第35話 古代技術ですわ

「次は、“視えないものを視ようとして”ですわ。」


「なにそれ?」


「これも作ってみてからのお楽しみですわ。」


 セリアは職人達に指示を出し、分担して魔道具製作に取り掛かる。


 職人達は彼女の発想に驚かされ、しきりに感心していた。


「それでは実験してみましょう。」


 完成した魔道具を設置し、起動させる。


 すると、周囲には以前のドゥルジナスのような……半透明の幽霊、今度こそおばけが現れた。


「ひぃぃぃぃ!!」


 キャロルはまたも悲鳴をあげる。


「大丈夫ですわ。」


「今度は本当におばけだよ! やっぱりセリアは悪魔に魂を売ったんだぁ!」


(うっ……お友達に泣かれるのはキツイですわ。というか、そんな事してませんわ。)


「キャロル? 魂は売っていませんので安心して下さい。」


「でも……おばけいっぱいだよ?」


 完全に涙目のキャロル。


「簡単に説明すると、周囲にある特定の魔力を増幅する事で、幽霊が視えやすくなる魔道具ですわ。この魔力は人を不安にさせる効果もありますのよ? ちなみに今視えているおばけは、普段から周りに漂っているような無害な霊ですわ。」


「無害でも怖い……。」


『有害だよ。』

『クスクス……』

『ハァハァ、キャロルちゃん可愛い。』

『お金下さい。』

『セリアたんのおパンツは黒。』


 周囲の霊達はキャロルが怖がっているのを面白がり、余計な事ばかり言っている。


「ひぃぃぃぃ!! 有害だって言ってるぅぅ!」


「碌な霊が居ませんわね。」


「セリアたん……いえ、様。」


(たん?)


「おパンツ……黒なんですか?」


 一人の職人は興味津々の様子でセリアに問いかける。


「あ、その……忘れて下さいまし。」


 セリアは恥ずかしくて俯いてしまった。




「最後は“ストレス与えちゃうぞっ!”ですわ。」


「名前からして碌でもない感じが伝わってくるね。」


「そんな事はありませんわ。アンリさんから頂いたタブレットに書いてあった技術なんですのよ?」


 セリアはなんと、4人目の聖女の母……悪魔のアンリと時々会い、古代語を教わっていたのだ。最近では、娘のドゥルジナスよりも会う回数が多い。


 お蔭で、タブレットで調べられる技術に関してはかなりの知識をセリアは吸収出来ている。


「古代技術って事? 凄いじゃん! 面白そうな物をたくさん作れるって事でしょ?」


「そう! 正にその通りですわ。」


 キャロルはあっという間に泣いていた事を忘れ、明るい笑顔になる。


「それでは早速……。」


 セリアは先程同様、職人達に指示をだし、時間をかけて“ストレス与えちゃうぞっ!”を完成させた。


「出来ましたわ。この魔道具は音波兵器に類する物ですの。」


「なにそれ?」


 セリアの説明によると……


 人間には聞き取る事の出来る音……可聴域というものがあり、それが20~20,000Hzと言われているそうだ。


 Hzというのは、1秒間に何回音の波が揺れるかを表した単位である。これを周波数と言う。


 この可聴域20Hzを下回る音波を超低周波と呼ぶのだが、この超低周波を継続的に人に向ける事によって、相手にストレスを与え、頭痛やめまいを引き起こさせるのだと言う。


「ごめん。何言ってるか全然分かんない。」


 キャロルには理解出来なかったようだ。


「音というのは空気を伝わる振動。水面を叩くと小さな波が現れますよね? それが空気にもあるのだと思って下さいな。そして、人を不快にさせる音の波を出して、相手に嫌がらせする道具を作るという事ですわ。」


「うーん……分かったような、分からないような……。」


「つまり、相手に聞こえない音で嫌がらせすると思って下さい。」


「それなら分かる……かな?」


「まぁ、原理は分からなくても大丈夫ですわ。要は相手が気付かぬうちに体調不良やストレスで冷静さを奪う物、と思ってくれれば。」


「セリアのお姉さん対策に使うって事?」


「はい。今日作った魔道具は全てそうですわ。」


 本当に効果あるの? とキャロルの目が訴えている。


「この魔道具は補助的な役割で使用するんですの。最悪効果がなくても問題ありませんわ。本命は……お化け屋敷ですわ!!」


 セリアは胸を張り宣言する。


「名前からして恐そう……。」


「タブレットで検索したら、古代にはお化け屋敷なる世にも恐ろしい修練場があったそうで、その屋敷に足を踏み入れた者は……まともな精神を保つ事すら難しいのだとか……。」

※セリアはまだ、古代語を100%理解出来ていません


「ひえぇぇ……そんな恐ろしい所にお姉さんを案内しちゃうの? 大丈夫なの?」


「大丈夫ですわ。死んだり怪我したりなどの心配はないそうですので。」


「なら良いの……かなぁ。」


 キャロルは少し不安そうであった。


「今日の魔道具製作講座はおしまいですわ。皆様、ご協力頂きましてありがとうございました。」


 セリアは職人達に礼を言うと、拍手喝采が巻き起こる。


「ありがとうございました!」

「流石はセリア様!」

「セリアたーん!」

「キャロルちゃんきゃわわ!」

「キャロルちゃんマジ聖女。」

「セリアたんのおぱんつは黒―!」

「セリアたんの太ももで顔を挟んでくれ―!」


「「「「「セッリッアッ! キャッロッルッ! セッリッアッ!」」」」」」





 セリアとキャロルは顔を真っ赤にして魔道具工房を後にする。


「セリア、凄い人気だったね。まるで演劇の舞台女優だよ?」


「おパンツの色がバレてしまいましたわ……。」


 セリアは顔を手で覆い、店の前にしゃがみこんでしまった。

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