第7話 白鳥ですわ
「脚が生えましたわ。」
「そうだね。」
唐突に白鳥はその立派な脚で駆け出す。
「追いましょう。」
「そうしよう。」
白鳥の後を追っていくと、何やら怪しげな地下室へと辿り着いた。
先に着いていた白鳥は、地下室の扉をゲシゲシと蹴っている。
「開けて欲しいみたい。」
「開けましょう。」
そう言って扉を開けると、白鳥は周囲を警戒するようにきょろきょろと辺りを見回し、ゆっくりと進んでいく。
「ここ……寒いね。」
「何だか不気味ですわ。」
地下室の中は、まるでそこだけが別世界であるかのように寒々しく、ずっと放置されていたのか、埃をかぶった様々な物が乱雑に積まれている。
薄暗く、お化けでもいるかのような雰囲気を感じさせるその部屋は、年頃の娘2人を恐怖に追い込むには十分だった。
「もう引き返さない?」
「でも、白鳥さんが……。」
「ここ、何か怖いよ。ねえ、帰ろうよぉ。」
キャロルは何かを感じているのだろう。しきりに帰りたがる彼女は、弱弱しくセリアを引っ張る。
セリアもこの部屋にはあまり居たくないと思っていたが、白鳥が気になるようだ。
「白鳥さんをこんな所に置いて帰れませんわ。」
バタン!
「「ひぃぃっ!」」
突然後方で扉の閉まる音がした。
それと同時に入口から差し込む唯一の光を失ってしまい、周囲は暗闇に包まれる。
「ファイアボール。」
セリアが呟くと、彼女の手には炎の玉が出現し辺りを照らす。
「あっ。白鳥が……」
白鳥の方へ視線を向けると、黒い棺が置かれていた。入口の扉同様に棺をゲシゲシと蹴っている。
「バチあたりですわ。」
「やめさせなきゃ!」
2人が止める間もなく棺からは黒いモヤが溢れ出てきた。
そのモヤは人型を形成し、人間の姿をとる。
かなりのイケメンになってしまった。
彼からは強大な魔力が迸っている。
【我の眠りをさまたげし者は……】
ゲシゲシ
【誰だぁぁぁ!】
ゲシゲシ
【っやめろ!】
ゲシゲシ
「あぁ……お化けですわ。」
(なんと恐ろしい。)
「怖いよおお。」
キャロルは泣いてしまった。
【お化けではない。我は悪魔だ。】
ゲシゲシ
「悪魔? かつては数多の国々を混乱に陥れ、その強大な戦闘能力は一級魔法使いでようやく勝負になると言う、あの悪魔ですの?!」
ゲシゲシ
【説明臭いセリフをどうも。後、こいつをいい加減やめさせろ!】
白鳥は悪魔の言葉に反応し、ピタリと蹴りつけるのをやめる。
そして……
【我に恐れをなしたか。】
口から特大の聖なる輝きに包まれた炎を吐き出した。
【ギャアァァァァァァ!!】
「あっ。ですわ。」
悪魔の強大な魔力はどんどん萎んでいく。
【合成魔法だと!? アヒル如きがぁぁぁぁぁぁぁ!!】
「白鳥ですわ。」
悪魔は小人と言って差し支えない程の大きさまで縮んでしまった。
「まあ可愛い。連れて帰りましょう。」
「え? 悪魔だよ?」
「悪魔だって、心を込めて育てれば良い子になりますわ。」
「そうかなぁ?」
「どんな不良だって、人の子です。」
「不良ってレベルじゃないでしょ。しかも人じゃないし……。」
セリアは小人と化した悪魔をひょいと拾い上げ、抱きしめる。
「キャロルは白鳥さんを連れてきて下さいな。」
白鳥は疲れているようで、棺の側に横たわっていた。
「ただいま。久しぶりに仕事を頑張ったよ。」
「お帰りなさいませ。旦那様。」
「お帰りー。」
ケイスを出迎える2人の横には白鳥が佇んでいた。
「新しいペットかい? ……ちょっと待て。ペットかこれ?」
白鳥からは若干筋肉質な脚が生えていた。
回復魔法の壺とどちらが不気味かと聞かれれば、甲乙つけ難い程度には気味が悪い。
「白鳥さんは回復の壺の兄弟ですわ。」
「まさか……。」
「そのまさか、ですわ。」
先程の出来事を説明するとケイスは驚愕した。
どうやら地下室は開かずの間となっており、悪魔が封印されていると言い伝えられていたそうだ。
ちなみに悪魔は消滅した。
セリアが部屋に連れ帰ったあと、目を離した隙に白鳥が聖なる炎で滅してしまったのだ。
「合成魔法か……それで悪魔を退治したのか。」
「はい。白鳥さんが頑張ってくれましたわ。」
「ところで、合成魔法って何だ?」
「知らない。」
「聞いた事がありませんわ。」
合成魔法については誰も知らなかった。
「言葉から察するに、属性の違う魔法を合成して放つんでしょうけど……。」
「そんな事出来るの?」
「白鳥さんは使っていましたわ。ですわよね?」
セリアが白鳥に尋ねると、白鳥は首をカクンと下へ傾ける。
その通りだったらしい。
「その……白鳥? は人の言葉が理解出来るのか?」
「こうして返事も出来ますし、理解出来ているのではないでしょうか。」
「ふむ。ではその合成魔法とやらを教えてもらおうか。」
「白鳥に聞くの?」
お前にプライドは無いのかとでも言いたげな顔をするキャロル。
「世紀の大発見じゃないか。習得してみたいだろ?」
(やっぱり旦那様も男の子ですわね。)
3人は白鳥に頭を下げ教えを乞う。
大人3人が雁首揃えて脚を生やした白鳥型のオマルに頭を下げているのだ。第三者が見た場合、怪しい新興宗教の儀式か何かと勘違いしてしまうだろう。
「あの……何をなさっているのですか?」
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