(25/47)当たり前はそこら中に
「うわっ!!!」
よくわからないまま、とりあえず俺は後ろへ跳んだ。
俺の足元があったところの石が固い音をたてて割れた。
「ナイス偶然。ははっ!」
「メ、メッキーさん!せっかく捕まえたのに何で逃がしちゃうんですかっ?」
跳んだはいいけど、俺はそのまま尻もちをついてしまった。
「急いで立ち上がらないと、またすぐ来るよ」
川面がまた盛り上がり
「今度はボクにかな」
メッキーさんがステップし軽やかに攻撃をかわす。
「カイ君、キミにだってメガネというGGがあるんじゃないかな?」
「え?」
「GGがあるならギフトもあるだろう?」
「でも『トーシ・トーシ』じゃあ」
「ああ。まだアンコントロールなのか。うーん、あれは複合技だから難しいのかな」
メッキーさんがまた竿を振った。
今度はだいぶ手前に着水した。
釣り糸の長い部分が水へと入る。
川の中央でまたテナガエビの水しぶきがあがった。
「『スプラッシュ・マウンテン』!」
そう言って竿を頭上へ引き上げると水面が山なりの壁になり、テナガエビの腕が突き出てはいるものの壁に埋め込まれたような形で阻まれた。
「え?そういうのも釣り竿のギフトなんですか?」
「この世界はね。家族代々同じ仕事を続けるような世襲制が主なんだ。そういう世界はどうなっていくと思う?」
「どうって……」
「じゃあ質問を変えよう。そういう世界をどう思う?」
「世襲性ばかりでなんすよね。やりたいことがあっても実現が難しそうです」
「そうだね。そういう時代が続くとやりたい事すら口に出しにくくなっていく」
「はい」
「そして、やりたいことすら思いつかなくなっていくんだ」
メッキーさんが俺を見て続けた。
「でもそれで慣れてしまっているエウロペの住人が皆不幸であるかというとそういうことではない。新しいものが生まれないからといって、予定調和であっても不自由なわけではないからね。当たり前はそこら中に転がっていて、それだけを集めて満足している。知らなければみんな満足なんだ」
水が弾けて落ちる音がした。
見ると水の壁からテナガエビの腕が引っ込んでいった。
「まだ大丈夫だよ、カイ君。もう少し話を続けよう」
正直ちょっと不安だったがメッキーさんが言うのだから大丈夫なのだろう。
「この『スプラッシュ・マウンテン』もオリジナルのギフトなんだ。なぜオリジナルを持っているのかわかるかい?」
「それはメッキーさんが考えたから」
「ははっ!そうだね。でもギフトは女神から与えられるものだろう?」
「そういえば、確かに……。そう聞いてました」
「だから同じGGだと同じようなギフトが与えられる。まあお互い混乱しないようにそれぞれ呼び方は違うけどね。でもボクには誰にも真似ができないオリジナルのギフトがある。なぜだと思う?」
メッキーさんの視線が強くなった。
「それはね。それは、きちんと望んだからだ」
「きちんと望んだ?」
「そう。満足しない強い思いと諦めない想像力。二つともデズリーのみんなに欠けているものさ」
「……満足しない強い思いと諦めない想像力」
メッキーさんが頭上の竿を下げた。
水の壁が無くなった。
「カイ君、キミのGGにはポイントもまだ十分にある。メガネの特徴は『みる』ことだろう?さあ今キミはどんなギフトがほしい?」
騒々しい音とともに川の水面が弾けあがり、テナガエビの腕が一直線に俺に向かってきた。
「強く、強く願うんだよ。カイ君。足枷のない発想でね。ははっ!」
やばい!
避けるにも早すぎて見えない。
この攻撃を見極めないと!!!
ポピン♪
頭の中で例の音がした。
字幕が読めるスピードで流れる。
<<<ゆっくりと見えるギフトをギフトされました>>>だと?
「来たようだね。キミは
ゆっくりと見える……遅く見える……遅くやってくる……。
「『チェーンショーメー』!!」
俺は頭の中に浮かんだ言葉を叫んでいた。
鍵が開くような感覚の後、向かってくるテナガエビの腕がスローモーションとなる。
ゆっくりと細いものが伸びてきている。
俺はそれを悠々と身体を動かし避ける。
やった!
しかしそれはすぐさま水中へと戻り、今度は水しぶきが二本たった。
両腕の攻撃!
とはいえ動きそのものは、のそのそともったりとしたものだった。
今度は避けることもせず二本の腕を指ではじく。
で。
ぽきん。
高い音をたててたやすく折れた。
あれ?
こんなに脆いの?
根元の部分が水中に引っ込んでいった。
が、それきり反応はなく、川はただの川として流れているだけになった。
ふぅ~。
俺は深い深呼吸をした。
「ははっ!ははっ!は~っははっ!」
気づくとメッキーさんが体を二つに折って笑っていた。
「いやあ、カイ君。ははっ!新たなギフトおめでとう。は~っははっ!」
そういうとメッキーさんは目元の涙を手で拭った。
「いやあ、与えられたギフトが視えるってのはやはり便利なようだね」
「どういうことです?」
「みんなは啓示音があっても内容がわからないんだ。だからいろいろ試して偶然使えるようになるのさ。ははっ!ははっ!ははっ!は~っははっ!」
メッキーさんがまた大笑いを始めた。
「え?なんです?」
「それにしても、ははっ!それにしたって『チェーンショーメー』ってさ。ははっ!は~っははっ!」
「な、なんですか」
「それって『遅延証明』でしょ。いや、カイ君。さすがの想像力とネーミングだね。ははっ!」
「いやいやいや。その、あの、とっさでしたし」
「ははっ!デズリーの人たちにはきっと意味がわからないよ。オリジナリティが過ぎるね!ははっ!は~っははっ!」
「もう、勘弁してくださいよ、師匠~」
「さすがキャスト。
メッキーさんは本当に楽しそうに笑っていた。
「こんなに予想外に笑うなんて久しぶりだよ。でもやっぱりオリジナリティあるのは面白いね。じゃあ川を進んでコトンボ退治にいくとしよう。ははっ!」
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