(41/47)テンションがあがってくるぜ!
デズリーの冒険者たちから甲高いパニックの声が上がった。
「ええ?なんでなの?」
「待って待って!」
「そんな理不尽よ!」
甲高い声?
あれ?
これ女性ばかりじゃない?
と、一拍置いて低い怒涛の声が上がる。
「やったー!」
「おお!」
「今度こそ!」
男性冒険者から期待の歓声が上がった。
女性冒険者は後ろへ下がり男性冒険者は前に押し寄せる。
ちょっとした混乱が起こったその時。
「騒ぐな!」
デトックスがファーを振り上げた。
「来るのだ!我が
と、遠くから真紅のものが飛来してきた。
それはあっという間に近づいてくる。
なんだ?
緊張のためか汗が滴り落ちた。
いや?
周りを見ると汗を落としているのは俺だけではなかった。
「あ!」
リタが紅い襲来物体を指差した。
汗をかきながら震える声をだした。
「あれ、アカトンボなんだよ?」
アカトンボ?
「アカトンボ……しかも大型よ。あれはまずいわ」
見るとチィも青ざめた表情をしている。
「なんだ。アカトンボもまずいのか?俺は食ったことないけど」
「そうじゃないんです」
シャーロットが真剣な顔で答えた。
「じゃ、何がまずいんだ?」
「アカトンボがまずいんだよ⁉︎」
リタも反応する。
「まずいってことで合ってんだろ?」
この世界の食い物はよくわからんし。
「このコトンボ未満!食べなくてもまずいわよ!」
「どういうことだ?」
「アカトンボは……燃えているんです」
シャーロットが俺の言葉を拾ってくれた。
「はあ?燃えている?」
「トンボは成体になったら殻が硬くすぎるので水をかけてふやけさせないとなかなか倒せないのです。ですが……アカトンボは燃えているのでなかなか厄介なのです。でもあんなに大きなアカトンボだと……」
「どうなるんだ?」
「ちょっとやそっとの水だと、かけても蒸発して効果がないかもしれません」
「おお?」
「しかもあの勢いで来られたら……」
シャーロットの言葉が終わらないうちに熱風そのもののようなアカトンボが火の粉を撒き散らし頭上をあっと言う間に通過して行った。
でかっ!
トンボなので線こそそんなに太くはないが、体長も羽根もプールの長い距離くらい?ってことは25メートルはあるんじゃないか?
と、凄まじい音と振動。
デズリーの城壁にそのままぶち当たった。
壁のかけらがぼろぼろと崩れ落ちた。
粉々になった破片は黒い煙をあげ燻っている。
体当たりをかましたアカトンボは何のダメージも無かったようで大きく旋回して上空へとあがっていった。
「何?魔人ってああいうのも自由に使えるものなのか?」
「わからない……けど、そうみたいね」
熱気で頬が真っ赤になったチィが答えた。
「魔人を見るのも初めてだからわからないんだよ?」
リタの首筋からも汗がしたたり落ちた。
「ハッハッハッハー」
デトックスの高笑いが響く。
「さあ、町を破壊されたくなければ『ハーフ』を差し出すんだよ!」
そう言うとファーを町の門へ向かって振り下ろす。
アカトンボがその曲線を一直線追い再度体当たりをした。
壁面がまたぼたぼたと崩れ爛れ落ちる。
俺たちが出てきた門が破壊されていく。
町へと続く空間のすぐ前には瓦礫が散らばり煙を上げている。
足元の危うさと熱気で逃げ戻ることさえやっかいな状況が出来上がる。
町の外へ出てきている普段は能天気な冒険者たちも静まりかえった。
「まてまて待ってくれ!デトさん!」
俺は大声をあげる。
「『ハーフ』ってのは渡さないわけじゃなく、まだ手に入ってないんからなんだ」
「期日までに魔人相手に約束を守らなかった結果だ!」
「期日は明日ですよね?」
「知ったことか!」
デトックスがファーを頭上に掲げた。
まずい。
味わってもみたい。が、無様な姿を見せられるほど肝は太くない。
「ぽんこつ君もかわいいけどね。ここまでかな」
デトックスはそのファーを俺に向かって振り下げた。
ふわふわとしたその先が真っ直ぐに向かってきた。
あ、そうだ。
「『チェーンショーメー』!」
叫んだ途端にファーがゆっくりとした動きに見える。
俺はひょいと横に動きそれをかわす。
「ぽんこつ君?」
デトックスが不思議そうな顔をして、再びファーを振り下ろす。
『チェーンショーメー』が活きている俺は同じように避ける。
「『ゴートゥヘブン』!『ゴートゥヘブン』!『ゴートゥヘブン』!」
ファーが伸びる、俺が避ける、ファーが伸びる、俺が避ける、ファーが伸びる、俺が避ける。
周りで見ているやつらは不思議そうな顔をしている。
その後もファーが伸びるが俺が避けるの事が繰り返される。
鎮まりかえっていた冒険者たちから歓声が巻き起こった。
「カイ、いいぞー!」
「その調子だ!」
「頑張れー!」
デトックスは動きを止め、紅い唇を紅い舌で舐め回すとゆっくりと笑った。
「いいじゃない。壊し甲斐があるよ」
今度は町へ向かってファーを伸ばす。
追随して赤トンボが壁に突っ込んでいく。
音とともに壁が燃え崩れ落ちた。
すぐさまそのファーを俺へと向ける。
不意をつかれるがそのスピードは変わらずゆっくりに見えている。
が、さすがにアカトンボの熱気と繰り返しの動きで、俺の身体も重くなっていた。
足がもつれた。
「カイ!」
筋肉隆々の髭面の冒険者が俺を押し飛ばした。
「はふぅっ!」
代わりにその男がファーの餌食になる。
「カイにばっかり任せませられないからな」
と、遠い目をしつつ満足そうに横たわった。
俺の周りに人が集まってきた。
「そうだぜ!」
「『ハーフ』なんてもの知らねえものは知らねえし!」
「俺たちで町を守らないと!」
「新人一人に任せてたら
老若男女問わず、デズリーの冒険者が結束した瞬間だった。
「カイ、大丈夫ですか?」
「全く、コトンボ未満が格好つけるんじゃないわよ」
「ボクたちだっているんだよ?」
シャーロット、チィ、リタも寄り添ってくれている。
いいじゃん!
こういうのだよ、こういうの!
テンションがあがってくるぜ!
さあ!
ここからが
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