第20話 撃ってますよ? 雷魔法。ですわ

 王女の顔は誰が見てもイラついていると分かる表情だった。



「雷光。」


 バチバチバチィ!!!



「「「「「あばばばばば」」」」」」



 会場内が眩い光に包まれる。


 やいのやいのと騒ぎ立てる貴族達は沈黙してしまった。


 彼らからは煙が立っている。


「ミディアムレアですわね。」


「その言い方はどうなの?」


 セリアは感想を言い、キャロルはそれにツッコむ。


「優しく言ってあげたのに何て言い草ですか。本当に撃ちますよ? 雷魔法。」


「王女殿下。既に撃っております。」


 いつの間に現れたのか、近衛兵が王女を窘める。


「これは雷魔法ではありません。静電気です。」


「そ……そうですか。失礼いたしました。」


 近衛兵は王女にツッコむが、簡単に誤魔化されてしまう。


「貴方達は一度下がりなさい。私はこの方に用があるのです。」


 王女がそう命令すると、さっと波が引くように貴族の男達はその場を後にした。


「大丈夫でしたか? アリエーンさんはどうしてあの男達を吹っ飛ばしてしまわなかったんです?」


 いつもの貴女なら吹っ飛ばしていたでしょうに……。


 そう言って聖女アリエンナを見る王女。


「お初にお目にかかります王女殿下。私、聖女アリエンナと申します。アリエーンの娘で御座います。」


「っ!? これは失礼しました。初めまして、ルディア=フェルミトです。確かに……良く似ていますが、そう言われてみればアリエーンさんとは雰囲気が違いますね。」


「王女殿下のお話は母より伺っておりました。」


「そうでしたか。アリエーンさんには私と同じくらいの年の娘さんが居ると聞いていましたが、こんなに似ているとは思ってもみませんでした。」


「似ていると良く言われます。」


「でしょうね。間違えるくらいには似ていますもの。それにしても……」


 王女はギャモーに視線をやる。


「俺……あ、私はドゥーの冒険者ギャモーだ、です。」


 ギャモーは慣れていないのか、言葉遣いがかなり変だった。


「ちゃんと止めないとダメじゃないですか。」


「面目ね…申し訳ありません。俺ではこいつを止められねぇ、ませんです……。」


「この方は目立つから守ってあげないと…………待って下さい。彼女を止めるとはどういうことですか?」


「はい。あやうくアリエンナが男達をミンチにしちまうとこで……あっ、でした。」


 王女の顔が引き攣っている。


 ごく自然な反応だった。そんな事を言われれば誰だってそうなるのは当然だ。


「……流石アリエーンさんの娘。想像以上に酷い答えが返ってきましたね。」


「アリエンナ様のお母様を御存じでしたの?」


 セリアが横から会話に加わる。


「えぇ、4年前お世話になりまして。」


「お二方の会話を耳に致しましたけれど、アリエーン様って帝国の元SSSランク冒険者、絶対暴力の魔女ですわよね?」


「その通りです。私はアリエーンさんに魔法を少しだけ教えてもらった事があるんです。」


「王女殿下と絶対暴力の魔女が知り合いだったとは思いませんでしたわ。しかもアリエンナ様がその娘さんだったなんて……。」


「じゃあアリエンナもお母さんと同じくらい強かったりするの?」


 ここでもう1人の聖女、キャロルも会話に入って来る。


「私はそんなに強くないですよ。お母さんが言うには普通のSSSランクよりも少し強いくらいだそうです。」


「それは世界トップクラスだろうがよ。」


「えぇっと……皆さん普通に会話が弾んでいますが、面識がおありで?」


 王女は意外そうな顔で尋ねる。


 イリジウム王国とドゥー。この2国間の距離を考えれば、それも無理なからぬ事。


「2日前に偶然お会いしてお友達になったのですわ。」


「はい。親友です。」


「ねー。」


「そういう事だ。」


 そう言って仲の良さそうな4人を……王女は羨望のまなざしで見ている。



「王女殿下、今ですよ。私もお友達になりたいと言って下さい。」


 近衛兵が横からこっそりと王女に助言する。


「で、でも……いきなりそんな事を言って大丈夫なのかしら。」


「大丈夫です。ほら、チャンスですよ。王女殿下の! ちょっと良いとこ見てみたい。あっそーれ!」


 もはや応援しているのか茶化しているのか微妙な近衛兵である。彼は踊りながら掛け声を出す。


「うるさいですね! あっ。」


 そのやり取りをジーっと見ている4人。


「あ、あの……私もお友達にして下さい。」


 恥ずかしがりながら友達にして欲しいと頼む王女。


「勿論ですわ。」


「私からもお願いしたいです。」


「良いよ!」


「俺もだぜ。」


 友達として迎えてくれる4人に、王女は感謝の気持ちを抑えきれない。


「ありがとうございます。皆さんとお友達になれて嬉しいわ。」


「王女殿下、私達ズッ友ねと言って下さい。今しかありません。」


 またもこっそりと助言をする近衛兵。


「流石にそれは……」


「ダメです。ここで日和ったりすると、王女殿下は永久に雷魔法だけがお友達になってしまいますよ。王女殿下の! 格好良いとこ見てみたい。あっよいしょっ!」


 またしても踊り囃し立てる近衛兵。彼は限度というものを知らないようだ。


「もしかして……馬鹿にしてます?」


 王女の顔は、引き攣った笑みになっていた。

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