(36/47)恥ずかしがらずに言ってごらん
ごくり。
この流れ……実体験はないけど知ってる。
これ『良い雰囲気』ってやつじゃない?
いや?
いやいやいや。
違う、違うな。違うに決まっている。
期待しちゃいけない。
そう、期待しちゃいけない。
落ち着け俺。
そうそう、もともとシャーロット近づきすぎるきらいがあるし。
そもそも俺、そんなにモテるようなことしてないし。
「カイさん?」
気づくとシャーロットの顔がすぐそばにあった。
「え?あ?」
「すみません、変なこと言って」
「い、いや?」
「でも、本当なんです」
シャーロットの言い方に熱がこもる。
あれ?
でも、これワンチャン巡ってきたの?か?か?
「カイさんが来てから、わたし、ちょっと変なんです」
そう言うと、シャーロットは少し距離をとって目線をずらした。
「こんな気持ち今までで初めてなんです」
「ど、どういうこと、なの、かな?」
「カイさんのそばにいて、カイさんを見ていると」
と、今度は横目で視線を絡ませる。
「胸がドキドキしてしまうんです」
「そ、そうなの?」
「はい。この気持ちを何て言ったら良いのか」
おお?
やっぱり、これあるんじゃない?
「ど、どんな気持ちなのかな?」
「いえ、やっぱり良いです。なんか恥ずかしいというかみっともないというか」
こほん。
「いいか、シャーロット」
俺はできるだけ良い声を出すよう努めた。
「たぶん、いや、絶対。絶対だ。誰でもそういう気持ちになることはある。みっともない事なんかじゃない。だから」
「だから?」
「恥ずかしがらずに言ってごらん」
「でも」
シャーロットは不安そうに下を向いてしまう。
そうか。そういうことか。
最近なんかシャーロットがおかしいなと思ってたのはこれが原因だったのか。
「大丈夫だよ、シャーロット」
俺は軽く咳払いをした。
「そ、その、何を言おうと大丈夫。俺が全部受け止めるよ」
「……カイさん」
シャーロットの大きな瞳が潤んできた。
「ありがとうございます……じゃあ……甘えさせてもらいます」
「そうだよ、シャーロット。俺らの間に遠慮なんて無粋なものはいらないさ」
俺はそう言いながら頷き笑顔を作る。
呼応するかのようにシャーロットは安心したような大きな笑顔を作って言った。
「カイさんを見ていると……」
そうそう。正直にその胸のうちを。
俺も同じ気持ちにだよ。って、あれ?
これ最近もあったような?
いやいやいや。
シャーロットは俺をまっすぐ見ている。
「こほん、その、俺を見ていると?」
「あの、その、羨ましいんです」
「俺もだよ!って、いや、違う?違う違う。今のなしなしなし」
へ?
「え?あれ?羨ましい?の?……って、なに?どういうこと?」
「いや、もっと正直言うと」
「そうそう、正直に言って良いからね」
「……ずるいと思うんです!」
???
あれー?
「その、シャーロットさん?俺、ズルい、ですか?」
シャーロットをその気にさせたしまうなんてズルいとか?
じゃないよなあ、この流れ。
何かまずった?何かやっちゃったっけ?
「でもカイさんが悪いんじゃないんです。仕方ない事なんです。仕方ない事なんですけど……」
シャーロットの大きな目から大きな涙がこぼれた。
「まずは落ち着いて。大丈夫だから。受け止めるから」
「……ありがとうざいます」
「だからゆっくり話そう。シャーロットがどうしちゃったのか、俺もきちんと知りたいし」
「……カイさん」
シャーロットは大きく息を吸うと、
「わたしは、そう、わたしはカイさんと違って
と、たどたどしく胸の奥から言葉を探して話し始めた。
「田舎ですしそんなに大きくはない宿屋と、そしてみんなが集まれる食堂。昔から代々伝わるわたしの家、そしてそれがわたしの職業です。そして6歳の時に教会に行って、このミトンを
シャーロットはミトンを手に持ち愛おしそうに眺めた。
「亡くなった母からもらったものです。プレゼントというにはあまりに実用を兼ねたものでしたが、やっぱりこれでお手伝いできるのが子ども心にも嬉しくて。思い出が詰まったものですし、手に怪我をしてまっては宿屋も食堂もできないだろうと思ってGGにしてもらいました」
俺はシャーロットの話に頷いた。
「なので、前にもお話ししましたが、力持ちがわたしのギフトではないんですよ」
シャーロットははにかむように小さく笑って続ける。
「親からもらったものをGGにして役立つギフトを授かって代々の職業をして暮らす……、この
シャーロットが俺に視線を移した。
「カイさんが自由で羨ましいんです」
「自由?」
「はい。前のことを覚えてないとかありますし羨ましがってはいけないと思うのだすが……カイさんが自分で選んで自分で前に進む姿をみて、どうしてもズルいと思ってしまうんです。別に今の自分が今の家が今の職業が嫌だということではありません。もちろん何をしても良いと言われてもこの仕事を選んでいたかもしれません。でも……でも、どうしても何かに縛られているような、もやもやした気持ちがずっとなくならなくて」
シャーロットは一気にまくしたてると下を向いた。
「もし……もしだよ?もしもの話。なれるんだったら、シャーロットは宿屋以外に何かなりたいの?」
「え?」
「それがもやもやの原因じゃないか?」
「無理です、無理です。絶対無理です」
「なんでさ」
「だって、わたしのギフトだと宿屋以外無理ですし、なりたいものなんてないです」
「あるんだろう?なりたいもの」
俺は首を横に振った。
「いいかい?シャーロットはいま『無理』と言ったろう?それは何か具体的なものがあったからじゃないのか?」
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