第29話 悪魔のアイテムですわ

「対物ライフルは不評みたいね。なら、これもあげるわ。」


 次にアンリが差し出したのは、薄い長方形の綺麗な板であった。表面がつるつるのガラスで出来ており、何やら明るく光っている。


「これはタブレットよ。色々な情報が調べられるし、地図アプリも入れてあるわ。」


『Sunyの新型……私も欲しかったのに。お母さん、私にも頂戴よ。』


「仕方ないわね。はい。」


 違うタブレットを差し出すアンリ。


『これ、ググレカスの旧型じゃん。違うよ、私が欲しいのはSunyだよ。』


「タブレットなんてどれも同じでしょ? 残り少ない貴重品なんだからわがまま言わないの。」


『うぅ……。お母さんはいつもそう。微妙に違う物を買ってきて、どれも同じって言うんだ。』


 ドゥルジナスは泣きそうな顔をしている。


「それは……ちょっと分かる気がする。うちの両親もそういう所あったな。」


 こうやって普通に会話に参加するあたり、立ち直りの早いケイスであった。


「私もですわ。魔道具の実験に必要な試験管をお願いしたら、ただのコップを買って渡された事がありますもの。」


「それは……もう似たような物ですらないよね?」


 キャロルは同情的な視線をセリアに向けた。家族に嫌がらせでもされていたのだろうかと勘繰っている。


『前にもそうだった……。プロステ5って言ったのにSwatch買って来るし。』


「ゲームなんてどれも似た様な物でしょ? それになんだかんだ言って喜んで遊んでたじゃない。」


『だって、遊ばないと勿体ないし……。』


 ドゥルジナスは口を尖らせ拗ねている。


「この機種、伊藤二十日堂で安かったのよ? あの時はとってもお得に買い物が出来てお母さんテンション上がっちゃったわ。男の店員さんにちょっとスカートめくって見せたら50%オフにしてくれたんだから。」


 ドゥルジナスとは対照的に、アンリはとても満足そうだ。


「ほら、そんなに拗ねないの。せっかくの美人が台無し……でもないわね。可愛いわ。流石私の娘。」


『そんなんで誤魔化されないもん。』


 ドゥルジナスは口元がニヤけていた。明らかに誤魔化されそうになっている。


「まぁ……そう言わないで。お母さんね、ドゥルジナスがまた普通に肉体を持てるように教えてあげるから。」


『許すわ。それで、どうすれば良いの?』


 ぱっと明るい笑顔になり、くるりと掌を返す元聖女。


「あなたはハーフとは言え人間としての性質が強いから、回復魔法をたくさんかけてもらえば肉体が復活するわよ。」


『回復魔法? それなら……。』


 聖女と元聖女の視線がぶつかり合う。


「私の出番だね。良いよ! たくさんかけてあげる。」


 キャロルは快諾した。


「それなら回復の壺にも協力してもらいましょう。」


 セリアは駆け足で部屋を出る。


『回復の壺? さっきも言ってましたが、今の時代ではそんな魔道具があるんですか?』


「魔道具っていうか……うちのペット? 友達? かな?」


『ペットにそんな変な名前を付けたんですか?』


「変な名前っていうか……。」


「見た目通りの名前だな。」


 部屋の扉が開き、セリアがたくさんの回復の壺を連れて来た。


『壺ですね……壺? から手脚が生えて歩いてますけど。』


 ドゥルジナスにしてみれば、さぞかし可笑しな光景に映ったことだろう。


「うん。回復の壺は自分で歩けるんだよ?」


「この子達は人が怪我をするとすぐにそれを感知して、怪我人がいる方へと全力で走りだすのですわ。」


『なにそれ怖い。』


「凄い見た目ね。悪魔的には満点あげたいくらいの生命を冒涜したような不気味生物よ。」


 褒めているのか貶しているのかイマイチつかめない台詞を言うアンリ。


「そうですわ! アンリさんには貰ってばかりですので、お返しにこの中から気に入った子を連れて行って下さいな。」


 セリアはお礼だと言って、悪魔にどの壺が良いかを選ばせる。


「じゃあこの子にするわ。表面が人の顔みたいな模様で、不気味さが際立ってて可愛いのよ。」


 アンリは満足そうに手脚の生えた壺を抱えている。その模様は邪悪な笑みを浮かべているようで、本当に不気味であった。


「よりによって一番不気味な奴を選んだな……。流石は悪魔。」


「ケイスは夜にあの子と遭遇して、おしっこ漏らしちゃったもんね?」


「うるさいっ!」


 顔を真っ赤にして怒るケイス。他人の前でそんな事をバラされたら誰だって恥ずかしいだろう。


「ところで、伊藤二十日堂? って何ですの?」


 セリアは疑問を口にする。先程の発言に見られた伊藤二十日堂などといった固有名詞は聞いた事がないからだ。


 勿論、キャロルもケイスも知らない。


「デパートよ。一万年前にはあったんだけどね。今は大手の商会でも大した物は無いし、ホントにつまらない世の中になっちゃったわ。」


 一万年前を知る者以外は頭上に?が飛んでいる。


『つまり、超大型の商会みたいなもので、食料品、薬品、衣類、家財道具に娯楽品、飲食店や遊び場まで複合された買えない物はほとんど無いと言える程に品揃えが充実した施設の事です。』


「凄いじゃん!」


「私もそんなお店でお買い物してみたかったですわ。」


 買い物が好きな女性陣は目が輝き、ワクワクと楽しそうにデパートに対して思いをはせた。

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