(24/47)さあパーティを始めよう!ははっ!

 口の中の不快感は真夜中まで続いたと思う。

 無理だとわかっていても、嫌な感じを流してしまおうとひたすらキエール飲みまくった。

 飲み過ぎたのが良かったのか途中からまた記憶がなくなり、たぶん酔いつぶれてそのまま寝てしまい朝にはすっかり治っていた。

 横で寝ていたリタもチィも川の字睡眠に慣れたのか、今朝は騒がしいドタバタルーティンもなく起き、ゆっくりとしたあくびをしながら朝の挨拶を普通にした。

 で、朝食をった後、俺は一人で歩いている。

 メッキーさんに会いに出たのだ。

 GGやギフトに詳しい賢者とか言ってたから、村の長老みたいな人かな。

 そんな事を考えながら足を進めていると、シャーロットに教えてもらった魚屋に着いた。

 ここか。

 店の前の椅子があり、そこで女性が座って本を読んでいた。

 裾が拡がっている白い膝上のスカートに腰まである赤いマントのようなものを羽織っている。

 読書のため下を向いているものの非常に端正な顔立ちだということがわかる。クールな空気感を身にまとっていて、そのせいかなんだか話かけにくい雰囲気を醸し出していた。

「こ、こんにちは」

 俺はおずおずと声をかける。

 と、その女性が顔をあげた。

 本を読んでいた時と同じ表情で俺を見た。

「あの、シャーロットに聞いて来たんですけど、メッキーさんという方はここに……」

 その言葉が終わらないうちに女性が立ち上がった。

 ひらひらした服と長いポニーテールの輝くような白髪が揺れる。

 腰には何か棒みたいなものをつけている。

「シャーロットから聞いて来たと言ったかい?なるほど。で、キミは誰だい?」

「カイと言います」

「ああ。キミがカイ君。はーい、ボク、メッキー!ボクがデズリーのメッキーさ。ははっ!」

 いきなりテンションが高くなりソプラノな声質と作ったような笑顔がかえってきた。

 小さなグローブのような、白く厚い手袋をした右手を出して握手を求められる。

「ど、どうも。よろしくお願いします」

 俺も右手をだしてその手を握るが、気持ちの圧みたいなものに押されてしまう。

「GGやギフトのことを訊きにきたんだろう?」

「え」

「そりゃそうだよね、来たばかりだし」

「え?」

 会話が先回りされた。

 いや、会話どころか俺の境遇までも。

 何も話してないのにどういうこと?

 賢者みたいな人って心読めたりするの?

「まあ、気にしないでくれたまえ。ボクはこういう存在なんだ。ははっ」

 メッキーさんは握手した手をほどくと歩きだした。

「付いてくるが良いよ」

「メ、メッキーさんどこへ?」

「川さ」

「どういうことですか?」

「そりゃボクは魚屋だからね。ははっ!」

 そういうと先にスタスタと歩いていってしまう。

 俺は慌ててメッキーさんを追いかけた。

 急ぐそぶりもなく涼しい顔で歩いているのに、なかなか追いつかず並んで歩けない。

「デズリーはどうだい?」

 メッキーさんが振り返って訊いてきた。

「来たばっかりだけど、そうですね、良いところだなと思います」

「そうだね、に来たばっかりだね」

「はい。デズリーにも何も、実はエウロペという世界にも……」

「それは言わないほうが良いよ。キミはに来たばっかりとうことだけで」

 メッキーさんちょっと怖い微笑を浮かべた。

 進むスピードは変わらず、いつの間にか町を抜けていた。

「そう、まだ時期尚早なのさ、カイ君」

「どういうことですか?」

「ま、『外側』同志仲良くやってこう」

「え?」

「まあ、ボクもキミも今はデズリーのキャストってことさ。知っていても意味もなく得もしないことだけどね。ははっ!」

 そういうとメッキーさんは前を向いた。

 その視線をたどると河原。そしてその先には川があった。

「カイ君、ここで教えてあげるよ」

 しばらく進み河原に足を踏み入れ止まった。

 と、川の表面に高い水しぶきが。

 同時に水中からものすごい勢いで何かが伸びてきた。

 メッキーさんはちょっとだけ身体をずらしそれをかわすと、腰につけてあった棒を手に取った。

 その棒を右手で一振りすると、するっと長くなり二メートルくらいまで伸びた。

「メッキーさん、それは?」

「ボクのGG、釣り竿さ。魚屋だからね。ははっ!」

 見ると確かにそれには釣り糸のようなものも付いており、その先には針があった。

 メッキーさんが釣竿を頭上に上げた。

「『テグスのティーパーティ』!」

 そう言いながら軽く振り降ろす。

 釣り糸はぐんぐん伸びて針は川面へと一直線に進み水中へと向かった。

 そしてすぐに竿を引き戻す。

 何やら先端が釣り糸がぐるぐる巻きになっている。

 失敗?

 糸がからまったのかな?

「見てごらん」

 ぶらぶらとしている釣り糸を俺の前に持ってきてくれた。

 ぐるぐると糸が巻き付いた十センチくらいの塊があった。

 ん?

 中で何かが動いている?

「さっき攻撃してきたものかあっただろう?それがこのテナガエビさ」

「ちっさ!」

「身体は小さいけどその二本の前腕を自在に伸ばして攻撃してくるやっかいなヤツだよ」

「こわっ!でも釣り上げたわけじゃないんですね」

「釣り上げただけじゃ腕が自由になっているままだから、攻撃されちゃうからね。そうならないようにしたんだ。オリジナルのギフトでね」

「オリジナルのギフト?」

「そうさ。水に棲むものたちは狂暴なものが多いからね。普通のギフトだと太刀打ちいかないことも多いんだ。だから誰も魚屋なんてやりたがらない」

 そう言うと最強の賢者は竿を振った。

 ぽちゃんと音をたてて釣り糸の先が川に吸い込まれる。

 そして竿を振り戻す。

 糸の先には針だけだった。

「いろいろ教えてあげるから。でもくれぐれも気をつけて」

「え?」

「テナガエビを逃がしたから早速スタートだ。さあ授業パーティを始めよう!ははっ!」

 バシャ!

 メッキーさんが言い終わるとすぐ、川面から先ほどよりも高い水しぶきが起こった。

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