(40/47)ギルドで飯食ってただろ。なら冒険者ってこと
一挙にギルド内の空気が変わった。
先ほどとは異なるざわめきが充満する。
「どうした?」
近くにいた冒険者の一段に様子を訊く。
「いや、障壁の外に魔人がきたらしい」
「え?魔人?」
「デトックスか?」
「あいつは明日って話だから別の魔人か?」
「でもこんな
「そうだよなあ。デトックスだってすごい久々の魔人の襲来だったのに。今までこんなに来たことなかったよな」
そこに大きな声が響き渡った。
「みなさーん!魔人の襲来でーす!城壁の外へ集まってくださ−い!」
ジーナが大きな声を出していた。
デトックスで一回慣れてしまったのか、どいつもなかなか席を立とうとしない。やる気のない避難訓練のような空気が漂っている。
「冒険者のみなさーん!城壁の外へお願いしまーす!」
再度ジーナが大きな声を出した。
「はい、城壁の外へお願いしまーす」
「早めに行動してくださーい」
「ご協力おねがいしまーす」
みっちゃん、よっさん、ごっちゃんもテーブルの間を周っている。
これ、知っている。
……閉店まで粘った時に追い出さられるあの時の急かされ具合だ。
「行かなくて大丈夫なのでしょうか?」
真面目なシャーロットが心配そうに口を開いた。
「そうなんだよ?」
「行かなかったらチィたちもコトンボ未満の腰抜けにみられてしまうわ」
リタとチィが腰を浮かした。
「俺たちも一応は冒険者だしな。ちょっと怖いけど行ってみるか」
俺も後に続く。
そして座ったままのシャーロットに声をかける。
「シャーロットも行こう」
「え?」
「だって冒険者になりたいんだろう?」
「でも、わたしは……」
「行動しないと何も変わらないんだぜ」
「だってわたしにはそんな資格が」
「ギルドで飯食ってただろ。なら冒険者ってことでいいじゃん」
俺はシャーロットの手を強引に引っ張った。
ぞろぞろと歩みの遅い一団とともに、俺たち
少し離れた小高いところに、何やら人影があった。
ん?あれ?また女性?
ん?身体の線がくっきり沿った紅い鎧が見えた。
「……ねえ、あれって」
リタが小声で訊いてくる。
「……ああ、デトックスだな」
「でも、一日早いわよね」
チィも声を押し殺して話してくる。
冒険者の塊の中でもざわつきが起こっていた。
紅い影が仁王立ちになった。
「遅い!遅いぞ!約束に女性を待たせるとは何事だ!」
え?
「ここで半刻以上待っていたのだぞ!お前らの感覚はどうなっているのだ!」
デトックスはかなりの激怒状態だった。
「おい!約束の日だ!『ハーフ』は用意できたか?」
デトックスが難題をつきつけてきた。
できてもいない宿題を、しかも一日早い提出で求めてきている。
当然、デズリーのみんなは静まり返る。
「おい。聞こえてないのか?『ハーフ』は用意できたかのかと訊いたのだ」
みんな指されないように下を向きながら見合わせている。
と、風が吹き砂埃をまきちらした。
くしゃん。
先頭の方の女性冒険者だ。
当然目をつけられる。
「お前、どうなっているのか答えろ」
「あの、その」
上手く答えられない女性冒険者の目の前にデトックスのファーが突きつけられた。
「デトさん!」
俺は右手を挙げ思わず大きな声を出していた。
「ああ、ぽんこつ君。君が答えてくれるのか?
「はい、デトさん!質問させてください!」
「生徒みたいでかわいいじゃないか。質問か?いいぞ?許す」
「あの、その、約束の日って明日じゃないんでしたっけ?」
「何言ってるんだ……。いいかい、ぽんこつ君。あれから六日後、つまり今日が約束の日だろう?」
「そ、そうなんすかね?」
「そこまでのぽんこつ君だったとはな。良いか?見ていろよ?」
デトックスは右手を前に出し数え始めた。
「あの日だろ?」
と言って指を一つ折った。
……ああ、これダメなやつだ。
「で、二日後と。四五と続いて六。ほら今日じゃないか」
最初の日を一日と数えている。
そりゃ一日早く来るわけだ。
「デトさん、あの日からスケジュール帳って開いて見ました?」
「お前のようなぽんこつじゃないからな。予定が決まってしまえばそんなものを見なくともここにきちんと入っているわ」
と、デトックスは自分の頭を指した。
……その部分が少々足らないと思うんだけどなあ。
「ちなみに、その、ひょっとしてですけど、先日話していた時の四日後の約束ってどうなりました?」
「ん?待ち合わせ場所に行ったら誰もおらぬでな」
……ですよね。
「しかも昨日はきちんと休息できなかったんじゃないです?」
「よくわかるな。そう。昼前に何を急に休んでいるのかと連絡があってな。結局休息はできなんだ」
……でしょうね。
「で、それがどうした?」
デトックスが俺を不敵な笑いで刺す。
「その、大変言いにくいのですが、数えかたが」
「数えかたが?」
「間違ってますよ」
「何を言ってるのだ?ぽんこつ君?」
デトックスが呆れ声を出す。
「いいか?見ていろ?あの日だろ?」
と言って『あの日』からまた指を折り始めた。
「そこです、そこ!」
「なに?」
「あの日を数えちゃってるじゃないですか、一日後として」
デトックスが俺と自分の指を交互に見た。
顔から表情が消える。
「だから全部一日早くなちゃってるんですよ。数えずにスケジュール帳を見ていればそんなことなかったんでしょうけど」
デトックスは脇に両手をだらしなく垂らせて
デズリーの冒険者たちに、くすくすとした忍び笑いが伝播していた。
「あ、あの、デトさん?」
デトックスは我を取り戻し慌てて冒険者全員を見渡す。
「うるさい!そんなことはどうでも良い!」
そう言ってファーを地面に叩きつけた。
激しく砂埃が舞ったが、弛緩した冒険者たちには効果がなかった。
軽くなった空気が全くひいていかない。
「とにかく『ハーフ』をだせ!
「でも、それって本当は今日休めてたって話だよなー」
男性冒険者があくびをしながら答えた。
「なあ。用意できていないし、何より締め日よりも早いしなあ」
今度は別の男性冒険者が頭に腕を組みながら答えた。
「そんなことはどうでも良い!昨日、急に呼び出されても妾はきっちりと対応したぞ!」
デトックスはまたファーを荒々しく叩きつける。
「そりゃ、ずる休み的なことがバレれば急いで対処するよなー」
答えるのはみんな男性冒険者だ。
元来お調子が過ぎるデズリーのみんななので、一旦緩んだ空気はなかなか元に戻らなかった。
加えて、デトックスのギフトにあやかりたいという思惑もあるのだろう。
「うるさい!」
デトックスは先ほどとは異なるスピードでファーを地面へ叩きつけた。
くっきりとした深い溝が跡に残る。
そして憤怒の笑みを浮かべた。
「こうなったら、デズリー全て潰してやる!」
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