第19話 王女様ですわ
パーティ当日
「皆様、本日はお集まり頂きまして誠にありがとうございます。こうしてフェルミト王国が飢饉を乗り越える事が出来ましたのも、イリジウム王国の協力の賜物で御座います。」
会場では理知的で美しい女性が来賓に向けて挨拶をしている。
「特に、食糧支援して下さったベリア伯爵、そうするようにと助言をして下さったベリオーテ公爵夫人のお二方による……」
「ねぇ、あの人が王女殿下?」
「えぇ。情報によりますと、非公式ながら雷系特級魔法の使い手だそうですわ。」
「凄いじゃん!」
「フェルミト家は代々優秀な魔法士を輩出する家系であり、一級魔法士レベルがゴロゴロいるそうですわ。」
「うへぇ……そんな相手と戦争するなんて前クリミア王家は馬鹿なの?」
「えぇ、まぁ……控えめに言って大馬鹿ですわ。」
フェルミト王国は以前、クリミア王国であった。
前クリミア王家が、優秀な魔法士の家系であるフェルミト子爵家に喧嘩を売って戦争になった挙句、あっさりと滅ぼされてしまい、フェルミト家がそのまま王家となったのだ。
他の貴族家が反発するかと思いきや……全く反対する家はなく、スムーズにフェルミト王家が誕生した。
「フェルミト家の戦力とフェルミト家以外のクリミア王国全ての戦力……その比率は概算で18:1だそうですわ。」
「信じられないんだけど……フェルミト家が18って事?」
「えぇ、一子爵家が持つには大きすぎる戦力ですわ。今まで爵位が上がらないのも不思議でしたが……前王家が大層無能だったのでしょう。普通なら辺境伯に任じて国境を任せるような強い貴族家なんですのよ?」
「あら。私共のお話ですか?」
いつの間にか挨拶が終わっていたようで、たった今2人が話題にしていたフェルミト王家の特級魔法使い、ルディア=フェルミト王女がセリア達に話しかけてきた。
「これはルディア王女殿下。お招き下さりありがとうございます。私、ベリオーテ公爵夫人、セリア=ベリオーテと申します。どうぞよろしくお願い致しますわ。」
「聖女のキャロルです。よろしくお願いします。」
「ルディア=フェルミトです。年も近いようですし、あまり堅くならず気軽に接して頂きたいですね。」
「ありがとうございますわ。」
「こちらこそお礼を述べさせて下さい。本当にありがとうございました。お蔭でフェルミト王国はなんとか飢饉を乗り越える事が出来たのですから。」
「滅相もございませんわ。ルディア王女殿下は大変優秀な方だと伺っておりましたので、支援が無くとも何とでも出来たのだと思っておりますわ。」
「そう言って下さるのは嬉しいのですが……破壊するのは得意なのですけど政治方面はそれなりでしかありませんので……。」
「破壊が得意な王女って事?」
「こら。いきなりそんな言い方なんて失礼ですわ。ご謙遜なさっておいでですが、ルディア王女殿下は神童と呼ばれたフェルミト家の麒麟児ですのよ?」
セリアは王女にタメ口の聖女を咎める。
「気にしないで下さい。元々は木っ端貴族ですので。それに、麒麟児と呼ばれる程の者ではありません。こう見えても結構な粗忽者でして……。」
「そうは見えないけどなぁ。」
「キャロルったら、もうっ!」
「ふふっ。大丈夫ですよ。同年代のお友達が欲しいと思っていましたし、言葉使いは気を遣わないで頂いた方がこちらとしては嬉しいです。」
「ほらね?」
キャロルはちょっと得意気に言ってみせる。
「この子ったら……申し訳ございませんわ。」
「良いんです。出来ればセリア様にも……気軽に接して頂きたいです。」
「光栄ですが……宜しいんですの? 私、結構ブッ飛んでおりますが……。」
「それを言ったら、私だって元婚約者の庭で特級魔法を二発放っております。」
「それはエキセントリックだね。」
「エキセントリック? とは聞き慣れない言葉ですね。」
「ブッ飛んでるって意味らしいよ? ドゥーの聖女に教えてもらったの。」
「そうでしたか。確かに私はエキセントリックかもしれません。」
王女は寛容なのか笑顔で答える。
「あら……あの人だかりは何かしら?」
「男の人だけあんなに集まってどうしたんだろ?」
「トラブルかもしれませんので、ちょっと行ってきますね。」
「ご一緒しますわ。」
「私も。」
「貴方達、何をしているのです!」
良く通るその声で、王女が咎めるように問いただす。
王女が人だかりの中心人物を確認すると、そこには信じられないような美しさの女性が無表情で立っていた。
「一人の女性を寄って集ってどうしようと言うのですか?」
「聖女様をお誘いしようと……」
「我が家のパーティに来て頂こうと……」
「あまりの美しさに惹かれてしまいまして。」
「お尻触りたかったです。」
「聖女様とお近づきになりたかったのです。」
「貴方達の言いたい事は分かりましたが、こんなに大人数で誘っても嫌がられるだけですよ。」
王女が尤もな事を言うと辺りは一瞬静まり返るが、その言葉を皮切りに貴族たちは不平不満を垂れ流す。
「恋愛事情に口を出すのは如何なものかと……」
「これ程美しい人をお誘いしないのは失礼というもの。」
「人の恋愛に口出しとは無粋ですね。」
「王女殿下は男の情熱が理解出来ないようですな。」
「全く、我々は紳士的にお誘いしているだけだというのに。」
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