第33話 おねショタですわ

「私のせいにするなんて……。」


 ドゥルジナスは顔を両手で覆い、泣いたフリをする。


「お前のせいにしてるんじゃなくて、実際お前のせいなんだよ!」


 周囲の人間は明らかに男に対して非難の目を向けている。


「クソッ! これじゃ、俺が悪いみたいじゃねぇか!!」


「待って下さい!」


 突然、身分の高いであろうと思われる服装の美少年が割って入る。


「なんだテメェは?」


「アレク=オーランドと申します。オーランド子爵家の嫡男である俺の目の前で、このような可憐な女性に何をしようと言うのですか?」


 どうやら、本当に身分の高い出自だったようだ。


「フンッ。いくらお貴族様だからって、そういう風に言われる筋合いはねぇぞ? こいつが自分からぶつかってきたんだからな。」


 全くもってその通りである。


「それは本当ですか?」


「いえ、この人が私のせいにするんです……。」


 ドゥルジナスは嘘をついているとは思えない迫真の演技でアレクに縋る。


「だ、そうですが? 俺にはこの人が嘘をついているようには見えませんね。」


「なんだと? その女の見た目が良いからって、決めつけてんじゃねぇ!」


 男は怒りを露わにし、アレクを怒鳴りつける。


「そういうつもりはありませんが、どうやら周囲の人達も貴方が悪いと思っているようですよ? これ程の目撃者がいれば言い逃れは出来ません。」


 場の雰囲気は完全にドゥルジナスに傾いていた。


「チッ……」


 男は舌打ちをしてその場を去った。



「アレク様。ありがとうございます。」


 ドゥルジナスは頭を下げる。


「礼には及びません。当然の事をしたまでです。」


「私、怖かったです……。」


 そう言って彼女はアレクを抱きしめ、その豊かな胸を顔面に押し付ける。


 美少年アレクは照れているのか顔が赤い。そして少しだけニヤけている。


 いたいけな少年が性に目覚める瞬間であった。


「もしよろしければ、お礼をさせて下さい。」


「そんな、お礼だなんて……。」


「遠慮しないで下さい。」


 アレクは礼なんて必要ないと断りつつも、美女と過ごせるかもしれないと少しだけ期待してしまっていた。


「ドゥルジナス! 探したんだからっ。」


「キャロルさん。」


 キャロルは探していましたという体を装いドゥルジナスと合流する。


「この子は?」


「アレク様よ。ゴロツキに絡まれている私を恰好良く助けてくれた素敵な人なの。」


「え? それは是非お礼しなきゃ!」


「そうですよね!」


 あれよあれよと流され、アレクはベリオーテ公爵邸に連れて行かれてしまった。




 その頃、セリアは……


「何で俺がこんな目に……。」


 ブツブツと文句を言う男は突然腕を掴まれる。


「お待ちなさい。」


「なんだ?」


「貴方、食い逃げ犯のスシクイネですわね?」


「っ!?」


 セリアの発言にスシクイネは逃走を図ろうとするが、掴まれた腕にギリっと力を込められ……


「あだだだだだ!! やめてくれっ!」


「逃げないと約束しなさい。」


「はいっ! 逃げませんので、やめて下さい!!」


 スシクイネはあっさりと捕まり、衛兵に引き渡されてしまった。


「さて、帰りましょう。キャロルは上手くやっているかしら?」


 ドゥルジナスの恋を応援しながら、ベリオーテ公爵邸へと帰宅するセリア。




 彼女が公爵邸へと戻ると、美少年とベタベタするドゥルジナスとキャロルが既に帰りついていた。


「あら、そちらの方は?」


「こちらはアレク様。私を助けてくれたんです。」


 ドゥルジナスは事の経緯を説明する。当然セリアは知っているのだが、ここは知らない体で話を聞く。


「まぁ。私、セリア=ベリオーテと申します。お友達を助けて頂いたようで……ありがとうございますわ。」


「当然の事をしたまでです。申し遅れました、アレク=オーランドと申します。」


 キリっと自己紹介をする美少年には、ベタベタとくっつくドゥルジナスがいた。あまり恰好がつかない。


「ドゥルジナスさんったら、アレク様を相当気に入ったご様子ですので是非仲良くしてあげて欲しいですわ。」


「そ、それは勿論です。」


 アレクは照れているのか赤くなっている。


(これがおねショタというやつですのね。尊いですわ。)


「それでは、私達お出掛けしてきますね。」


「はい。気を付けて下さいね?」


「行ってらっしゃーい!」


 ドゥルジナスとアレクは出掛けてしまった。


「アレクにはお礼の品をちゃんと渡しておいたよ。」


「ありがとうございますわ。」


 セリアは来客用のお土産を持たせるよう、事前にキャロルと打ち合わせていた。


「セリアは何してたの?」


 キャロルの疑問はもっともである。セリアは急用だと言って、あの場を後にしていたのだ。


「さっきの男が食い逃げ犯でしたので、捕まえて衛兵に引き渡しを行っていましたわ。」


「それでか……」


 彼女は納得した。セリアが何も悪くない相手に、あのような事をする許可をだすのは不自然だとキャロルは思っていたのだ。


「ドゥルジナスさんの恋は上手くいきそうですか?」


「大丈夫じゃない? 凄くベタベタくっついて、アレクはすぐに骨抜きになりそうな感じだったよ。」




 その日、ドゥルジナスが公爵邸に帰って来る事はなかった。


 2人が何をしていたのかはセリアもキャロルも追及せず、後日……ドゥルジナスがアレクと結婚する事になったと聞かされ、指輪の効力が本物であるとセリアとキャロルは勝手に納得していた。

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