなく俺たちに向かってきてるじゃん!
「カイ、これはちょっと自信ないわ!」
チィが俺を見上げた。
「だよな、これは難しいかも。いったんみんな広がるんだ!」
塊となっていたデズリーの冒険者たちはテーブルにこぼした豆のようにバラバラと散らばっていった。
間一髪。散り散りになった後の、ちょうどドーナッツの輪になったような部分にアカトンボの足があたっていた。
「ほらほらほら!アカトンボ相手だと逃げるしかないだろう?」
恍惚の表情のデトックスがまたファーを短く振り切った。
アカトンボが旋回して壁ではなく冒険者への一団へと突っ込んでいく。
デトックスのいう通りひたすら逃げるしかない俺たち。
頭の上をアカトンボが熱風とともに火の粉を落として過ぎていく。
もう少しで燃え盛る脚が当たってしまいそうになる。
「あっぶねぇー」
俺たちはしゃがみ頭を引っ込めてかわす。
ギリギリだったな。
あれ?
ギリギリ?
ん?
ギリギリってことは、ひょっとしたら逆にチャンスじゃね?
横ではチィが申し訳なさそうに俺を見上げていた。
「カイ、ごめんなさい。さすがにあんなに大きなアカトンボは……」
「十分だろ。魔人に一泡食わせたんだから」
「そうなんだよ?チィ格好よかったんだよ」
「チィちゃんは本当凄かったですよ。それに比べたら私なんて……」
「いや、シャーロット。チャンス到来だ。次はシャーロットの番だぜ」
今度はシャーロットが目を丸くする番だった。
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