第32話 ゴロツキに絡まれる、ですわ
セリア、キャロル、ドゥルジナスの3人は絡まれる為だけに街へと繰り出す。
ケイスは仕事があるので、公爵邸で留守番だ。
「絡まれた際、聖なる暗黒魔法は使用しない方が良いのでしょうか?」
ドゥルジナスは絡まれる事が少し不安なようで、魔法の使用に関して尋ねた。
「やめておいた方が良いよ。前はそれで死んじゃったんだから。」
「あの時は加減出来なくてですね……。」
「だとしても、生命力を消費する魔法は危険なので使用しない事をオススメ致しますわ。」
「仕方ありません。大人しく普通の女性のように絡まれる事にします。」
渋々と返事をする彼女。
「最初はどういう絡まれ方をするつもりだったのさ……。」
「聖なる暗黒魔法で醜い心を浄化してあげようかと。」
「それだと男の子が助けてくれませんわ。むしろ悲鳴をあげて逃げるのでは?」
「そうでしょうか? ホーリーな感じで男の子が寄ってくると思ったのですが……」
それは絶対にナイ。そう思うセリアとキャロルであった。
「暗黒魔法だと、見た目がグロいからダメでしょ。アッポーパイ食べた時の魔法なんてヒドイものだったよ?」
「えぇ? 可愛いですよ?」
「流石にあれは私もナイと思いますわ。」
ドゥルジナスはあまり納得いっていないようだった。
「ここ一万年で美的感覚が変わってしまったのでしょうか。」
「一万年前だって、アリかナシかで言えばナシだったと思うなぁ。」
何かを見つけたのか、セリアが急に立ち止まる。
「見て下さいな。あの方なんて、絡まれるのにうってつけな殿方ではございませんか?」
絡まれるのに適任な者とは果たしてどういう意味なのか。
セリアが示した方には粗野な見た目のザ・ゴロツキという風貌の男がいた。
「ほんとだ。いかにもゴロツキって感じだね。」
「では行ってきます。」
「私達は離れて様子を見る事に致しますわ。」
「行ってらっしゃーい。」
ドゥルジナスはゴロツキ風の男に近づいていていき……
横を素通りしてしまった。
「絡んでいきませんわね。」
「そうだね。見た目がゴロツキなだけで、普通の人だったのかな。」
「そんなワケありませんわ。それに、これだと助けてくれる男の子が登場しないじゃありませんか。」
セリア達の所へ戻ってくるドゥルジナス。彼女は作戦の失敗を告げる。
「あれ程接近しても絡まれませんでした。」
「違う人探す?」
「絡まれないのなら、絡ませれば良いのですわ。私がお手本をお見せします。」
自信あり気なセリアが気合を入れる。
「行って参りますわ。」
セリアは可愛らしくタタタッと走って行った。
「あの人どっかで見た事あるような……。」
「知り合いですか?」
「知らないけど、何となくね。」
2人が会話をしながら様子を見守っていると、セリアは走ったまま勢いを落とさず、ドーンと男に正面衝突をして吹っ飛ばしていた。
火の魔神による筋力強化で強くなっているセリアは、成人男性を吹っ飛ばすなどわけないのだ。
「っ痛てて……何だってんだ?」
「貴方、いきなりぶかっておいて謝罪も無しというのは良くないと思いますわ。」
「お前がいきなりぶつかってきたんだろ!!」
「まぁ……言いがかりですか? 女の子にぶつかっておいて何という人でしょう。」
「凄い……お手本というだけありますね。」
ドゥルジナスは感心している。
「あれはダメでしょ。完全に言いがかりじゃん。」
一方で、キャロルは否定的だ。
「ぶつかっておいて文句言ってんのはお前だ! 慰謝料よこせや!」
「慰謝料? これでよろしいですか?」
そう言ってセリアは強烈なビンタをかまし、再び男を吹っ飛ばした。
相手はどうも気絶してしまったらしく、彼女はそれを放置して2人の所へ戻る。
「ざっとこんな感じですわ。」
「参考になりました。」
「……今思い出したんだけど、前に私に絡んできた人じゃない?」
キャロルは以前、ゴロツキに絡まれているところをセリアに助けてもらった事があるのだ。その際に絡んできた人物こそが、たった今セリアに吹っ飛ばされた男なのだと言う。
「その通りですわ。いくら私でも、何の関係もない人をいきなり吹っ飛ばしたりしませんよ。」
「普通は何か関係があっても、いきなり人を吹っ飛ばさないけどね。」
「良いではありませんか。ちょっとした悪戯ですわ。」
その後、3人はわざわざ絡まれる為だけに適任者を探し歩く。
「あの人なんて良いんじゃない?」
「そうですね……冒険者崩れみたいな感じが、それっぽい雰囲気を醸し出していますわ。」
(それに、あの人は確か……食い逃げ犯のスシクイネですわ。ここで適当な罪をでっち上げて捕まえてしまいましょう。)
「丁度人通りも多い所ですし、目撃者にも期待できますね……。では行ってきます。」
ドゥルジナスはそう言って、セリアの真似なのかタタタッと可愛らしく走っていった。
冒険者崩れのような男に突進し、キャッと言って倒れる彼女。流石にセリアのように相手を吹っ飛ばす事は出来なかったようだ。
「痛えじゃねぇか!」
「ぶつかっておいて文句を言うなんて酷いじゃないですか!」
「お前が勝手にぶつかってきたんだろ!」
「あなたがぶつかってきたんでしょう?」
周囲がなんだなんだとザワついている。
偶然にも、ぶつかった瞬間を正確に把握している者が居なかったようで、ドゥルジナスが悪いと思っている人間はいないようだった。
美女と冒険者崩れの男がトラブルになっている。
こういった場合は何故か男が悪いと世間での相場は決まっているのだ。皆見た目で判断しているという事だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます