お姉様編

第34話 あなたはだあれ、ですわ

「セリア。お姉さんから手紙が届いてたよー。」


「まぁ、お姉様から?」


 セリアは手紙を受け取り、中を確認する。





 セリアへ


 私はやっとゼイルと結婚する事が決まりました。結婚式には絶対に来ないで下さい。


 貴女のブッ飛んだ遊びには二度と付き合いたくありません。顔も見たくありませんので、クルライゼ家にもどうか顔を出さないでね。


 近いうちに貴女を始末しに行きますので、首を洗って待っていて下さい。


                              カリアより




「お姉様ったら……まだ怒っているのかしら?」


「どれどれ?」


 キャロルも手紙の内容を確認する。


「うわぁ……。セリア、お姉さんに嫌われ過ぎでしょ。何やったらこうなるの?」


 ジト目でセリアを見る彼女は、半ば呆れていた。


「子供の頃にちょっと悪戯しただけですのに、今でも根に持っているんですわ。」


「これはちょっとの悪戯じゃないでしょ。」


「まぁ、確かにお姉様の部屋を爆発させたのはやり過ぎましたけど……。」


「それはアウトだね。」


「両親は許してくれましたわ。」

※姉に罪をなすりつけた


「良く許されたね。」


「日頃の努力の賜物ですわ。」

※姉に疑いがいくよう日々工作を行っていた


「セリアって何気に色々出来るもんね。優秀だから親も許してくれたって事?」


「そういう事ですわ。」

※違います


「始末って書いてあるけど、どうするの?」


「ちゃんと考えがあるので、安心して下さいな。」


 セリアがそう言うなら、とキャロルは一旦この事を頭の隅に追いやった。


「今日は何して遊ぶの?」


「セリア魔道具工房に行きますわ!」


 セリアとキャロルの二人は馬車に乗り、セリア魔道具工房に向かった。



「皆様。今日は楽しい魔道具製作講座を行いますので、見学やお手伝いしたい方がいらっしゃいましたら是非、私にお声掛け下さい。」


「いつになくやる気だね。」


「遊びがてらお姉様対策ですわ。」


 セリアは魔道具工房に勤務する職人達に挨拶をした。


 彼女が持つ魔道具製作の手腕は職人達の間では話題となっており、勤務する全員が手を止め、セリアの下に集まる。


「あら? 全員参加で宜しいのですか?」


(皆さんの手があると助かるのは事実ですので、一日くらい仕事を放棄しても問題ありませんわね。)


「今日は皆様と一緒に色んな作品を作って遊びたいと思っていますので、よろしくお願い致しますわ。それでは先ず一つ目、“あなたはだあれ”ですわ。」


 周囲がなんだなんだとざわめく。その言葉からは誰もが推測出来なかったであろう事は想像に難くない。


「皆様は映像を記録する魔道具を御存じですわね? 要はその応用です。壁に対し、あたかも鏡のようにリアルタイムで記録映像を映すんですわ。ただ、それだけでは鏡と一緒で面白くありません。そこに一時停止と逆再生が出来る機能を付加します。」


「それ、何の意味があるの?」


 キャロルは純粋に疑問だった。記録映像を映す魔道具にそんな機能があるから何だというのか。


「実際作ってみてからのお楽しみですわ。」


 そう言って、セリアは職人達と一緒に魔道具を作り始める。元々の機能に少し付け加えるだけだったので、すぐに完成品が出来上がった。


「では試してみましょう。」


 魔道具をセットし、キャロルに協力してもらう。


 工房の一角には綺麗な白い壁があり、そこに左右対称になるよう映像を投射した。


「凄いね。本当の鏡みたいだよ。」


 彼女の言う通り、白い壁には左右対称の映像が投影される事で、まるで鏡と同様の機能を持たせる事に成功している。


「そうでしょう? でも、本番はここからですわ。キャロル。壁に向かって何か動作してみて下さいな。」


「うん? 分かった。」


 キャロルは鏡でいつもやっているように身だしなみを整え始める。


 すると……


「え?」


 鏡の向こうでは、キャロルと同じ顔をした人物が別の動作を行っている。


「ひぃぃぃっ!!」


 キャロルは悲鳴をあげ、その場で固まってしまう。


 彼女は今、恐怖に固まりその場から動けなくなっているにもかかわらず、鏡の向こうの人物は一生懸命に身だしなみを整えるような動作を継続している。


「お、おばけ……。」


 彼女は泣いてしまった。


「やり過ぎましたわね。」


 魔道具を一旦止めるよう指示し、キャロルに声を掛けるセリア。


「おばけではありませんわ。」


「だって……どう考えてもおばけだよ! セリアはおばけを呼ぶ魔道具を作ったの!?」


「もしかして、私の説明をあまり理解していませんでしたの?」


「……うん。なんか難しい事ばかりで半分もわかんなかった。」


 キャロルは泣き止んだが、まだ怖いのか下を向き鏡のようになっていた壁の方を見ないようにしている。


「見てもらえば分かりますわ。」


 今度はキャロルを壁の前に立たせる事なく映像を流す。


「ほら、見て下さいな。最初はキャロルがさっきやっていた事と同じでしょう?」


「……うん。」


「ほら、ここで逆再生をしますわ。」


「あっ。」


「気付きましたか? 途中で逆再生や一時停止をする事で、本人の動作と映像の動作がかみ合わなくなり、あたかも鏡の中の自分が違う事をしているように見せるのですわ。」


「おばけじゃなかったんだ……。」


「流石に私だって、おばけを呼ぶ魔道具は作れません。」


「良かった。セリアが悪魔に魂を売っちゃったのかと思ったよ。」


 キャロルは安心した笑顔で結構な暴言を吐いた。


(私を何だと思ってるのかしら? 普通に傷つきますわ。)


 セリアは生まれて初めて、悪戯によってダメージを負ってしまった。

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