フェルミト王国編
第14話 馬車の旅ですわ
隣国フェルミト王国から、セリアに一通の感謝状が届いた。ベリア伯爵の食糧支援に対する感謝の証として、フェルミト王国王宮にてパーティーを開く事になったそうだ。
支援をしたベリア伯爵は当然として、支援のきっかけとなるアドバイスを送ったセリアにも是非出席して欲しいという内容が書かれていた。
「旦那様。私もフェルミト王国へ行こうと思いますわ。」
「それなら俺も行こう。」
「ケイスは仕事があるでしょ。」
キャロルのツッコミに意気消沈してしまう嫁大好き男。
「大丈夫ですわ。キャロルと一緒に行くのだから心配いりません。」
あれからケイス、セリア、キャロルの3人は白鳥のオマルから合成魔法を教えてもらい、習得するに至ったのだ。
何度も検証した結果、合成魔法は扱いが難しいという欠点はあるものの、非常に燃費の良い魔法であった。
例えば、2つの属性の二級魔法を合成魔法で放つと、二級魔法一発分の魔力しか消費しない。そして更に、威力だけは一級魔法並という反則的な結果となった。
一級魔法とは、一級魔法士以上の限られた人間だけが扱う事の出来る難易度の高い魔法だ。
今のセリアは一級魔法士並の魔法を消費魔力少な目で放てる……という反則的な存在になっている。
キャロルは三級魔法までしか習得していなかったのだが、回復魔法と合成して放つ事により、これまた一級魔法並の威力になってしまった。
つまり彼女もまた、セリアと同レベルの魔法が扱える上に、燃費の良い魔法士となったのだ。
言ってしまえば、セリアとキャロルは一級魔法士レベルという事だ。2人に敵う相手などそうそういない。
「まぁ、キャロルと一緒なら心配はいらないか。一応公爵家の護衛も連れて行くんだぞ。」
「勿論ですわ。護衛のいない公爵夫人なんて聞いた事がありませんから。」
「それなら良いんだ。でも寂しくなってしまうな……。」
ケイスは嫁と友人が屋敷を出ていくのが寂しくて仕方ないようだ。
「旦那様も時々出張する事がありますでしょう? これからも時々会えない事があるのですから、慣れて下さいな。」
「仕方ないか……。」
そう言って肩を落とすケイス。
「大丈夫。すぐに2人で帰って来るからさ。」
そんなケイスを励ますキャロル。
「なるべく早く帰れるよう、荷物は控えめで支度をしましょう。」
「そうだね。」
2人はケイスを気遣い、優しい提案をする。
「すまないね。でも、無茶な日程は組まないようにな。」
「それは大丈夫ですわ。早く帰ろうとタイトなスケジュールを組んで、かえってトラブルになってはいけませんもの。」
「それなら安心だ。」
相変わらず心配性なケイスであった。
セリアが所属するイリジウム王国と今回パーティーが開かれる隣国フェルミト王国は、昔から盛んに貿易が行われている。
両国間の街道もしっかり整備されている為か、距離の割には行き来する日数は少なく済む。
道中は平和だった。
魔物が出現する事もあるが、公爵家お抱えの兵士達だけで対処出来る。
「結構ヒマなもんだね。」
「馬車での旅はこんなものですわ。」
「余計なトラブルはいらないもんね。」
「キャロル。それはフラグと言うやつですわ。」
一行が通る街道は商隊が行き来するルートであり、弱い魔物が寄り付かないよう魔物除け処理が施されていた。
しかし……
「ねぇ。どこからか雄たけびが聞こえてくるんだけど。」
風に乗って獣の咆哮が2人の耳に届いている。
「まだ距離はありそうですが、皆さんにも警戒してもらった方が良さそうですわ。」
そう言って兵士達に周囲の警戒を促すセリア。
「この街道には魔物除け処理がされてるんでしょ?」
「そうですが、弱い魔物にしか効果はありませんわ。」
「という事は……。」
グオオオォォッ!!
と先程よりも近い距離で聞こえて来る。
「つまり、強い魔物は寄って来る事もあるんですわ。」
「落ち着いてる場合じゃないでしょ!」
キャロルの激しいツッコミにも動じないセリア。
そんな彼女は魔物が出現しても普段通りであった。
「もし強い魔物なら……私達が対処しないと兵士さんが大変だよぉおぉおぉおぉおぉおぉ!!」
焦ってしまっている彼女は、セリアの両の肩を掴んでガクガクと大きく揺らす。
「落・ち・着・い・て・欲・し・い・で・す・わ。」
セリアは何度も肩を揺らされ、途切れ途切れに落ち着きを促す言葉を絞り出す。
「ご、ごめん。でも……。」
キャロルから解放されたセリアは改めて発言する。
「キャロル。一旦落ち着いて欲しいですわ。ちゃんと対策してありますから。」
「対策? 強い兵士さんが来てるとか?」
セリアはまるで、悪戯が成功した時のように微笑み、どんな対策をしてきたのか楽しそうに語った。
「そうですわ。悪魔の討伐実績がある凄い方を連れてきたんですのよ?」
「凄いじゃん! でもそんなに強い人って公爵家にいたかな?」
「キャロルもお会いした事がある方ですわ。」
「そうなの? 全然わからないんだけど……もしかして隠れた達人とか?」
キャロルはそんな人いたっけ? と首を傾げ、全く見当がついていない様子だった。
「それは本当に強い魔物が来てしまった時のお楽しみですわ。これから魔物と遭遇するかもしれないのにお呼び立てするのは申し訳ないですし。」
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