第16話 聖女の邂逅

「そう言えば白鳥さんは?」


「言われてみれば……どこかへ出掛けてしまったんでしょうか?」


 白鳥は最近、脚を使って扉を開ける事が出来るようになったのだ。したがって、誰かの助けを借りる事なく好きな所へ行っていたりする。


「居ないのは仕方ないから、私達も観光に出てみようか。」


「そうしましょう。」


 2人は部屋の扉を開けると、誰かと一緒にいる白鳥を見つけた。


 白鳥と一緒に居る人は2人の男女だった。


 男はどこにでもいそうな冒険者。


 しかし女は、見た事が無い程の美人。神が地上へ遣わしたのかと思う程の美しさであった。


「こんにちは。」


 キャロルが声を掛ける。


「こんにちは。この白鳥さんはあなた方のペットですか?」


 信じられない程の美人から問いかけられる。


(ペット? そうなのでしょうか? でも合成魔法も教わりましたし……)


「ペットであり、師匠でもありますわ。」


 セリアは堂々と恥じる事もなく言ってのけた。


「エキセントリックな師匠ですね。」


「おい。流石に失礼だろ。」


 2人の掛け合いを何となく見ているセリアとキャロル。


 白鳥が大人しい所を見れば、悪い人間ではなさそうだと判断出来る。


「エキセントリックとは、どんな意味なんですの?」


 セリアは純粋に疑問だった。


(もしかして外国語ですの?)


「一言で言えば、ブッ飛んでるという意味です。」


「こら。あーと、すみませんね。こいつは幼い頃の人付き合いが不十分で、時々変な事を言うもんでして……」


(もしや、私がブッ飛び公爵令嬢だと知っての発言でしょうか?)


「……あなたは私の事を御存じですの?」


「いえ。初対面ですので、存じ上げませんが。」


(彼女から漂う気品……どこかの貴族なのでしょうか?)


「そうですか。私セリア=ベリオーテと申しますわ。イリジウム王国の現ベリオーテ公爵夫人でございまして、結婚以前はブッ飛び公爵令嬢と呼ばれ親しまれておりました。」


「私はキャロル。セリアの友人で聖女やってます。」


「聖女様だと!?」


 セリアとキャロルが自己紹介を行うと、冒険者の男が強い反応を示した。


「失礼。あー、実は俺のツレも聖女でして。」


「申し遅れました。ドゥーにて冒険者を生業としております、聖女アリエンナでございます。」


「俺は冒険者のギャモーってんだ。アリエンナとはパートナーだ。」


(まさか……3人目の聖女が見つかりましたの?)


 聖女の存在は2人までしか確認出来ていなかった。3人目の聖女である彼女は、つい最近見つかったばかりなのだろうとセリアは推測する。


 ちなみにドゥーとは、イリジウム王国の東に位置するフェルミト王国、そこを更に東へと行った所にある国だ。


「聖女同士仲良くしてね!」


 キャロルが明るく握手を求める。


「こちらこそよろしくお願いします。」


 キャロルの手を取る3人目の聖女は、見惚れる程に美しかった。


(私も握手したいですわ。)


「せっかくだし、一緒に食事でもしない?」


(キャロルったらナイスですわ!)


「是非。私もそうしたいと思っていました。」



 4人は公爵家の馬車で移動し、迎賓館の職員に勧められた高級レストランへ入る。



「白鳥さんにそんな秘密があったんですか?」


 セリアとキャロルは白鳥がどのように誕生したのか語って聞かせた。


 白鳥について話題になるのも当然の帰結。どうやら聖女アリエンナは白鳥の事が気になって仕方がないようだった。


「もしよろしければ、一緒に魔法を注ぎ込んでみませんこと? 聖女が2人揃うなんてなかなかありませんわよ。」


「是非お願いします。」


 アリエンナも乗り気なようで、何を素体にしようかと食事をしながら議論を交わす。


「要するに、候補に挙がった物を一通りやってみれば良いんです。」


「それは面白そうですわ! 何が出来るかワクワクしますわね!」


「面白そうだね!」



 そうして4人で行動し……剣、怪しいランプ、古代語で書かれた本を揃え迎賓館に戻る。


 先ず試したのは二振りの剣。適当に見繕った数打ちの剣を用意した。


 ちなみに聖女アリエンナの仲間、冒険者ギャモーは魔法が使えないので見学だ。


 最初に聖女2人が魔法を込める。見た目には大きな変化は見られなかったが、グンと存在感が増していた。


 次は聖女2人に加えセリアも魔法を込める。数打ちの剣は薄っすらと赤みを帯びていた。


 キャロルが手に取ってみると、剣からは絡みつくように炎が出現する。


「あちっ!!」


 彼女は余程熱かったのか剣を落としてしまい、即座に回復魔法を使用する。


 皆が心配して声を掛けるが……


「大丈夫だって。ちょっとした火傷なんて一瞬で治っちゃうよ。」


 そう事もなげに言うお調子者聖女。


「気を付けて下さいましね?」


「はーい。」


「取り敢えず、鍋つかみがあれば使えそうですわね。」


 セリアの発言にこの場の全員が思った。


 そんな剣は嫌だ……と。



「では、気を取り直して……次はランプに挑戦してみたいですわ。」


 その言葉に全員が賛成した。


 今度は初めから3人が魔法を込める。


 そうして暫くの間、魔法を注ぎ込んでいると……


『こんにちは。私は聖なる火魔神。何でも願い事を言って下さい。聞くだけ聞きますよ。』


 ランプからは筋肉モリモリの中年男性が現れた。

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