第4話 お友達ですわ

「おはようございます旦那様。本日はオワコン商会より譲り受けました、魔道具事業の視察へ行って参りますわ。」


「オワコン商会……から?」


(旦那様ったら資料を読んでいないのね。)


「そうですわ。しっかり業績を伸ばし、ベリオーテ家を盛り立てるのです!」


 腕に力コブを作り、頑張りますアピールするセリア。その様子を見たケイスの目尻が下がる。


「そ、そうか。」


「では行ってきますわ。」


「頼んだぞ。」






「本日よりオワコン商会からこの魔道具事業を譲り受ける事になりました、セリア=ベリオーテと申します。皆様と共に事業を発展させていきますので、どうぞ宜しくお願い致しますわ。」


 その挨拶を聞いた職人達は、戸惑いを隠せないようでざわついている。


「今後は“オワコン魔道具工房”から“セリア魔道具工房”と名を改めまして、事業を展開致します。手始めに、この資料に目を通して下さいな。」


 そう言って彼女は資料を全員に配る。


「この資料は、私が今まで得た研究成果に基づいた魔道具技術の一部です。これがあれば、他の魔道具とは比較にならない高性能な物を開発出来ると思います。」


 そう……このブッ飛び公爵夫人は幼い頃から一人で魔道具研究を行っており、魔道具技術においては現行技術の200年は先を行っている。


 彼女は一度見聞きしたものは忘れないし、得た知識を応用する事にも長けていた。


 ただ面白がって悪戯放題して生きてきたワケではないのである。多分……。


「皆様には、既存の魔道具の高性能化と低コスト化を実現して頂きます。期限は……2ヵ月でお願い致しますね?」


 そう言い残すと、彼女は優雅に去っていく。


 残された職人達は資料に目を通すと、与えられた知識に歓喜し、急いで魔道具開発に取り掛かるのだった……。





「はぁー。今日のお仕事は終わりですわ。後は何をして遊ぼうかしら。」


 そう言って馬車に乗り込もうとしたセリアはある光景を目にする。




「おうおう! 俺様にぶつかっておいて無視とは良い度胸じゃねえか!」


「そ、そんな……謝りました……。」


「あぁ? 聞こえねえぞ!」


「ひっ!?」


「あーあ、骨が折れてんなあ。治療費、くれるよなぁ?」




 白昼堂々と大通りで恐喝している男がいた。


(これは……。あの有名なカツアゲというお仕事ですわ。)


 セリアは馬車に乗り込み、御者にこう告げる。


「あの男を轢きなさい。」


「え?」


「聞こえませんでしたか? あの男を轢きなさい。女の子の方を轢いてはいけませんよ?」


「わ、わかりました。」


「では……」


 セリアはゴホンと咳払いをし……


「ハイヨーシルバー!」


 と叫ぶ。


 彼女曰く、馬に乗ってシルバーと叫ぶのは常識なのだそうだ。


 馬車は勢いをつけカツアゲ男へと突進。


 ドンと音がしたかと思えば、轢かれた男はポーンと明後日の方向へ飛んで行った。


 セリアは何事も無かったかのように馬車を降り、女の子に話しかける。


「大通りは暴走馬車が来るから危ないですわよ?」


 女の子は突然の事に驚きを隠せないようだが、それでも自身が助けられた事は理解したようで礼を言う。


「あ……ありがとうございます。何とお礼を言えば良いのか……。」


「お礼? その言い方だと、まるで私が故意に轢いたみたいじゃない。馬が言う事を聞かなかったんですわ。」


 なんて悪い子なのかしら、と馬を撫でるセリア。


 一連の流れを見ていた通行人達は皆が思った。


 どう考えてもワザとだ……と。


「あら? 貴女……ジャスミン?」


「いえ……キャロルですが。」


「何言ってるの? 貴女ジャスミンって顔してるじゃない。」


「あの……痛いっ!」


「足を捻ったようね。さあ乗ってジャスミン」


「え、あ……違っ……」


「遠慮しないで、友達じゃない。」


 そう言って彼女を馬車に乗せるセリア。


「公爵邸に帰りますわ。ハイヨーシルバー!」




 そうして帰宅したセリアは、ケイスに先程の出来事を報告する。


「旦那様。お友達のジャスミンが怪我をしてしまいましたので、連れてきましたわ。」


「それはいけない。ゆっくりしていくと良い。」


「あ、あの……ありがとうございます。」


「お部屋に行って休憩しましょう。さ、私の肩につかまって下さいな。」


 セリアは彼女に肩を貸し、自室へと連れて行く。


「お医者様を呼んでくるから待っていて下さいまし。」


 そう言って医者を呼びに行ったセリア。


 バタンと扉が閉まる音がする。


「あ、私……キャロルなんだけど。」


 彼女の小さい声は、静寂な室内に響き渡る。


 正直言って、戸惑いを隠せないキャロルであった。


「助けてくれたのは嬉しいけど、自分で治療出来るし……。困ったな。」


 キャロルの手が淡く輝き、足首の赤みが引けていく。


「ふう。これで治っ……」


 ふと彼女が入口に目を向けると、扉の隙間からじーっと見ているセリアと視線がぶつかる。


「見ましたわ! やっぱり貴女、普通の人ではなかったんですのね!」


「っ!?」


「回復魔法。初めて見ましたけど、不思議ですわ。」


「……私をどうするつもりですか?」


 キャロルは警戒心を剝き出しにし、言葉を発する。


「別に、どうも致しませんけど。」


「嘘よ。きっと回復魔法を使わせる為に、私をずっと閉じ込めておくんでしょ!?」


「そんな事しませんわ。そうすると貴女が嫌がるじゃない。」


 ストレートな物言いに毒気を抜かれるキャロル。


「私が嫌がるから?」


「そうですわ。お友達に嫌がらせなんて致しません。」


「ともだち? いつから……」


「最初からですわ。貴女を一目見た時から、友達だと思いましたの。」


 キャロルからすれば、全く意味が分からない。


 それもそのはず、一言も会話する事なくいきなり友達認定されていたのだから……。


 ブッ飛び公爵令嬢の称号は伊達ではない。


「あの……私、キャロルって言うんだけど。」


「そうだったの? ジャスミンみたいなお顔だったので、てっきりジャスミンかと思っていましたわ。」


「どういう事?」


「私、お顔から相手の名前を推測するのが得意なんですわ。今のところ的中率は65%ですの。」


「……」


 高いようでいて、それなりに外すという微妙な確率であった。

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