第27話 聖なる幽霊の正体…ですわ

『聖暗黒魔法“暴食”。』


 突如として空間に裂け目が出現し、そこから這い出るおぞましい異形の口がキラキラと光り輝きながら、出来立ての美味しそうなアッポーパイを吸収する。


『アッポーパイは最高ですね。』


 聖なる幽霊はアッポーパイの感想を満足そうに告げる。


 どうやら、暴食により吸収した物の味が分かるようだ。


「普通に暗黒魔法使ってるし。」


「聖女じゃなくて悪魔なんじゃないか?」


『言ってませんでしたっけ? 私、悪魔と人間のハーフですよ?』


 確か言ったはずよね。と幽霊は呟いている。


「全然聞いてないんだけど。」


「私も聞いてませんわ。そもそもお名前も知りませんもの。」


『これは失礼。私、聖女ドゥルジナスと申します。』


「私、セリアと申します。」


「私はキャロル。」


「俺はケイスだ。」


 全員自己紹介をする。


「これで私達、お友達ですわね。」


 セリアはさも当然であるかのように言った。


『悪魔とのハーフだけど良いんですか?』


「勿論ですわ。この家には、人間ではないお友達もたくさんいらっしゃいますもの。」


「セリア。それは回復の壺や白鳥の事かい?」


「えぇ。皆さん大変良い子達ですわ。」


「確かに、皆には色々と助けられたしね。」


『人間以外と共存する人は珍しいですね。私は悪魔とのハーフであったが為に、ダニエル以外には迫害されていましたから。』


「ダニエルさんは迫害しませんでしたの?」


『ダニエルは美女が大好きで、美女なら人間でなくても良いらしいです。ですので、私も最初はその事を知らず、とても優しい人だと思っていました。』


「それでダニエルとやらに依存するようになったのか。」


『はい。あっさり裏切られましたけどね。あんなに美人だって言ってくれたのに……。』


 ドゥルジナスは恨めしそうに歯軋りをする。


「自分で言うのもどうかと思いますが……確かに私と同じくらいの美人ですものね。」


「ねぇねぇ。セリアも自分で言っちゃってるよ?」


「これは失礼しました。つい、本当の事を言ってしまいましたわ。」


『確かに、セリアさんも私と同じくらいの美人ですね。本当の事だから口から出てしまっても仕方がありません。』


 互いに迂遠な褒め方をする古代の聖女と公爵夫人。


「とにかく、悪魔とのハーフだから暗黒魔法が使えるって事?」


『そういう事です。』


「それにしても、悪魔と結婚した親も凄いな。」


『はい。大恋愛の末の結婚だったそうです。』


「面白そうだね。教えてよ。」


『勿論です。この話を聞くと、皆さん静かになってしまうくらいの大恋愛なんです。』


 そうしてドゥルジナスの話に全員が耳を傾ける。




 ドゥルジナスの父は人間だった。彼はなかなか結婚出来ず、どうしても嫁が欲しくて悪魔召喚に手を出してしまう。


 召喚されし悪魔は、三つの願いを叶える代わりに死後の魂を要求してきたそうだ。


 その悪魔は大層美人で、ドゥルジナスの父はこう思った。


 別に願いを叶えてもらわなくても、この悪魔が嫁になってくれたら良いじゃん……と。


 彼は女悪魔に猛烈にアプローチしたそうだ。


 しかし相手は悪魔。人間の男がアプローチしても靡く事は無い。


 どうしたら女悪魔と結婚出来るか考え抜いた彼は……。


 悪魔殺しと言われる強烈な酒をしこたま飲ませ、泥酔した女悪魔に無理矢理契約魔法を行使し結婚してしまった。


 勿論女悪魔は彼を恨んだ。だが、悪魔は契約に縛られ抵抗も出来ず、最終的には情に絆されたのだそうだ。




『というわけでして……母は幸せな結婚生活を送り、私が生まれたのです。』


「……。」


「……。」


「……。」


 話を聞いていた3人は沈黙してしまう。


『黙ってしまう程の大恋愛でしたでしょう?』


「大恋愛? 大恋愛って何だろう……。」


「それが大恋愛なら、他の人の恋愛は神恋愛だろうな。」


「大恋愛というには強引過ぎますわね。人間相手にやったら犯罪ですわ。」


『ちなみに母はまだ生きています。』


「悪魔に寿命はありませんものね。」


「でも、ずっと会ってないんでしょ?」


『はい。聖なる暗黒魔法を使い過ぎたせいで私は力尽きてしまい、この日記に憑依して力を蓄えていました。意識を取り戻したのも、あなた方が回復魔法を込めてくれたからです。』


「そういう事でしたの。」


『母をここに呼んでも良いですか?』


「勿論ですわ。」


「お、おい!」


 ケイスは焦って止めようとするが遅かった。


『お母さーん!』


「はーい!」


 そう言って空中から美女が現れる。


 見た目は完全に人間だが、普通の人とは全く異なる気配を発していた。


 その美女は辺りを見回し、半透明の娘と人間3人がいる状況を見て困惑している。


「えーと、どういう状況?」


『お母さん。この人達が私を助けてくれたの。』


「そうなの? なら、お礼をしないとね。」


 久しぶりの再会にしては、えらく軽い感じの会話をする母娘。


「初めまして。ドゥルジナスの母、アンリと申します。娘を助けてくれてありがとうございます。」


「初めまして、セリアと申します。」


「キャロルだよ。」


「……ケイスと申します。」


 ドゥルジナスの母に自己紹介する3人。


 人類と悪魔の和やかな会話がスタートした。

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