第13話 計画通りですわ(ニヤリ)

「ご主人様。お手紙が届きました。」


 そう言って手紙を持ってきたのは、ケイスが妹のように可愛がっているメイドのシアだった。


「お手紙ですって。どなたかしら?」


 セリアは自分の旦那に読んでみるよう促す。


「ご苦労。早速読んでみるか。」


 差出人は先代ベリオーテ公爵夫妻。つまりケイスの両親だった。




 ケイスへ


 ケイス! 貴様の嫁は一体何を考えているんだ!


 あれ程大量の鯖を送って来る馬鹿がどこにいる!


 お蔭で屋敷中が鯖まみれになり、こちらはまともに暮らす事も難しいのだぞ!?


 これ程までの侮辱を受けた事は生まれてこの方一度もない。あのじゃじゃ馬娘とは即座に離婚し放逐してしまえ!


 当然だが、クルライゼ公爵へ慰謝料の請求と合わせて抗議文を出せ!


 早く出さないと許さんからな!




「これは……。」


 ケイスは困惑し、セリアに事情を聞く。


「鯖? でも……。」


「セリアが送ったのか? 手紙からは並々ならぬ怒りが伝わってきたが……。」


 屋敷が埋め尽くされる程の鯖を送られれば怒るに決まっている。


「あの……。ベリア伯爵にお願いして、鯖を少しだけ送ってあげて欲しいとお手紙を出したんですわ。」


 セリアは困惑しながらも答える。


「しかし、現に少しではない量が送られたみたいだぞ?」


 問われた彼女は頭を悩ませ……ハッとした。


「まさか!? 申し訳ありません。確認してまいりますわ!」


 そう言い残し、慌てたセリアは優雅に走り去っていく。


「しかし、どうしてこうなったのか……。」


「私にも見当がつきません。」


 残されたケイスとシアは何がどうしてそうなったのか、全くと言っていい程わからなかった。




「旦那様、申し訳ありません!!」


 戻ってきたセリアが土下座せんばかりの勢いでケイスに謝罪する。


「待て! 一体どうしたんだ。原因がわかったのか?」


「はい……。ベリア伯爵へのお手紙を書いた際、知り合いに少しずつ送って欲しいと、鯖を送る相手を記載したリストを作っていたのですが……」


 本当に申し訳なさそうに言うセリアは、ケイスから見ても可哀想になってしまう程だった。


「そのリストを手紙に同封し忘れていたのです……。」


 セリアの話を要約するとこうだった。


 リストを同封し忘れた事によって、ベリア伯爵宛の手紙の最後が……




 100tの鯖を送って頂きたく思います。


送り先

 先代ベリオーテ公爵様




 となってしまったのだそうだ。


 本来であれば先代ベリオーテ公爵に続く鯖の送り先リストが同封されるはずで、2000名を超える宛先があった。


 現在そのリストをセリアが手に持っているのだ。


 リストには……




 ○○○○様

 ○○○○様

 ○○○○様

 ○○○○様

 ○○○○様


 リストに記載された方々へ均等に送って頂きたく思います。


 こちらも先日美味しく頂きました事を改めてお礼申し上げます。




 と書かれていた。


 つまり、2000名を超える送り先があったのに、先代ベリオーテ公爵に100tの鯖が集中して送られてしまったのだ。


 ケイスは事情を理解したが、自分の嫁を責める気にはならなかった。


「セリア。何も気にする事なんてないよ。たまたま間違えてしまっただけじゃないか。」


「ですが、旦那様の大切なご両親に粗相をしてしまいましたわ。申し訳ありませんでした……。私は大人しく離縁を受け入れます。」


 そう言って涙するセリア。


 この件に関して嫁大好き人間のケイスは、可愛いおっちょこちょいだと脳内で処理していた。


 涙を見せる自身の嫁を見てしまった彼はむしろ、こんな事で彼女と離縁し放逐してしまえ! などと手紙を寄越した父親に激しい怒りを抱きさえしている。


「離縁なんてするものか! むしろこんな可愛いおっちょこちょいに目くじらを立てる父をこそ、こちらから捨ててやる!」


 勢いで親を捨てる宣言をしてしまったケイス。


 だがセリアは……


「たとえ、借金を旦那様に押し付けたとは言え、ご両親を捨てるなど悲しい事をおっしゃらないで下さい。私は大人しく放逐されますので……。」


 サラッと父を捨てる、から両親を捨てる、に誘導した上で軽く恨みを煽るような事実も付け加えるのであった。俯きながら。


「セリア! 君はずっと俺の嫁だ。両親など気にする事はないさ。これからは俺の両親ではなくなるのだからな!」


 愛する嫁の為、ケイスはあっさりと両親を捨て去る決断を下す。


「シア。急いでベリオーテ家からこの痴れ者2人の籍を抜いて置け!」


「か、かしこまりました。」


 シアはこれ程までに怒っている自らの主人を見た事が無く、これまたあっさりと先代公爵夫妻の籍をベリオーテ家から抜く為の手続きを開始する。


「旦那様……。」


「セリア、これからもずっとそばに居てくれよ?」


「はいっ!」


 花が咲くような笑顔とはこういうものなのだろうか……とケイスは自らの嫁に見惚れ、思わず抱きしめた。







 カツッ カツッ と広い廊下に一組のハイヒールの音が響き渡る


「計画通りですわ。旦那様ってば、私の事となると周りが見えなくなってしまうのね。」


(先代公爵夫妻には元々退場して頂くつもりでしたので、本当に良かったですわ。魔道具事業で大儲けしている事がお二方に伝われば、散財を重ねてベリオーテ家を再び傾ける可能性だってございますもの……。)


 今日もブッ飛び公爵夫人は猫を被りつつ、悪戯心と実益を満たす策を練るのであった……。


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