(16/47)中ではドドスタと何かが暴れている
「すげぇでけぇ」
やっとの事でエアコから解放されて外に出た。閉じ込められていたお屋敷を見るとそれはそれは立派で、実は半信半疑の半疑寄りだった貴族という設定話も納得せざるを得ないものだった。
結局、俺はエアコからそれなりの金額を手渡されてしまっていた。
見返りとして何が求められるかドキドキしていたのだかが、
「お嬢様を頼む」
の一言だった。
しかし頼むと言われてもなあ……。
うーん、まあ、見かけたら家に帰るよう勧めるか、保護するかくらいしかないだろう。
しかも他のやつにはデズリー第二貴族のご令嬢とはバラさないようにとも言われた。それこそお嬢様とわかったら誘拐でもされかねないし。
まあ、されなくても、令嬢が実はあんな性格だとバレたら困るだろうしな。エアコは自主性を重んじて自由にしていだきたいからだとは言ってはいたたけど、偏愛しすぎていて何も逆らえないということがミエミエだな。
「あ、カイー!どこに行ったんだよー?」
シャーロットの宿屋に戻ると、食堂にいたリタが真っ先に声をかけてきた。
「どこって?うーん、なんつーか、お屋敷?」
「お屋敷ってなに?心配してたんだよ?」
「やっぱり俺、急にいなくなってたんだ」
「カイ、なに言ってるの?大丈夫?」
とリタは頭を指さした。
奥からシャーロットも出てきた。
「カイさん、急に消えるのはやめてください。一言くらいないと、何かあったのかと心配してしまいます」
「ごめんごめん」
「インドマグロに食べられたかとさえ思いました」
「マグロに?」
「はい。この辺はあまりいないですが万が一って事もありますし」
シャーロットは顔を曇らせ、本当に心配してくれている。
しかし申し訳ないけど、俺の心は他のところにあって別の興味に奪われてしまっていた。
「え?マグロがいるのか?海じゃないのに?」
「インドマグロだよ?海にはいないよ?」
リタがやれやれという顔で答える。
「インドマグロなのに?」
「インドマグロだからだよ?」
「?」
「?」
……よくわからない。
「まあ、カイさんも戻って来たことですし、お昼にしましょう」
シャーロットが手を叩き笑顔で言った。
「それもそうだね。朝、せっかく裏庭にカレーパンを仕込んだんだし、どんな具合かお鍋を見に行こう!」
リタも元気よくならった。
「さ、カイさんも一緒に」
シャーロットは俺の腕を取り誘導する。
「カレーパン、久しぶり。美味しいといいな」
リタもかなりの笑顔で楽しみそうだ。
俺ら三人は扉を開け裏庭に出た。
午後の陽射しに柔らかな風が舞っている。
思わず青い空に向かって伸びをしてしまう。
そして短く刈り込んだ芝を抜け、石ころの転がっている土の道を進む。
「じゃあ、あそこのから見てみましょう」
シャーロットは木の根元に置いてある鍋を指さした。
フタがされていない鍋。そこから風に乗ってカレーの旨そうな匂いが漂ってくる。
ん?
そういえば見るって何を?
木の根元のフタのない鍋?
それってもしかして朝のカレーの鍋?
そもそも寝かすとか言っていたけどフタもせずに外に保管とか不衛生なのでは?
それとも……異世界だから大丈夫なの?か?
俺はそのまま歩き、木の根元に近づいた。
いや近づこうとして腕を引っ張られた。
ん?
見るとリタが怖い顔で睨んでいる。
「ちょっと、カイ。何やってるの?」
抑えた小声だ。怒られているような気分になる。
「見てみましょうって言ってたから見ようかと」
俺は素直に答えた。
「そんな大きな声出さないで。逃げちゃうでしょ、バカなんだから」
リタはやっぱり怒っているようで。
と。
鍋から二つの何かが飛び出してきたかと思うと、俺らとは逆の方に向かってカサカサと進んでいった。
残されたカレーの跡が道のようになっている。
「あー、やっちゃった」
リタが顔押さえて空を仰いだ。
「逃げられちゃいましたね」
シャーロットも苦笑している。
てか、何?
逃げられたって何?
何か出てきたけど、カレー鍋の中に何かいたの?
「まったく、カイのせいで」
リタはやっぱりご立腹だ。
「まあまあ、仕方ないじゃない」
「だってシャーロット。久々のカレーパンなんだよ?パンパンじゃないんだよ?」
「まだお鍋はあるから見に行きましょう。きっと大丈夫よ」
「だと良いけど……。もうっ。カイは一番後ろから着いてきて」
なんだか更に目力強く睨まれてしまった。
そんな俺悪いことしたのか?
「次はあそこのね」
リタがちょっと先の草むらを指した。
「音がしないよう静かにね」
シャーロットか俺を見て言った。
今度は言われた通り慎重に歩みを進める。
「今度こそだね。ボクがみてくるんだよ。待ってて。『シップ・ノビップ・アシャンプ』」
リタは小声でギフト名を呟くき一人先を進んだ。
スピードは落とさず静かにしなやかに鍋に近づくと、素早くフタをかぶせた。
と、鍋がいきなり暴れ始める。
「うわっ、活きがいいのが入ってた!早く来て」
リタが懸命にフタを押さえている。
中から何かが出ようとしているのか、フタが時たま少し浮く。
俺もなるべく早く、しかしなるべく静かに近づく。
「バカ!もう静かでなくて良いから!早くなんだよ!」
リタが荒い声で呼んだ。
言われるがまま急ぎリタに代わりフタを押さえた。
確かに。
確かにこれは大変だ。中からは物凄い力で押し返してくる。
「よし、ボクが縛っちゃうからそのまま抑えておいて」
「えええ?」
……『縛る』という言葉にちょっと敏感になっている俺がいた。
「え?普通に縛るだけなんだよ?鍋にフタを固定させたいから」
リタがロープで鍋ぐるぐる巻きにした。
「もう離して大丈夫だよ」
俺は素直に鍋から手を離す。
地面に置かれた鍋がドドスタと暴れている。
「まあ、こんなものなんだよ」
と、リタはドヤ顔を披露した。
「ありがとう。リタのギフトは本当便利よね」
シャーロットはリタの両手を握った。
「静かに歩くってだけだけどね。この調子で残りを見ちゃおう」
リタの機嫌も治ったようで、鍋を俺に手渡した。
「はい。カイはこれを持ってついてきて」
俺は言われたままに鍋を抱えた。
……中ではドドスタと何かが暴れているのだが。
で?
中には何が入っているんだよ。
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