(33/47)図星をさされた俺は
「デ、デトさん!」
俺は一歩前に出てデトックスに話しかける。
「なんだい、昨日のぽんこつ君じゃないか。お前もこれが欲しいのかい?」
デトックスは右手で紅いファーをくるくると回した。
「いや!それはちょっと勘弁してください!」
「ふふ。昨晩の感じだとぽんこつ君にはまだ早いかしら?でもそこが逆に新鮮だけど」
「いやいやいや、本当、お願いですから勘弁してください」
俺は盛大に両手を振って拒否を全身で表した。
「あら残念。で、何かしら?」
「デトさんって、魔人だったんですね。でもなんで魔人の方が宿屋なんかに」
「昨日の夜はプライベートよ。だって今回は出すもの出してもらえればこの町を壊す気もないからね」
「あ、ありがとうございます」
「まあ、こんな初心者冒険者ばかりの町壊したって何の得もないから。それならいっそ楽しんじゃった方がいいかと思ってのよ」
「そ、そうなんですね。で、その、寛容なお気持ちに応えたく、ひとつ質問がありまして」
「いいじゃない。なんだい?」
「あの……『ハーフ』ってなんですか?」
「…………」
俺の問いに何の反応もしない。
あれ?聞こえなかったのかな?
もう一度大きめの声を出してみる。
「デトさん、『ハーフ』ってなんですか?」
「……知らない」
「え?」
「知らないって言ったんだよ」
まだ自力で立っている者達がざわめく。
「デトさん、ひょっとして、知らないものを寄越せって言ってたんですか?」
「……デズリーの『ハーフ』を奪ってこいと言われたのよっ」
「…………」
今度は俺が黙る順番だった。
「初心者の町だし、だから妾がなんだか知らなくても脅せばすぐ出てくると思ったし、だから何も調べるなんて面倒なことせずやってきたんだし、だから昨晩も飲みほうけていたんだし。だから、だから!いいから『ハーフ』を出しなさい!」
と睨みをきかせた。
ものすご、こっわ。
「早く!早く『ハーフ』を出しなさい!」
またもや紅いファーがするすると伸びてくる。
「「「「危ないっ」」」」
筋骨隆々の男達が俺をはね飛ばし大の字で立ちふさがった。
「はぇ〜」「ひぇ〜」「ふぇ〜」「ほぇ〜」
次々とニヤけた笑みを浮かべ崩れ去っていく。
立っている男どもがまた更に少なくなってきた。
「待って!待って下さい!デトさん!」
俺は幸せそうに横たわる男たちを避け前に出た。
「俺たちも『ハーフ』ってのがわからないんです」
「探し出して持ってくればいいだろう?」
「はい?」
「答えを考えて見つけ出せ」
「ええ??」
「何だと?それは文句か?」
「いやいやいや、そうではないんですが」
「いいか。三日後だ。三日後にまた来る」
みんな下を向いたままだ。
「いや、お前ら使えなさそうだから四日後にしてやる」
デトックスはきつい目でデズリーの冒険者達を見渡した。
そして何やらスケジュール帳らしきものを手にしのぞきこんだ。
「あ。四日後はいかん。ちょっと先約が。でも五日後は休息日だし……六日後ならいけるか。よし!六日後にまた来るからな!」
……六日後ってなんか中途半端だなあ。
いまいち頭の中がわかりにくいのは魔人たからなのだろうか。
えっと……すごい色っぽいのに……なんか残念だ。
そんな空気が周りにも満ちて雰囲気が弛緩したのを感じ取ってか、
「今度来たとき『ハーフ』を出さなかったら町を滅ぼす」
と、デトックスがきっぱりと言った。
「いいか!お前ら!」
仁王立ちになったデトックスはさらに声を張り上げる。
一同に緊張が走った。
「お前ら、頭悪そうだからもう一度言っておくぞ。この場に六日後だからな。絶対に間違えるなよ。約束したからな」
と、なんだか残念な念の入れ方をされ、デトックスは後ろを向き歩きだした。
のだが。
「絶対だぞ!」
また数歩進むと振り返り、
「忘れるなよ!」
また数歩進むとまた振り返り、
「場所はここでだぞ!」
と続け、ようやく姿が見えなくなる頃、
「六日後だからな!」
と、最後の声を残しようやく去っていったのだった。
……はあ。
まだ立っている男性冒険者は残念そうな名残惜しそうな顔でデトックスの余韻を見ているし、ぴりっとしない中締めを迎えたのだった。
俺たちはギルドへ戻ってきている。
暗くなってきたので飯を食べながらキエールを飲んでいた。
話題はもちろん今日の出来事、デトックスがやってきたことについてだ。
方々からいろいろな声が聞こえてくる。
「いいなあ、お前、デトックスのギフトにやられて」
「何言ってるんだよ。男はやられてないやつの方が少ないだろ」
「そうか?半分もやられてないんじゃないか?」
「で、どうだった?」
「いやあ…………控えめに言っても、天国」
などと、襲撃されたのに男どもはわいわいと楽しそうにあちこちで話に花を咲かせている。
「ええ、わたしは絶対に嫌だなあ」
「そう?一回くらい体験してみたいけど」
「きゃぁ、意外とえっちぃ!」
「大きな声出さないで!」
いや、案外女性も一緒なのかも。
「はぁ」
俺はキエールを飲むと大きなため息を一つし背伸びをした。
「どうしたんだよ?カイ」
「別に」
「カイも攻撃してもらいたかった?ボクは絶対嫌だけど」
「そんなんじゃないよ」
「チィはわかったわよ」
「ん?なんだよ」
「カイは今日も主役は初依頼をこなした自分だと思ってたから、あっという間に別の話でもちきりになって、つまらないんでしょ?」
「ち、ち、ちげーし」
「あれ?意外と当たりなんだよ?」
「ち、違うって。違うからな。あ、そうだ、ジーナのところにいってくるよ。うん。用を思い出しただけだし」
図星をさされた俺は二人のそばを離れた。
だって……仕方ないじゃん?俺、悪くないじゃん?
今日の夜くらいまでは、主役として騒ぎたかっただけだし。
「はあ」
「どうしたんですか、カイさん」
受付のところに行くとジーナが話しかけてくれた。
「そんなに沈んで。今日は依頼初完了の報告をしていただいた、記念すべき日じゃないですか。せっかくの日に元気がないなんて」
優しいなあ。
俺……やっぱりジーナがいいかも。
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