第28話 悪魔の兵器ですわ

 ドゥルジナスは自らの母に経緯を説明した。


 ダニエルが浮気し、その恨みによって暗黒魔法の使いすぎで自分が死んでしまった事。


 本を依り代に現世にとどまるのだが……つい最近までは意識すらなく、聖女2人とセリアのお蔭で意識を取り戻せるほどに力が回復した事。


 娘の説明に納得したアンリは……


「ダニエル君が浮気性なのは分かってたんじゃないの? そんな事して、ダニエル君の親御さんに何て言えばいいのよ。」


『知らなかったもん! それに当時の人で生きてる人間はもう居ないでしょ。』


「それもそうね。じゃあいっか。」


「軽い母娘だね。」


 キャロルが思わずツッコミを入れる。


「悪魔なんてこんなものよ。それよりも、娘は皆さんのお蔭でそれなりに力を回復できたようね。お礼にこれをあげましょう。」


 そう言って、不思議な形の大きな杖を差し出した。


 杖は金属製で複雑な形をしており、短い脚のような物が二本付いている。長さも子供程にはある。


「こんな杖は見た事がありませんわ。」


「武器にしては複雑過ぎる形だな。」


「恰好良いね。」


 3人は口々に思う所を述べる。


「これは対物ライフルと言って、ムカつく相手を挽き肉にする武器なの。連射すればSSSランクのドラゴンなんかもグシャグシャに出来る優れものよ。」


 何が楽しいのか、とても良い笑顔で物騒な杖の説明をする女悪魔。


「古代の魔道具か……。」


「魔道具? その言い方も間違ってないけど、正確には魔法科学兵器ね。魔物やムカつく相手に使うと良いわ。」


「ありがとうございますわ。」


「危ないから人に向けちゃダメだね。」


「どうして? ムカつく人の挽き肉になった姿を見たくないの?」


 不思議な事を言うわね。と言わんばかりの態度で質問するアンリ。


 それに対し……


「それは嫌ですわ。」


「そんなのヤダよ。」


「流石にそれは……。」


 と否定的な意見の3人。


「たとえば結婚初夜に、お前を愛する事はない キリッ とか言う奴を挽き肉にしたりはしないの? 昔は良くそれでトラブルになる貴族が多くて、馬鹿な事を言った男が対物ライフルで挽き肉にされるのも珍しくはなかったんだけど。」


 やけに具体的な例を挙げる女悪魔にケイスは冷や汗を流す。


 アンリの説明によると、対物ライフルは魔力を込めて引き金を引くだけで良いらしく、二級魔法士レベルの魔力量なら10発は撃てるそうだ。


 単体相手に対しては、一級魔法を凌ぐダメージを与える非常に費用対効果の高い武器で、かつてはたくさんの人々に愛用されていたのだとか。


『それ持ってるなら貸してくれたら良かったのに……そうすれば、あの女とダニエルを挽き肉に出来たんですけど。』


 ドゥルジナスは母に文句を言っている。


「古代って物騒な世界だったんですわね。」


「そんな時代に生まれなくて良かった。」


「お、おれも……。」


 特にケイスの場合は挽き肉になる可能性があったので、人一倍そう思っているようだ。


「あれ? もしかして……。」


 ジーっとケイスを見るアンリ。


「あなた……。どこかで見た事ある気がすると思ってたんだけど、ダニエル君と魂が同じね。生まれ変わりって事か。」


 とんでもない爆弾発言をする女悪魔。


 悪魔は魂を見る事が出来る為、ケイスとダニエルの魂が同一である事に気が付いた。


「ケイスさいてー。」


「旦那様ったらひどいですわ。」


「待ってくれ! 生まれ変わりって言われても、俺にそんな記憶はないぞ!?」


 焦り弁解をするケイス。彼は当然前世の記憶など覚えておらず、身に覚えのない罪を問われているようなものだった。


『ダニエル……今はケイスね。あなたには既に、暗黒魔法を撃ったからもう咎めはしないわ。今更未練もないし、さっきの見事な下僕根性に免じて許してあげます。もう浮気しちゃダメよ?』


「旦那様はもう浮気してしまいましたわ。」


『ケイス。あなたやっぱり死んだ方が良いかもしれないわね。』


 セリアの告げ口により青ざめるケイス。彼女にとっては軽い悪戯のつもりであったのかもしれないが、事態は急展開を迎える事となった。


『あら? こんな所に何の変哲もない対物ライフルが……。ねぇケイス。なんだか運命を感じない?』


 ドゥルジナスはそれに視線をやり、ケイスに話しかける。


「か、かんじないっ!」


『ここに対物ライフルが偶然あるのも何かの縁。きっとあなたに使えと神はおっしゃっていると思うんだけど……。どうかしら?』


 その台詞に顔色悪く後ずさりするケイス。


「あの……申し訳ありませんが、私の旦那様を挽き肉にされては困りますわ。」


 セリアが横から止めに入る。


「セリア……。」


『浮気されたんでしょう? 許すんですか?』


「はい。旦那様は今では私にメロメロですもの。」


『そう……。なら仕方ないですね。』


 ドゥルジナスは一度は向きかけた矛をあっさりと収める。


「セリア、君のお蔭で助かったよ……。」


 ケイスは本当に殺されるかと思い、そこから助かった事で脱力してしまう。ドゥルジナスは完全に本気であった。


 正に危機一髪。


「殺されそうになったのもセリアのせいだけどね。」


 キャロルのツッコミは今日も冴えわたる。

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