第15話 フェルミト王国ですわ
一行が乗る馬車には強力な魔物が接近していた。
その名もハイオーガ。ハイの名を冠する彼は、徹夜明けのハイになったテンションが通常状態という、非常に強力でノリの良い魔物だ。
ノリが良さそうな人間を探知し友達になろうとする習性からか、キャロルを目標に向かっているようだった。
ちなみにノリの悪い人間は殺される。
「魔物が来たぞー!」
「ハイオーガだ!」
「総員戦闘態勢ぇー!!」
護衛の兵士達はざわつきながらも隊列を組み、ハイオーガを撃退しようと向かっていく。
「ハイオーガってSランクじゃなかった!?」
心配そうに慌てるキャロル。
「大丈夫ですわ。ほら、ここからゆっくり観戦致しましょう。」
セリアに促され馬車から外の様子を眺める彼女。
外の様子を眺める2人の目にはカオスな光景が映る
「な、なんだ?」
「おい、これはどこから来たんだ!」
「新手の魔物か?!」
2人も良く知る人物? 若干筋肉質な脚を生やした白鳥のオマル。そんな異質な存在がハイオーガと対峙していた。
セリアとキャロルは合成魔法を白鳥から習っているのだ。白鳥の強さは良く知っている。
「なんだお前? ノリ悪そうだな。」
ハイオーガが白鳥へ言葉を投げかけるが、白鳥は声を発する事はない。その代わりに口から聖なる炎を吐き出しハイオーガに返答した。
「オマルのくせにぃぃぃぃ!!」
ハイオーガは聖なる炎に全身を包まれ、負け惜しみを言いながら消滅してしまう。
「強い人って白鳥さんの事だったのか。そりゃ強いワケだよ。」
「だから大丈夫って言ったのですわ。」
そう言って馬車の中へと白鳥を招き入れるセリア。
「お疲れ~。」
白鳥はその立派な脚を折り畳み、黙って正座をしている。
「白鳥さんは魔力が少ないので、しばらく休んでいて下さいね。」
「まさか連れてきてるとは思ってなかったよ。」
「頼りになりますでしょう?」
「うん。」
護衛の兵士と白鳥に守られた馬車は、おおよそで20日程の時間をかけてフェルミト王国王都へと辿り着いた。
時々強い魔物は出てくるが、兵士か白鳥がいればどうにかなった。セリアとキャロルの出番は全くなく、2人はすっかり馬車の旅に飽きてしまっていた。
「やっと着いたね。」
「いい加減馬車の中は飽きてしまいましたわ。」
「ほんとにね。」
2人は口々に飽きたと不満を洩らしている。
それにしても流石は一国の王都と言うべきか、ベリオーテ公爵領領都よりも活気があり、立派な建築物が立ち並ぶ。
「招待状には迎賓館に宿泊して欲しいと書いていましたので、先ずはそこへ向かいましょう。」
「旅の方針はセリアに任せるよ。」
迎賓館は他国の重鎮などを宿泊させる為、6階建ての大きな屋敷のような作りになっていた。部屋数もそれなりにあり、招待客とその護衛を相当数宿泊させる事が出来そうだった。
「宿泊する程度なら十分な広さの部屋ですわ。」
彼女等に割り当てられた部屋は実際、かなりの広さであった。
「十分過ぎるでしょ。流石は公爵夫人。庶民の私とは感覚が違うよね。」
「キャロルだって今は公爵邸に住んでいるじゃない。」
「まぁ……確かに。そう言えば今更なんだけどさ……」
そう言って不安げに言い淀むキャロル。
「どうかしまして?」
「私を連れてきて大丈夫だったの?」
「勿論ですわ。だってあなた聖女じゃない。」
「ん? もしかして聖女だって伝えてあるの?」
「はい。そうしませんと、キャロルを連れて来られませんでしたので。」
「えーと、セリアには言ってなかったんだけど……」
急に都合悪そうに何かを言いかけるキャロル。そこへセリアは分かっていますとばかりにセリフを先回りする。
「キャロルは教会に嫌気がさして逃げてきた聖女でしょう? 特に追及しませんでしたが、すぐに分かりましたわ。」
「知ってたの?」
彼女は何故か自分の事情がバレている事に驚きを隠せない様子だった。
「聖女はこの世界に3人しか存在し得ないのですわ。その中で1人だけ教会を飛び出し、そのまま行方不明になっている聖女。それがキャロル、あなたですわ。」
有名ですわよ? と首を傾けるセリア。
「出来れば内緒にしてもらえると……」
「現在、聖女をベリオーテ公爵家で保護していると教会にはお知らせしていますので、心配しなくても大丈夫ですわ。」
「それなら大丈夫そうだね。」
「はい。公爵邸にいる間は、教会関係者からの接触も無かったでしょう?」
「ありがとう。助かるよ。」
「礼には及びませんわ。大事なお友達ですもの。」
「でも、司祭様には悪い事しちゃったな……。多分心配かけてるよね……。そりゃあ毎日セクハラされるのにウンザリして逃げたのは自分なんだけどさ。」
実はこの聖女、所属している教会の司祭から連日セクハラを受けていたのだ。
何かと理由をつけてのボディタッチに下ネタのオンパレード。
時々彼女の下着が見つからないのも恐らくは司祭だったのだろうと……キャロルはそう思っていた。
「セクハラが無ければ凄く良い人なんだけどね。お菓子くれたり、服買ってくれたりとかさ。」
「……貢がれていただけなのでは?」
「そうかな?」
「それに……セクハラする人って、結局良い人じゃないのではありませんの?」
「うーん……。でも、寒い時には手をギュッと握ってくれるよ?」
「それは普通にセクハラですわ。」
キャロルの将来が心配になるセリアであった。
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