第31話 復活の聖女、ですわ

 キャロルは回復の壺のサポートを得ながら回復魔法を使用した。


(そう言えば……世界には聖女が3人しか存在しないはずなのに、4人目がこのような形で復活したらどうなるんでしょうか?)


 セリアは疑問に思ったが、面白そうなので特に何も言わず見守る事にした。


 半透明だったドゥルジナスは徐々に色づいていき、回復魔法を使用してから一時間で肉体を取り戻す。


『私、生き返ったんですね。』


 元聖女は感極まり、目には涙が浮かんでいた。


「おめでとうございます!」


「良かったね!」


「良かったじゃないか!」


 セリアとキャロルは祝福し、女3人で抱き合った。ケイスは流石に遠慮したが。


「ありがとうございます! これで私も新しい恋が出来ます。」


 4人は喜びを分かち合い、今後の事を話し合おうとすると……



【4人目の聖女が出現し、世界に重大なエラーを感知しました。聖女システムに深刻なダメージを確認。2人目の魔王を出現させる事でエラーを修復…………。魔王の配置を完了しました。】



 無機質な声がどこからともなく聞こえ、室内に響き渡る。



「魔王だって。」


「これ、まずいのではないか?」


「もしかして……私のせい?」


 ドゥルジナスは自分のせいで魔王が出現したと聞き、現実逃避したくなった。


「ドゥルジナスさんのせいではありませんわ。」


「どういう事?」


「このような事になるとは思ってもみませんでしたが、私は4人目の聖女が現れたら面白そうな事態になる……そう思って何も指摘しなかったのですわ。」


「言ってよ。」


「最近悪戯していなかったので、面白そうな事が我慢出来ませんでしたの。ドゥルジナスさんも復活出来たし良いじゃありませんか。」


 セリアは悪びれる事もなく言ってのける。


「魔王だよ? これは悪戯で済まされないんじゃない?」


「俺も遊びでは済まないと思う。」


「問題無いと思いますわ。絶対暴力の魔女を筆頭に、SSSランクの人間や特級魔法使いのルディア様が存在しているのですから、魔王が今更1人増えたところで対処出来ない事はありません。」


「完全に他人任せじゃん。」


 キャロルは呆れた、とジト目でセリアを見る。


「でも、ドゥルジナスさんを復活させないのは可哀想ですわ。」


「うっ……確かにそうだけど……。」


「まぁ……。」


「対物ライフルもありますので、私達でもなんとかなる気がしますわ。それに……」


「それに?」


「いざとなれば、ドゥルジナスさんのお母様になんとかしてもらいましょう。1級悪魔のアンリさんなら魔王も余裕で撃退できますわ。」


「そうですね。私が復活したせいで魔王が出現したんですから、お母さんにお願いするのが筋だと思います。お母さんもきっと良い返事をくれると思いますし。」


 ドゥルジナスは責任を感じているようだ。セリアとは大違いである。


「それよりも、ドゥルジナスさんは新しい恋がしたいのでしょう? どんな方が好みなんですの?」


「そうですね。もう大人の男はこりごりなので、下心のない美少年が良いです。」


 ドゥルジナスは過去の失恋により、性癖が歪んでしまったようだ。


「それなら良い物がありますわ。」


 セリアは指輪を手渡す。


「これは……?」


 ドゥルジナスは指輪を受け取り、不思議そうに眺めている。


「その指輪は、新しい恋を応援する不思議な指輪ですわ。きっと気に入ってくれると思いますの。」


「この前買ったおねショタの指輪だね。」


「違いますわ。祝福された呪いの指輪です。」


「私の聖なる暗黒魔法に響きが似ていますね。」


「それはどんな効果のある物なんだ?」


 ケイスは顔が引き攣っている。初めて指輪の名称を聞いた人間はそうなっても可笑しくはない。


「所有者は嫌でも幸運に見舞われ、そしてどうでも良いタイミングで小さな不運が訪れるそうですわ。」


 セリアは指輪を購入した際に店主が言っていた事をそのまま説明した。


 以前の所有者の体験として、約束事がある時は必ず晴れの日であり、小銭を拾ったり、買い物をすればオマケして貰えたりなど、良い事が起こる。


 一方で、何も無い日はタンスに足の小指をぶつけたり、動物の糞を踏んだりと悪い事が起こる。


 中でも不思議なエピソードとしては、所有者が変なゴロツキに絡まれている所を男の子が助けた事をキッカケに、男の子と所有者が結婚してしまうというものだ。所有者17歳、男の子11歳だったそうだ。


「うん。まぁ……誰も不幸にならないなら良いんじゃないかな。」


 ケイスは理解する事をやめたようだ。


「私にピッタリですね。名前も気に入りましたし。」


 ドゥルジナスはウキウキしながら指輪をはめる。


「新たな恋の予感……。まだ見ぬ運命の美少年はどこにいるのかしら。」


 彼女は付けた指輪を眺め、うっとりしながらポエミーな事を言い出す。


「予感っていうか、そういう体験談だしね。」


「せっかくいい気分になっているのですから、野暮な事を言ってはいけませんわ。」


 ぴしゃりと窘めるセリア。


「いつ出会えるんでしょうか?」


「そこまでは分かりませんわ。とりあえず、ゴロツキに絡まれるところから始めてはいかがでしょうか?」


「そうですね。まずは絡まれてみます。」


 普通の女性は避けるような事柄に、自ら飛び込もうとする4人目の聖女であった。

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