(38/47)ショートケーキといえばイチゴでしょ?
「獲る?盗る?力づくで?」
「あれ?そういうことも知らないでショートケーキが食べたいって言ったの?」
リタは本当に呆れたといった表情を浮かべる。
「いや、すまん。そういうの知らなくて。今まで食べたことしかなかったから」
「ひょっとしてお金持ち?使用人とかにやらせてた?ショートケーキがホールケーキの子どもっていうことも知らなかったとか?」
「え?そうなの?」
「……はあ。まあ仕方ないんだよ?」
と、続けて説明をしてくれた。
「普通、ホールケーキとショートケーキは二匹で生活してるんだよね。で、親のホールケーキは子どものショートケーキを守ってるんだ。なので
「……なんだか後味の悪い話だな」
「そうすごく後味悪いんだよ。だから誕生日に食べるの。親子のありがたさや生命の尊さを知るために。なんていうか教育的な一面もあるんだよ」
「しかも重い話だ」
「そう思ったより重いんだよ。でも食べたいって言ったのはカイなんだよ?さ、できるだけバシャバシャ音をさせながら沼の中央から端の方へ進もう。ホールケーキが威嚇してくるから、その後ろに守って隠しているショートケーキを追い込んで盗るんだよ?」
「お、おう。……わかった」
中央付近まできた俺たちはバシャバシャ音を立てて端まで進むことにする。
足を高く上げて進むことになるので余計に滑りそうになる。
「なあ、子どもじゃなくて親を獲るってのはダメなのか?」
「ホールケーキってこと?まあボクはホールケーキが良いけど。だけど手強いんだよ?」
「ショートケーキの方が捕らえるの簡単なのか。じゃあショートケーキで」
どの程度の差があるのかわからないけれど、とりあえずは確実な方を選ぶ。
と、二歩ほど離れたあたりから、水面から赤いものが発射され、真っ直ぐにリタへと飛んで行った。
「イチゴだ!あのあたりにホールケーキがいるんだよ!」
リタがイチゴを避けながら叫ぶ。
「イチゴ?」
「ショートケーキといえばイチゴでしょ?」
まあ、そうなのかもしれないけど。
「うちがホールケーキを引きつけるからカイがショートケーキを盗って」
俺は言われた通りに動く。しかし思うように歩けず、もたもたと回り込んで進もうとしていると、二発目が発射された。
「痛っ!」
イチゴはリタに命中し赤く弾けた。
「カイはやく!コトンボよりは痛くないけどそれでも痛いものは痛いんだよ」
本人も言っていた通り、リタのギフトでは白い沼ではあまり敏捷には動けないないらしい。
足元の成分が違うということが原因なのかな?
同じサンダルのギフトなのに状況によって使いにくいとかあるんだな。
土の上でなくても使えるギフトがもらえられないものなのだろうか。
あ、でも、もらえた音がしても普通は何のギフトなのかわからないとも言ってたな。
そういうのがわかれば良いのに。
そうすれば少しはこいつらの役にたてるのに。
と。
ポピン♪
と、音がなった。
頭の中の目の前で字幕が横切る。
<<<ギフトが授かったら視えるギフトをギフトされました>>>
……ちょっとわかりにくくない?
あれ?でも、今でもそんなギフト持ってるよな、俺。この字幕のことかな?
「痛い、痛い!」
リタの声が聞こえてくる。
イチゴをかなり被弾しているようで、服のあちこちが赤く染まっている。
「カイ〜!早くして〜!」
やられながらもホールケーキをひきつけるためにバシャバシャと音を立て続けている。
「ここだと踏ん張れなくてジャンプもできないから当たりまくっちゃうんだよ〜」
と。
<<<ポピン♪>>>
また音が鳴った。
いや、音が視えた?
リタの頭上に音が視えた気がする。
あれ?
<<<ギフトが授かったら視えるギフトをギフトされました>>>
ってさっきあったよね。
ひょっとして、そういうこと?
えと、
他人のを視られるから……。
よし!
『イマスグズルミー!』
俺は心の中で叫んだ。
感覚がカチッと音をたてた。
と、リタの頭上に消えゆく字幕がかろうじて視えた。
<<<……プできるギフトをギフトされました>>>
ん?『プできる?』って??
わからん。
俺の反応が遅く最後のとこしか視られなかった。
「カイ!早くってば!ボクこれ以上キツいんだよ?」
「お、おう!」
俺はようやくホールケーキの後ろに回り込むと沼に手を入れた。
指先に何か感触を得たので、そのまま手で包み込む。
手の中に感じるのは二等辺三角形のような、いわゆるショートケーキの形だ。
これか!
思い切り下からすくい上げる。
が、激しい抵抗で腕ごと沼の中に持っていかれる。
気づくと顔が白い沼に埋もれていた。
俺は前のめりで倒れていた。
「何やってるんだよ?カイ!」
「いや、小さいのに、こんなに重いとは」
「だから、うちもちゃんと『重い』って言ったじゃない」
「聞いてないよ!いや、あれ?言ってた?言ってたは言ってたか?」
確かに言ってはいたけども。
「言ってたんだよ?ああ、でも逃げられちゃったね。ボクにも威嚇してこなくなったし」
確かに今はもう水面は波もなく静かになっていた。
「カイさーん」
シャーロットが手を振って近づいてきた。
「どうでした?」
「いや、全然ダメだった」
俺は首を左右に振って答えた。
遅れてチィもやってくる。
「シャーロットたちは獲れた?」
俺は二人に声をかける。
「はい。わたしたちはしっかりと」
「さすがはボクのシャーロットなんだよ」
「チィちゃんがギフトでイチゴから身を守ってくれました。その隙にすくい上げるって作戦です」
そう言うとシャーロットが微笑んだ。
「ボクたちはさんざんだったんだよ」
「手に入れられたんだから良いじゃないか。さあ、戻ってショートケーキ食おうぜ」
俺は意気揚々と宣言する。
「……う、うん」
あれ?チィの反応が良くない?
金持ちだからいつも豪華なケーキを食べていて、ショートケーキは乗り気じゃないのかな?
それとも、何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
「ボクらの分のも獲れたの?」
「うん。チィたちの分も獲れた……」
下向き加減の暗い声で反応をする。
どうしたんだろう?
やっぱりショートケーキが原因か?
なんだか心配になるな。
「うん!みんなの分も獲れたのか!いいじゃん!いいじゃん!みんなで食おうぜ!」
と、俺は強引に明るい声を出す。
「さあ!戻ろうぜ!」
もしチィがショートケーキで何か嫌なら思い出があるなら、楽しい思い出になるよう上書きしよう。
その時の俺はそんな呑気な事を考えていたんだ。
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