第6話 ヒモですわ

 あの後、一日をかけて販売と予約の受け付けを行った。


 在庫分の売り上げが金貨50枚。そしてあの時点での予約分を販売すれば、金貨400枚以上の売り上げになる。


(ヒット間違いなしと思ってはいましたが、想定を上回る勢いでしたわ。)


「ただ……人手が足りませんわ。」


 予約を受け付けたは良いものの、生産が追い付かない。大行列を捌いてから二日……こうしている間にも注文が殺到している。


「他の工房も買収しましょう。今ならばあの噂が流れて事業が下火になっている事ですし……。」


 セリアは元々、他の工房の買収を考えていた。商会巡りをしている際、兵士達に違法金利の噂を流すよう命じていたのはその為だ。


(こんなに早くから買収する事は考えていませんでしたが……。)


「今ならば丁度、事業ごと買い叩く事は難しくありませんわね。」



 セリアは、ライフ商会とアイジー商会から魔道具事業を買い取り、現在のセリア魔道具工房が吸収する形での合併を行った。


 そして僅か一ヶ月でベリオーテ家の借金を完済する。その後も魔道具事業はどんどん拡大し、国内トップの魔道具工房へと成長を遂げる


 セリア魔道具工房は既に、ベリオーテ公爵領の年間税収を上回る利益を叩き出すようになってしまっているのだ。


 彼女は来る日も来る日も午前は仕事をし、午後からはキャロルと遊び、夜はケイスで遊ぶ。


 そんな充実した生活を送っていた。


 そして結婚してから一年が経ったある日……



「旦那様? どうかしまして?」


 ケイスは最近セリアにべったりだ。四六時中一緒に行動しようと、付いて歩くようになってしまっていた。


(流石にちゃんと仕事もして欲しいですわね。)


「特にどうもしないさ。」


 そんなワケはない。常にセリアのどこかしらを触っている。


(また意地悪してみましょう。)


「マリアージュ様はよろしいんですの?」


「え?」


「だからマリアージュ様ですわ。旦那様の愛する人、ですわよね?」


「な、なんで君がその名を知っているんだ?」

「な、なんで君がその名を知っているんだ……ですか?」


 セリアが全く同じ事を被せて言うと、ケイスは顔を青ざめさせている。


(面白いですわ。)


「勿論最初から存じ上げておりましたが。言っていませんでしたか?」


「聞いてません。」


(なぜ敬語を……?)


「彼女とはその……終わったんだ。」


(まぁ知っていましたけど。)


「では、私を一番に愛して下さるという事ですの?」


「勿論だ! というか、行動で示していなかったかい?」


「そういう事は口に出すものですわ。」


「そ、そうか。」


「では、今後ともよろしくお願いいたしますわ。私、自分で言うのもなんですが、そこそこブッ飛んでいましてよ?」


 ケイスは目を白黒させる。


「それは噂だって前に……」


「噂であり、真実ですわ。」


「そうか。でも……今更そう言われても嫌いにはなれないよ。」


 そう言ってケイスは最愛の嫁を抱きしめる。


「ふふっ。計画通り……ですわ。」


「何がだい?」


「私は、楽しく生きるをモットーにしていますの。旦那様も一緒に遊んで下さいましね?」


「勿論だとも! ずっと一緒に遊ぼう!」


「いや、仕事もしなさいよ……」


 横からキャロルが口を出す。


「キャロル。その通りですわ。」


「仕事ならセリアがやってくれるじゃないか。」


(旦那様。それはヒモ男の思考ですわ。)


「ダメですわ。ちゃんとお仕事しないと……」


「しないと?」


「旦那様のお部屋に回復の壺を10個並べます。」


 ケイスはギョッとしてセリアを見る。


「や、やめてくれ! あんな不気味な物はいらない!」


「便利だよ?」


「嫌だ! 夜眠れなくなるじゃないかっ!」


 ケイスは回復の壺が夜な夜な走り回っているところを目撃してしまい、それがトラウマになっているようなのだ。


「では、お仕事して下さいますわね?」


「やる! やるから壺だけはやめてくれ!」


(旦那様と過ごすのは楽しいですわ。きっとこれが一般的な夫婦生活というものなのね。)

※違います



「ファイトですわ旦那様。」

「お仕事頑張ってー!」


 嫁と友人に見送られ、ケイスは領地の視察へと出掛けた。


「あの人、今まで仕事してなかったんだね。」


「前はちゃんとやっていましたけど、最近は全然ですわ。」


「今日は何して遊ぶ?」


「今度は私が魔法を込めてみたいと思います。こう見えても二級魔法士レベルはありますのよ?」


 二級魔法士とは一流の魔法使いのことである。ちなみに一級は小国と個人で戦争できるレベルで、そこまで到達する者は滅多にいない。


「それならさ、一緒に魔法を込めてみようよ。」


「それは……楽しそうですわ!」


 そう言って2人はウキウキしながら、魔法を込める為の素体を探し始める。


「このオマルなんて良いんじゃない?」


「まあ、可愛らしいオマルですわ。」


 キャロルが見つけたのは白鳥型のオマルであった。


「じゃあ同時にやってみよっか。」

「じゃあ同時にやってみましょう。」


 2人は一緒に魔法を込める。キャロルは回復魔法を、セリアは得意の火の魔法を。


 飽きもせずに3時間程魔法を込めていたところ……



 にょきにょきとオマルからは立派な脚が生えてきた。

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