(6/47)メガネってなんなんです?

 そんな訳で俺はのんびり歩いてギルドへと向かっている。

 そんな訳ってどんな訳だよって話だけど、そんなに深い訳なんかない。

 朝食を食べながらギルドへ行ってIDカードを作ることをシャーロットに勧められただけだ。

 デズリー初心者の俺としては、それはもうその言葉に従うだけだし。

 ギルドというところは役所でもあり食堂でもあり仕事斡旋所でもあるらしい。

 しかし朝飯も美味かった。

 天然ものじゃないですがと出された『パンパン』。

 あとはベーコンやらスクランブルエッグやらサラダやら。

 ちなみに『パンパン』とやらは、ほぼ100%、いわゆるパン。っていうか違いがわからなかかった。

 それにしてもシャーロットは本当に料理が上手いなと思う。

 そうそう、何で一緒のベッドだったかというと、

「カイさぁん……」

 的な甘い声に誘われて、お互いにじりにじり近寄って……。

 そっと手をまわしてアレを脱がして、露わになったアレを優しく包み込む。

 自然とアレがああなっているけど、もっとアレをああするとアレがあんなになって、堪えきれずにアレとアレをあんなことして、すると更にアレがああなって……。

 ……ということは全くなく。

 っていうか経験のない俺なので何を言ってるのか全く分からないし。

 結局、やっぱりというか、普通に俺が酔いつぶれてしまったらしい。

 なので、シャーロットが自分の寝室まで運んでくれたのだ。

 無理やりとかじゃなくてほっとしているが、いいムードとかでもなくて残念だ。

 シャーロットって本当に良い娘だよなあ。

 それに、あのフェロモン……。

 くぅ~っ!

 なんて甘い思いで歩いていると何かにぶつかった。

「痛い!何よあんた!コトンボォ?」

「あ、すみません」

 いかん、いかん。

 素敵な妄想に真剣に入りこもうとしていたらぼうっとしていた。

 足元を見ると、毛布(?)を抱えた、ひらひらの服をまとった、赤い髪をツインテールにした小柄な女の子を転ばせてしまっていた。

「何見てるのよ!手くらい出しなさいよ!コトンボだってもっと気が利いてるわよ!つかえないわね」

「え?」

 ん?

 その凄く可愛らしい顔からその言葉が出る?

 圧倒されつつも素直に手を差し出す。

 女の子は俺の手につかまり立ち上がり、俺の顔をじっと見る。

「あなた、知らないけど知ってるわ」

「えっと、俺を知ってるの?」

 この娘、俺がどこの誰だか知ってる?

「ちっ。間抜けな顔。無能っぷりはコトンボ以下ね」

 と、洋服をはたきながら続ける。

「昨日、噂になっていた『顔が変な男』でしょ。阿呆面してるし当たってるでしょ」

「ちょ?え?」

「もう、どいて。コトンボだってそんなに邪魔しないわ」

 え?顔が変な男?なにそれ?

 っていうか、もう一つの方も、誰それ?

 俺よりも『気が利いていて』『有能で』『邪魔しない』?

「コトンボって誰?」

「そんな事も知らないの?あんたコトンボよりバカぁ?チィは忙しいから他の人に訊いたら?」

 女の子はそういうと、小走りに去って行ってしまった。

 なんだ?今のは……?

 っていうか、罵声を浴びせさせられるような事したか?

 いくら幼くても、俺、腹立ってもいいかも?

 ……ふう。

 落ち着こう。

 あらためて周りを見る。……ちょうどギルドの前にいた。

 いかんいかん。怒りはいろいろ見落とさせるからな。

 ドアを開けて中に入る。

 大きな空間。高い天井。広い窓。たくさん並んだテーブル。

 まばらに人が座ってる割には、わいわいと騒がしい空気。

 赤ら顔の男たちはもうキエールでも飲んでいるのだろうか?

 掲示板のようなところがあり、何やらいろいろ紙が貼りつけられている。

 奥に受付のようなところが見えるので、盛り上がっているテーブルの脇を抜け進む。

 下を向いて忙しそうに働いている女性は、品の良い制服に悩まし気な身体を包み帽子をかぶっている。

「こんにちは」

 と、その受付嬢らしき女性に挨拶をしてみた。

「こんにちは」

 作業していた女性が顔をあげ俺の顔を見た。

「あら、きっと昨日の有名人の方ですね」

 これさっきも女の子が言ったやつじゃない?

「え?ひょっとして『顔が変な男』?」

「惜しいです」

 そう言うと彼女は、髪や身体をかるく揺さぶりながら笑って、

「いえ、惜しくもないですかね。『顔に変わったアクセサリーを付けている男』でした」

 と、ウインクした。

「改めまして。私はジーナと申します。デズリーギルドの受付をやっています。今日は何のご用ですか?」

「IDカードを作ってもらいたくて」

「IDカードですね。承知しました。紛失か何かですか?」

「いや持っていなくて」

「持ってないって……。いや事情もあるかもしれませんし、詮索はやめておきましょう。万が一犯罪歴があればカードを見ればわかりますし。では作成料をお願いしまします」

 ジーナはちょっと厳しい表情になった。

 俺は全財産をカウンターに置く。

 といっても、シャーロットからIDカード手数料としてもらったお金だ。

 小銀貨一枚と大銅貨二枚。

 コイン同士がぶつかって金属製の音をたてた。

 ……子どもおつかいのようだな。

「はい、たしかに。120チャリンですね。いただきます」

 三枚の硬貨をしまうと、銅板のようなものを取り出した。

 横長の板は大きな左右の手形のようなものがある。

「ここに両手を置いてください」

 俺は言われた通りに両手を乗っける。

 何かしら温かい感じが手の平に伝わってきたかと思ったら、赤ではなく青いほうのランプがついた。

「大丈夫ですね。では」

 ジーナはその板のような機械の溝にカードを通した。

「はい、結構です。できました」

 言われて俺は手をどける。

「ではIDカードご確認させていただきますね」

 ジーナが通したIDカードを見ながら話を進める。

「お名前は『イッセー・カイ』さんですね。犯罪歴はありませんね」

 と、安堵の表情を浮かべた。

 そして言葉を続ける。

「それとGGは……メ……ガ……ネ……ですか。メガネですと代表的なギフトは……。え?あれ?メガネ?」

 ジーナはカードから俺の顔へと視線を移した。

「……カイさん?メガネってなんです?」

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